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エンジニア採用のカギは「技術広報」 ──非エンジニア人事が果たすべき本当の役割と始め方

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エンジニアの採用競争が激化する中、多くの企業が求職者の関心を引ける「採用広報」の方向性を模索しています。

求人票でアピールすべき項目は何か。「テックブログ(技術ブログ)」を始めた方がいいのだろうか。打ち出すべきは成長環境か、快適な開発環境か……。

こうしたエンジニア向けの採用広報は、ビジネス職やバックオフィス職向けの採用広報とは分けて、「技術広報」とも呼ばれます。

この技術広報を成功させることは、非エンジニアの採用担当者にとっては非常に難しい挑戦です。

そこで今回は、株式会社WHOM 取締役COOの中島佑悟さんにお話を伺いました。これまで、多角的にHR領域に携わってきた中島さん。エンジニア採用・広報の現場に精通する専門家として、技術広報に取り組む上での考え方や実践のポイントを伺いました。

「非エンジニア人事でもできる技術広報とは?」「現場をどう巻き込む?」──そんな疑問に答える知見を、全3部構成でお届けします。


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  • 中島 佑悟(なかしま・ゆうご)さん 株式会社WHOM 取締役COO

    メディア系ベンチャー企業数社でビジネス部門の立ち上げを経験したのち、HR業界へ。2023年より現職。著書に「作るもの・作る人・作り方から学ぶ 採用・人事担当者のためのITエンジニアリングの基本がわかる本」、「データ分析営業 仮説×データで売上を効率的に上げよ」など



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技術広報とは何か? — 技術への向き合い方を伝える採用施策

一般的な採用広報との違い

— 一般的な採用広報と、エンジニア向けの「技術広報」、それぞれの役割の違いはどこにあるのでしょうか?

中島さん:一般的な採用広報は、企業の魅力や働きやすさ、カルチャーを広く伝える活動です。一方で採用文脈における技術広報は、「技術的な魅力」をいかに伝えるかに特化した採用広報活動と言えます。

特にエンジニア職においては、「どんな技術に触れられるのか」「どういう仲間と開発するのか」「どんな課題に向き合っているのか」といった情報が意思決定に大きな影響を与えます。そのため、この技術広報にどう向き合い、何を発信するかが成果に直結するのです。

— なるほど。魅力の発信によって応募の「数」を集めることはもちろん、自社と親和性の高い候補者と出会うための施策でもある、というわけですね。

中島さん:はい。おっしゃるとおり、「カルチャーや技術的指向性が合う人に届ける」ということが重要になってきます。

なぜなら、エンジニアの視点から見れば、企業が技術的な内容を発信すること自体が、その企業の“スタンス”を表すシグナルになるからです。それに共鳴・共感した人が自然と集まってくるというのが、理想の形だと思います。

エンジニアに「響く」情報とは

— では、技術広報において、具体的にどのような情報がエンジニアに響くのでしょうか?

中島さん:前提として、一人ひとりの志向は異なりますので、各社ごとにターゲットのインサイトを分析する必要はあるでしょう。

しかし、一般的に「実際にどのような環境で開発しているか」「どのような技術的な工夫をしているか」といった“中身”が重要と言えますね。

例えば開発プロセスの変遷、技術選定の背景、トラブル時の対応のリアルとして本番環境で障害が起こったときの原因究明から復旧までのエピソードなど、公開できる範囲で現場の1次情報があると刺さりやすいはずです。

また、エンジニアって、「企業の技術に対する姿勢」をすごく見ています。単に最新技術を使っているかどうかよりも、技術的なチャレンジをどう捉えているか、組織として技術にどれだけ向き合っているか、みたいなところに注目している印象です。

— 技術そのものより、「どう向き合っているか」が問われているので、その方向性で発信をすると共感を得やすいということですね。

中島さん:まさにそのとおりです。技術広報の肝は、単なる実績紹介ではなく、「思想や姿勢」を言語化することにあります。それが結果的に、自社に合うエンジニアとの出会いにつながっていくわけです。

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非エンジニア人事の役割は、エンジニアに伴走し、読者に向き合う編集者

技術を「分からない」人が担う広報のリアル

— 技術広報に取り組む上で、多くの人事担当者が「自分はエンジニアじゃないから分からない」と感じていると思います。専門的な内容を扱う上で、非エンジニア人事にできることはあるのでしょうか?

