理念は優秀人材獲得の決め手となるか?!中小企業の採用力を高める“理念共感型採用”とは?
事業成長のために採用を進めたいけれど、待遇や福利厚生で大手企業にはかなわない……。そのようなお悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか?
いま、特に若手人材を中心に、「働く意味」や「企業の価値観」に共感して入社先を選ぶ動きが強まっています。そうした中で注目されているのが、“理念”を起点にした「理念共感型採用」です。
条件面で勝負しづらい中小企業にとって、“理念”を軸とした採用は、強力な武器になる可能性があります。しかし、「共感」に頼りすぎることで、期待とのギャップや早期離職につながるリスクがあるのも現実です。
果たして、理念だけで人は本当に採用できるのか。そして、その後の定着は──?
そんな疑問に答えるため、今回はウォンテッドリー株式会社 取締役COOの恩田将司さんに、理念共感型採用のメリットと注意点、そして従業員に対して理念をどう浸透させていくべきか、実践的なヒントまで伺いました!
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恩田 将司(おんだ・まさし)さん ウォンテッドリー株式会社 取締役COO
慶應義塾大学経済学部卒業後、リクルートスタッフィングに入社し、営業や経営企画、新規事業開発を経験。 その後リクルートテクノロジーズ(現リクルート)での開発マネジメントを経て、2019年4月にウォンテッドリーに入社。Visit事業での営業企画、Engagement事業の事業責任者を経て、2022年12月より現職。
「何のために働くか」が問われる時代に
「働く意義」を求める時代へ
──ここ数年で、「理念共感型採用」という言葉を耳にする機会が増えました。その背景にはどのような変化があると感じていますか?
恩田さん:一番大きいのは、働くことの意味や意義を重視する世代が台頭してきたことですね。かつては「仕事=生活費を得る手段」という考え方が主流でしたが、今は「仕事を通じて何を成し遂げたいか」「どんな人と働きたいか」といった視点が重視されるようになってきました。
──おっしゃるとおり、
──マイナビの転職活動に関するアンケートの中でも、若手ほど「給与を高くしたい」理由で転職活動する割合が低く、ライフスタイルに合わせた多様な働き方を重視する傾向が見えます。
恩田さん:はい。加えて、SNSの影響も大きいでしょう。個人が自分の価値観やライフスタイルを発信できる時代になったことで、「自分らしく働く」という意識がより強まってきています。そういった社会の中で、企業も「自分たちが何者で、どんな価値を提供するのか」を明確にする必要が出てきました。
価値観の一致が、最大の魅力になる
──なるほど。仕事観の変化が影響しているのですね。
恩田さん:そうですね。そしてもちろん、ここ十数年で「転職が当たり前」の時代になったというのも大きいです。求人サイトをのぞけば、自分の今の職場よりも良さそうに見える会社がたくさん見つかり、どれも魅力的に見えるでしょう。
その中で多くの求職者の心をつかむには、福利厚生や待遇といったスペック情報だけでなく、求職者それぞれが考える「自分らしく働ける環境」や、「同じ価値感を共有できる仲間がいる会社」であるということを、しっかり差別化して訴求することが重要です。
──待遇や福利厚生で不利な中小企業でも、価値観や理念の一致という形で応えることは可能ですね。
恩田さん:はい。加えて、働く場所や働き方の選択肢も増えています。リモートワーク、副業、フリーランスなど、多様な働き方が許容されるようになり、企業は「選ばれる側」としての姿勢がより一層問われています。理念共感型採用は、その土俵において中小企業が勝負できる数少ない戦略の一つなんです。
“理念共感”がもたらす2つのメリット
「リアル」を伝えて共感を生む
── ではここから、具体的に理念共感型採用に期待できる効果について教えてください。
恩田さん:大きく2つあると思っています。1つ目は、待遇で勝てない中小企業でも“想い”を伝えることで採用競争に勝てること。2つ目はマインド面のミスマッチが減り、結果として定着・活躍につながることです。
──実際に理念共感型採用で成功した事例はありますか。
恩田さん:当社で支援している八百屋さんでは、理念への共感を軸に採用してとても良い人材を確保できています。決して大企業ではありませんが、仕事の泥臭さも含めて“リアル”を発信し、そのスタイルまで含めて共感してくれる人材を採用してきました。
彼らは給与条件や職場の華やかさでは大手に勝てないかもしれません。でも「この会社が目指していることに共感した」「この社長と一緒に働きたい」といった理由で応募してくれる人材は、離職率も低く、入社後の活躍も期待できます。
共感の先にあるエンゲージメント
──なるほど。採用だけでなく、入社後にもいい影響が出るのですね。
恩田さん:はい。会社の目指す方向と、社員の目指す方向が一致していれば、同じ目標に向かって走ることができます。共感によって“矢印”の方向がそろうことで、自然とモチベーションが維持され、活躍にもつながるんです。
──共感を軸にした採用は、まさに“人の質”を重視した戦略と言えそうですね。
恩田さん:そのとおりです。数より質を重視し、採用ターゲットを「理念に共感してくれる人」と明確化したことで、採用に成功した良い事例ですね。
理念“だけ”では人は定着しない!導入時の注意点と落とし穴
“今すぐ欲しい”には向かない
──理念共感型採用は魅力的な手法ですが、一方で課題や注意点はありませんか?
