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混迷する経済を日本企業が勝ち抜くために「今、経営者に求められる力とは」

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人口減少や人材不足、物価高騰、そして不透明さを増す世界経済——。日本企業を取り巻く環境は、かつてない複雑さと厳しさを伴っています。そのなかでも持続的成長を実現する企業には、明確な判断軸と戦略的な資源配分が存在します。

今回は「給与アップ応援プロジェクト」の公式アンバサダーであり経済アナリストの馬渕磨理子氏に、世界経済の国際的視座から見た日本の立ち位置と、これからの経営・働き方に求められる視点についてお話を伺いました。

※本記事の情報は2025年7月23日インタビュー時点のものです。

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  • 馬渕磨理子(まぶち まりこ)氏 一般社団法人日本金融経済研究所 代表理事
    経済アナリスト

    京都大学公共政策大学院 修士課程を修了。トレーダーとして法人のファンド運用を担う。その後、金融メディアのシニアアナリストを経て、現在は、一般社団法人日本金融経済研究所 代表理事として企業価値向上の研究を大学と共同研究している。上場企業のイー・ギャランティ、楽待で社外取締役を務め、賃上げや企業価値向上に向けた企業経営に参画。2024年に大阪公立大学客員准教授に就任後は企業価値向上について学術研究をしている。2025年は与野党の政治家に「就職氷河期世代の所得や年金に関する政策提言」を数多く行っている。衆議院の財務金融委員会で参考人として意見陳述し、事業性融資の法案可決に寄与した。フジテレビ「Live News α」、 TBSテレビ「Nスタ」、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」などにレギュラー出演中。


世界経済の潮流から見る日本のポジション

不確実性を増す世界経済

OECD(経済協力開発機構)による「世界経済見通し」において、世界経済の成長率(実質GDP伸び率)は下方修正され、前年の2024年から大きく鈍化する傾向が示されています。その大きな要因としては、アメリカの関税政策を起因とした貿易障壁の高まりが挙げられます。

くわえて、地政学リスクの高まりも見逃せません。特にウクライナや中東の情勢は予断を許さず、引き続き世界経済への影響が懸念されます。

こうしたことから、世界経済は大幅な景気後退とまではいかずとも、不確実性がいっそう高まり、神経質にならざるを得ない状況が続いているといえます。

景気後退期の日本。次なる成長のカギ

世界における日本のポジションをマクロで見ると、GDPではアメリカ、中国が上位に位置し、2024年にはドイツに抜かれて世界第4位という状況です。更に、第5位のインドが勢いよく迫り、この先抜かれる可能性も十分にあり得ます。

世界的にはそうした立ち位置にあるなか、日本経済は現在、おそらく景気後退期に入っているのではないかと見ています。まだ先行き不透明ではあるものの、実質GDPや実質賃金のマイナスが続いていることから考えても、1年後、2年後に今を振り返ったとき、「2025年は景気後退期にあった」と判断されてもおかしくない状況にあるといえます。

このような状況のなか、日本が世界で生き抜いていくために必要なのは「稼ぐ力」をつけること。

世界に輸出して稼げる分野をいくつも育てることが、グローバル市場では必須になるでしょう。

例えば農林水産物や食品がその有力産業であり、アニメやゲーム、コミックなどのジャパニーズカルチャーも強い。そうした日本が優位に立つ分野を増やし、一つひとつの幹を太くすることが、今後の成長のカギになると思います。

日本企業の成長を阻む課題とその本質

日本企業の3つの課題。バブル崩壊の余波は今も

日本企業の課題としては、まず他国と比べて少子高齢化が急速に進み、人材不足が根深いことが挙げられます。そして、本プロジェクトのテーマである賃上げが遅れていること。ここ数年、賃上げの機運が高まっているものの、世界を見渡すと、日本の賃上げは明らかに後れを取っています。

もう一つ、国際的に比べて経営陣の意思決定が遅いことも、日本企業の成長を阻害してしまっているのではないかと見ています。

なぜ意思決定が遅いのか。1990年代半ばに起きたバブル崩壊以降、日本企業の売上高は30年間にわたって伸び悩んできました。この間、日本企業は閉塞感に包まれ、経営陣は自らの判断によってリスクを取ることに消極的になっていきました。

自ら判断することを避け、外部のアドバイザーやコンサルタントによる分析・判断に頼ってしまう。そうした傾向が事業推進のスピードを鈍らせていると考えます。もちろん外部からの助言に耳を傾けることは大切です。しかし、とりわけグローバル市場で勝負し、商機を掴むためには、日本企業の経営陣はもっとスピーディに、大胆に、自らの判断で経営の舵を取る必要があるのです。

そのためには、外部のブレーンに頼るだけではなく、今一度、経営陣の手中に意思決定権を戻すべきだと考えます。

日本の賃上げが進まぬ理由。「物価上昇」と「多重下請け構造」

賃上げムードが高まっている一方で、名目賃金(実際に支払われる賃金額)に物価変動の影響を加味した実質賃金を見ると、2025年6月まで6カ月連続でマイナスです。

このことから、近年の物価上昇に対して賃上げが追い付いておらず、社会全体の購買力が落ちているということが分かります。たとえ賃上げが成されても、「生活は楽にならない」と感じる方が多いのは、そのためです。

また、物価上昇の波は今後も続くと推察します。日本銀行が「物価安定の目標」とした消費者物価の前年比上昇率2%がこのまま続くかどうかはまだ読めませんが、現在の日本経済は、デフレから一旦脱却し、緩やかなインフレが続いています。

デフレが長らく続き、何事も安いことが当たり前という感覚になってしまったため、物価は低いほうが生活しやすいとお考えの方が少なくないと思います。しかし、日本がデフレに陥っていた間、世界の多くの国々では経済成長に入り、物価上昇が続いています。