中島さん:その感覚はすごく自然なものですし、無理に「技術を理解しよう」とする必要はないと思います。人事が果たすべきは、「読者(候補者)視点でコンテンツを整える」という役割です。

例えば、エンジニアが書いたテックブログ(技術ブログ)の原稿に対して、「この言葉、候補者に伝わるかな?」と問いを立てるだけでも大きな意味があります。読みやすさや伝わりやすさという視点は、むしろエンジニアより、人事の方が持っていることも多いですから。

— 「技術の分からなさ」を武器にしていい、と言い換えられそうです。

中島さん:そうですね。例えば「非エンジニアの自分が読んでも理解できる明瞭さがあるなら、候補者にも必ず理解できる」という視点でなら、レビューできますよね。これは立派な編集の視点であり、候補者理解の視点でもあります。

自分を“素人の代表”として位置付けることで、チーム全体の発信クオリティはむしろ上がると考えて、自信を持って臨んでください。

「読者を想定した対話」が人事の仕事になる

— 技術広報において、人事はエンジニアとどう関わるのがスムーズなのでしょうか?

中島さん:それぞれの役割を最大化できるのは、「その情報が誰に届いてほしいか」を人事とエンジニアが一緒に考えることです。

エンジニアは、技術のことは当然よく分かっているけれど、それを「どう伝えるか」「誰に伝えるか」を意識する機会は案外少ないんですよね。

ですから、「今回のブログはこういう層に向けて書くといいかも」とか、「過去の応募者でこういう人がいたから、こういう話題が響くかも」みたいな、人事ならではの「読者解像度」を生かした提案ができると、エンジニア側も書きやすくなるし、納得感も高まります。

— まさに編集的な伴走ですね。

中島さん:はい。結果として人事とエンジニアが、「これ、伝わるかな?」「もっとこういう切り口もあるんじゃない?」といった対話ができると、自然と広報物の質も上がります。 人事はエンジニアの知識を理解する必要はなくて、むしろ「届け方の専門家」であればいいんです。

現場エンジニアを巻き込むコツ

協力してもらうには「強制しない、でも諦めない」

— 技術広報に取り組もうとするとき、多くの人事担当者がまず悩むのが「どうやってエンジニアに協力してもらうか」です。実際、エンジニアに情報発信を依頼するのって難しい印象があります。

中島さん:そうですね、正直、難しいことも多いです(笑)。でも、だからこそお願いの仕方が重要なんですよね。

ポイントは「強制しない、でも諦めない」ことです。

最初から「全社でやります!」みたいに大きな旗を振ると、エンジニア側も構えてしまいます。むしろ、興味がありそうな人にそっと声を掛けて、「ちょっと話を聞かせてもらえませんか?」くらいのトーンから始めるのがいいんじゃないかと思いますね。

— なるほど。最初から「書いてもらう」前提ではなく、「話すこと」から入るんですね。

中島さん:そうです。「一緒に壁打ちさせてください」とか、「最近やったことで面白かったことはありますか?」と軽く聞くところから始める。

そこから「それ、めっちゃ面白いですね。ぜひ外に出しません?」とつなげていく。つまり、“書いて”ではなく、“話して”もらってから、そこに人事が入って、形にしていくというステップです。

このプロセスを踏むと、エンジニア側の心理的ハードルもかなり下がると思いますよ。

「発信に前向きな人」だけでチームをつくる

— それでも、「忙しいから無理です」と断られることもあると思います。まずどんな人に声を掛けてみるのがいいのでしょうか?

中島さん:無理に全員を巻き込もうとしない方がいいですね。発信に前向きな人、もしくは「面白がってくれる人」だけで十分です。

社内の技術広報って、最初はどうしても草の根活動になります。でも、そこで火が着くと、自然と周囲も「なんかやってるな」と気にし始めるんですよね。

そうなると「自分も書いてみようかな」と思う人が出てくる。つまり最初は、“種火”を作る人たちにフォーカスするのが大事なんです。

— 最初は「巻き込む」というより、「伴走する」イメージですね。

中島さん:おっしゃるとおりです。

そもそも「自分の言葉で語る」って、エンジニアにとっても自分の仕事を整理するきっかけになるんですよ。

だから、無理に引っ張るより、「語ってもらう場をつくる」ことで、結果的に協力者が自然と育っていくと考えています。

「書かせる」のではなく、「まずは話してもらう」。発信は一緒に育てるもの

— テックブログなどは「エンジニアが書くもの」と思われがちですが、書く以外にもいろんな協力の形がありますよね。

中島さん:本当にそうで、「書く」ってすごくエネルギーがいることなんです。

だからこそ、「いきなり文章を書いてください」じゃなくて、「内容だけ話してもらえれば、こっちでまとめます」くらいのスタンスで始めるのがいいと思います。

録音してテキスト化して、仮原稿にして、「これで合っていますか?」と確認を取る。そこから「この部分はもうちょっとこう言いたい」とフィードバックをもらって、完成に近づけていく。このプロセスに寄り添うことで、エンジニア側の安心感も全然違います。

— 「一緒に発信を育てていく」感覚ですね。

中島さん:まさにそれです。人事が“編集者”として伴走できれば、エンジニアも「ちゃんと届けたい人に届きそうだ」と期待できます。その実感が、次の協力にもつながっていくんです。


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技術広報がもたらす社内外の変化

候補者の解像度が上がると、採用の精度も上がる

— 技術広報に取り組むことで、実際の採用活動にはどのような変化があるのでしょうか?