恩田さん:もちろんあります。まず、理念共感型採用は大量採用やスピード重視の採用には不向きです。なぜなら、理念をしっかり言語化して、社内外に発信していくには時間と手間がかかるからです。
──「今すぐ人が欲しい」には対応しにくい、ということですね。
恩田さん:はい。理念を軸にした採用は、フィットする人材を迎え入れるために、自社の魅力の言語化や、入社後のフォロー体制など、採用・育成の仕組みをじっくり整えていく必要のあるアプローチです。 ですので、「来月までに10人採りたい」といった採用ニーズにはあまり適していません。理念をつくり、発信し、共感してもらい、選考し…というプロセスにはそれなりの時間が必要です。
ギャップが離職を招くことも
恩田さん:他にも、理念に引かれて応募する人ほど、ギャップを感じたときのショックが大きいという声があります。
特に、求職者として触れていた「外向けの発信」で期待していたものと、実際の社内制度や文化にズレがあると「思っていたのと違った」と、強いショックを受けて早期離職の原因になりかねません。
例えば、「チャレンジ歓迎」とうたっているのに、いざ入社してみたら年功序列で新しい挑戦ができない……そんなギャップがあると、期待していた分だけ失望も大きいですよね。
──「理想」と「現実」の落差は、当然あってはならないことですが、細部まで確認することも重要そうですね。
恩田さん:はい。理想を語るのは良いことですが、それが実態と乖離(かいり)していないか、細部まで注意を払って常に見直し続けることが必要です。
採用時点だけでなく、入社後のオンボーディングや人事評価、育成などの制度にも理念を反映させておかないと、「理念“だけ”の会社」になってしまいます。むしろ理想を語るからこそ、現実の制度や文化との“整合性”が問われる採用手法だと言えます。
理念はどう言語化する?社内での見つけ方・育て方
理念の言語化、どこから始める?
──「理念共感型採用を始めたい」と思ったとき、最初に企業が取り組むべきことは何でしょうか?
恩田さん:まずは、会社としてのMVV※(ミッション・ビジョン・バリュー)を明確に言語化することですね。ただし、言葉をきれいに整えるよりも、自社が何を大事にしているのかをしっかり突き詰めることが大切です。会社の“文化”や“風土”についても同様に突き詰め、言語化してみてください。
関連記事:守りと攻めで考える「採用基準」の作り方――中小企業が採用に失敗しないための2つの視点
──「MVV・文化・風土」ですね。言語化は難易度が高そうです(苦笑)。特に中小企業では、「MVVなんて言えるほど立派なものはない」と感じる方も多いように思います。
恩田さん:はい。ですが、社長の言葉や現場のエピソードにこそ、“生きた理念”が宿っている場合が多いんです。私は、「ミッションは創業エピソードに立ち返って見つけるといい」とよくお話ししています。
──具体的に、どんなエピソードが理念につながるのでしょうか。いい事例はありますか?
恩田さん:そうですね。多くの場合、創業エピソードの裏には「起業によって解決したい課題」があるはずです。
技術やアイデアで世の中を少し良くしたい、夢をかなえたい、というようなものです。そして、その思いを持つまでの背景、その思いから現在の事業にまでつながるストーリー。そんなものを聞いていくと、自然と「事業を通じて叶えるべきこと」、つまりミッションが明確になっていきます。
空気感を捉える──文化・風土の見つけ方
──“文化”や“風土”に関しても言語化が難しそうですが、何かいい手法はありますか?
恩田さん:そうですね。“文化”は、評価制度を見直すとヒントが得られることが多いです。例えば、新規受注の件数に応じてインセンティブがある会社なら、挑戦や行動力を重視する文化だといえます。「何が評価されるのか?」「どんな行動が求められているのか?」には、その会社の価値観が色濃く表れていると思います。
“風土”については、社員同士の距離感やコミュニケーションの取り方に注目すると良いでしょう。例えば「週末に飲みに行く文化があるか」「仕事とプライベートをきっちり分けているか」など。言語化しづらい“空気感”も、観察すれば輪郭が見えてきます。
※MVV:企業の経営理念を構成する3つの要素、Mission(ミッション:使命・存在意義)、Vision(ビジョン:目指す姿・将来像)、Value(バリュー:行動指針・価値観)
伝え方3段活用!ストック・フロー・対話
理念は「伝え方」で差が付く!