中島さん:一番大きいのは、「事前に理解してくれている」人が応募してくれるようになることです。

例えば開発体制とか、技術スタック(自社が保有する開発ツールや開発環境)、開発サイクルのスピード感とか、あらかじめ公開されている情報からイメージを持った上で応募してくるので、面接でも「その話、見ました」って言ってもらえるんですよ。

そういう候補者って、カルチャーや開発環境に対してミスマッチが起きにくい。お互いに前提を持っている状態で話ができるので、採用の精度が格段に上がります。

— 候補者の「温度感」が高い状態で会えるというのは、現場にとってもありがたいですね。

中島さん:本当にそうです。「採用で一番コストがかかるのはミスマッチだ」とよく言われますが、それを減らす意味でも、技術広報はかなり効いてきますね。

社内にも変化が生まれる

— 外向けの発信が、社内に与える影響もありますか?

中島さん:ありますね。例えば、「この前あがってたブログ、読みましたよ」って社内で声を掛けてもらえると、発信したエンジニア自身のモチベーションにもつながるんです。

あと、広報することを前提にアウトプットを整理していくと、自分たちの開発の進め方や技術選定を言語化せざるを得なくなる。これって、組織としての思考の整理にもなるんですよね。

— 社外に向けた活動なのに、社内の技術文化にも波及する、と。

中島さん:まさにそうです。社内に「発信するのが普通」という空気ができると、勉強会やナレッジ共有も活発になるし、振り返りの質も上がります。

技術広報って、採用目的で始めたとしても、長い目で見れば組織づくりにも良い影響を与える取り組みだと思っています。

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これから始める人へのアドバイス

最初から「成果」を求めすぎない

— 最後に、これから技術広報に取り組もうとしている企業や人事担当者に向けて、アドバイスをいただけますか?

中島さん:まず一つ言いたいのは、「いきなり完璧を目指さなくていい」ということです。

発信って、どうしても「効果が出るのか?」「うまく書けるのか?」と構えてしまいがちなんですけれど、そもそも最初からうまくいくものではないんですよね。

むしろ、何回かやってみて、「こういう内容だと読まれる」「これは読まれない」という学びを得ることに意味があります。

最初のうちは、“成果を出すこと”よりも、“習慣化すること”の方が大事だと思っています。

— 「まずは小さく始める」でもいいんですね。

中島さん:はい、小さくてもいいから、まず“出す”ことが大事です。

例えば社内のナレッジ共有を外部向けに一部展開してみるとか、日報の一文を整えてブログにするくらいでもいい。そうやって、「発信するってこういうことなんだ」という感覚をつかむところから始めるのがいいと思います。

「発信」は、エンジニアと人事の共通言語になる

— 特に人事とエンジニアがうまく連携できていない場合、どこから一歩を踏み出せば良いのでしょうか?

中島さん:まずは「話を聞かせてください」でいいと思います。エンジニアから見て“人事が自分たちのことを理解しようとしてくれている”と伝わるだけで、関係性は全然変わってきます。

そこから、「それってすごく面白いですね。もう少し詳しく聞かせてもらってもいいですか?」と話を深めていく。で、出てきた話をちょっと整えて、共有してみる。その繰り返しです。

人事とエンジニアが“発信”という共通言語を持てるようになると、採用以外の部分でも信頼関係ができてくる。結果的に、会社全体のコミュニケーションの質も上がると思いますよ。

技術広報は「関係づくり」の手段

— 技術広報に取り組む意味を、あらためてどのように捉えていますか?

中島さん:技術広報って、最終的には候補者はもちろん、社内のエンジニアと人事との「関係づくり」だと思っています。

候補者と出会う前から関係をつくっておくことで、いざ採用の場面になったときに、相手が「すでに自分事として会社を知っている」状態になっている。これは大きなアドバンテージになります。

そして同時に、社内のエンジニアとも「一緒にものをつくっていく関係」が築ける。人事が技術に踏み込むというより、“理解しようとする姿勢”を持つことで、社内外の信頼が生まれていくんじゃないかと思います。

技術広報は、関係構築の起点になる

技術広報は、単なる採用手法ではなく、エンジニアとの信頼関係を築く起点でもあります。

技術的な内容を「分からないから任せる」のではなく、「分からないからこそ、届け方に関わる」という姿勢が、人事に求められているのかもしれません。

まずは一歩、小さな対話や発信から始めてみませんか。

エンジニアと共に言葉をつくり、候補者に届けていく過程には、組織全体を変える力が宿っています。


  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 人材採用・育成 更新日:2025/10/21
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