──MVVを言語化できたとして、それを求職者にどう伝えるかも課題になりそうです。
恩田さん:はい。私は「ストック型」「フロー型」「直接体験型」という3つの伝え方を意識するのが良いと考えています。
──順に教えてください。
恩田さん:まず「ストック型」は、採用ページや会社紹介資料など、誰でもいつでも見られる情報のことです。ここでは会社のミッションや文化をしっかりと打ち出します。
次に「フロー型」は、ブログやSNS、社員インタビューなど“日々動いている情報”です。社員の人柄や現場の雰囲気を伝えるのに適しています。
そして「直接体験型」は、カジュアル面談やイベントなど、人と人が直接会って話す場ですね。これは何よりも強力です。理念と現場のリアルが一致しているかを、本人の目で確かめてもらえるからです。
“ズレ”を防ぐ、リアルなコミュニケーション
──確かに、対話は“ズレ”の調整にもなりますね。
恩田さん:まさにそうです。候補者が、自社の発信内容や社員の雰囲気を通じて、期待を過剰に膨らませてしまうことは意外と多いんですよね。いわゆる“理想化”です。しかし、対話型のコミュニケーションであれば、その場で『うちの会社を理想化しすぎてないかな?』とすり合わせができるし、実際の働き方や組織のリアルな面も伝えやすい。
ストック・フロー・対話、この3つのバランスが取れてこそ、理念がしっかり伝わっていくのだと思います。
関連記事:人事・面接官必見!候補者の志望度を高める「面接コミュニケーション術」とは?
中間管理職が担う、理念浸透の推進力
──社外(求職者)だけでなく、社内への理念浸透も重要ですよね。
恩田さん:そうですね。社内向けだとポスター掲示や朝礼で社長が話すなどがありますが、社外への発信も社員の目に触れ、結果的にインナーブランディングにつながっているので重要です。
さらに、理念を社内に浸透させるには、「中間管理職の行動」がカギになると考えています。メンバーに対し、「その行動は当社の価値観に合っていて良かったよ」「それは理念から外れているからダメだよね」というふうに、日々コミュニケーションの中で伝えていくことで、理念は現場で生きたものとして機能していくと思います。
“見て・触れて・話して”という繰り返しでようやく共通言語になりますので、五感で感じる機会を意識してつくってみてください。
共感で入社したからこそ、オンボーディングが肝心
──共感型採用で入社した人には、どんなオンボーディングが必要でしょうか?
恩田さん:一番大事なのは、「期待値の調整」です。理念に共感して入ってきた人ほど、自分なりの理想像を描いています。また会社が発信した情報を、自分に都合よく解釈してしまうこともあります。キラキラしたことだけでなく、リアルを伝える努力も必要です。
──なるほど。理想と現実のギャップを埋めることも重要なのですね。
恩田さん:はい。そしてそのためには、入社歴が浅いメンバーへのヒアリングが非常に有効です。感情の揺れを定期的にキャッチし、ギャップを小さなうちに埋めていく。そうした地道なコミュニケーションが、共感で入った人の定着と活躍を支えると考えています。共感で入った人は、「この人たちと働きたい」と思っている場合が多いので、入社初期の人間関係づくりはとても大切だと思いますね。
理念は変化していい。企業成長との“ずれ”との向き合い方
──理念は一度つくったら変えてはいけないのでしょうか。
恩田さん:理念って、実は“変わり得るもの”なんです。事業フェーズが変わったり、新しい人材が増えたりすると、必要な価値観も少しずつ変化していきます。
──例えば、スタートアップが成長して大企業に変化するようなケースですね。
恩田さん:そうです。創業初期は「なんでもやる」が評価されたけれど、組織が大きくなると「仕組み化」が求められます。そうすると、以前の理念やバリューでは逆に不都合が出てきます。実際、企業体質の変化に伴い、大量退社が生まれてしまう場合もありますが、
それは企業の成長にともなう自然淘汰(とうた)と言えるでしょう。
理念を更新することは悪いことではありません。むしろ「今の会社に必要な矢印はどこを向いているのか?」を定期的に見直すことは、採用活動においても大切なプロセスだと思います。
理念は“整ってなくても”、まずは言葉にしてみる
理念共感型採用は、即効性のある手法ではありません。時間も手間もかかりますし、待遇や給与面の整備ももちろん必要です。しかし、「この会社に共感した」という理由で入社した人は、困難にも粘り強く向き合い、やがて組織の文化を支える存在になります。
完璧な理念をつくろうとする必要はなく、まずは社長の一言からでも構いません。自社の「想い」を言葉にし、それを伝え続けることが、採用を変え、組織を育てていく第一歩になるのだと思います。
- 人材採用・育成 更新日:2025/09/19
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