輸入品の価格が以前に比べて高くなっているのも、日本と海外の間に物価の格差が生じているため。今後も私たちの経済や暮らしは世界と切り離せません。しかし、デフレのままでは世界から取り残されてしまいかねないため、グローバルな視点で考えると、現在の適度なインフレは悪くないことだといえます。

それでも日本企業、とりわけ中小企業では賃上げに踏み切れず実質賃金の上昇に結びついていないのが現状です。

その要因の一つに、日本特有の多重下請け構造があります。

企業は本来、発注先の企業へ物価上昇に応じた値上げを要求するのが筋です。しかし下請けという立場の場合、他社に切り替えられてしまうのではないかという恐れが常につきまとい、価格交渉さえもできないという状況があると思います。

そのため、物価上昇によるコスト増が利益を圧迫し、賃上げに踏み切れない。中小企業ではそうした悪循環が依然として続いていると見ています。

成長企業の共通点「俯瞰力」と「言葉」

ただ、こうした状況下でも成長している日本企業はあります。それらの企業に共通しているのは、経営陣に「俯瞰力」があることです。

経営陣が足元ばかりに捉われず、日本のマクロ経済をふまえながら、自分たちが業界内でどういうポジションにあるのかを見据え、中長期的な戦略を立案・実行している企業は強いと思います。

そうした企業は、経営上のリスクに対しても先々を見据えて対策しています。例えば近年では人権対策や、災害時などの緊急時に備えたBCP(事業継続計画)の策定。これらは国際的にも重要視されますが、実は中小企業にとっても大きな意味があります。大企業は人権対策やサプライチェーンまで取引先を含めて管理しており、取引先がBCP対策を整えているかどうかも重視します。そのため、中小企業がこうした対策を整えておくことは、受注機会の拡大や新規取引の獲得にも直結するのです。

もう一つの共通点は、経営者が「自分の言葉を大切にしている」ことです。

企業が賃上げの原資を稼ぐためには、従業員の皆さんの活躍が欠かせません。「全員で利益を上げられるように協力し、賃上げを実現しよう」と、経営者から従業員に呼びかけ、行動を促し、得られた利益を還元する。そうしたメッセージを繰り返し発することが、従業員自らが「どうすれば稼げるか」を考え、行動に移す契機になります。

つまり、経営者の言葉次第で、従業員の皆さんの自走が促せるということです。

例えば、鳥取県で養鶏場を営む企業では、養鶏場併設のカフェをオープンし、自慢の卵を使った焼き菓子やパンケーキを提供し始めたところ、県内外から大好評を獲得しました。オンライン販売やホテル開業などへも多角的に事業を広げ、毎年賃上げを実現しています。

その背景にあったのが、経営者による「自分たちでよりよい商品やサービスを考案し、生産性を高め、お客さまに喜んでいただくことが、自分たちの賃上げにつながる」というメッセージです。そして、現場のアイデアに耳を傾け、「やってみよう」と迅速に裁量権を託したことが、従業員のモチベーションを高め、賃上げの原資獲得に結びついたと聞いています。

多様な意見を受け入れ、自走できる体制づくりを

とかく中小企業のなかには、経営者自らが現場の課題解決やクレーム処理などに腐心し、先々を見据える余裕がないケースが少なくないように見受けられます。

現場の運営についてはマネージャー陣に権限を委譲し、経営者自身は中長期的な視点で経営戦略や資金繰り、体制づくり、そしてメッセージ発信に力を注ぐ。そうした体制を築くことが、収益性を高め、賃上げにも結びつくと思います。

くわえて、経営者の方々は多様な視点を持つことが大事です。

同じような考え方を持つ人や自分に同調してくれる人を仲間にすると、気持ちよく働けますし、安心感を得られますよね。

でも、この不確実な時代に柔軟に対応し、長期的な成長を描いていくためには、自分にはない視点や価値観、多様な意見を取り入れることが必要不可欠です。

持続可能な成長を導く経営と人材戦略

人材確保の新たな視座

ここ数年で、大卒の初任給が30万円を超えることが珍しくなくなりました。初任給を上げ、ポテンシャルの高い学生を迎え入れることはもちろん大切です。

しかし私は、「30代・40代・50代のバリバリと働いている世代に対して、その活躍に報いることを疎かにしていませんか」と問いかけたいです。

特定の世代や人材に賃上げが偏るのではなく、全世代の従業員に対して賃上げを行い、平均賃金を上げることが、中長期的に賃金水準を高めるためには必要な要素です。

そのために必要なのは、ベースアップにくわえ、非正規雇用を正規雇用に変換していくことです。企業努力だけでなく、国による支援も必要になるでしょう。厚労省が就職氷河期世代の採用・育成に対して助成金を支給するように、官民が連携し、平均賃金の底上げを図っていくことが重要です。

人材不足解消のための採用活動においても、賃上げは効果的ではあります。ただ、採用でいえば賃金だけの問題といえないところもあります。

特に最近の若い世代は、福利厚生や企業理念、社風などにしっかりと目を向け、長く働き続けられるか、自分に合うかという点をシビアに見ています。

例えば、育児や介護と両立しながら働き続けられる環境を整えていれば、大きなアピールポイントになるでしょう。がんなどの疾病を患った際、休職制度を活用して治療に専念し、復職できるかどうかといった点も、近年の求職者は冷静に見ていると聞きます。

これからの経済・市場を読み解くために

世界的に不確実な経済情勢が続くなか、安易な煽りや間違った情報に惑わされず、地に足をつけて適切な情報・データを取得し、経営判断に生かすこと。これからを生き抜く企業に必要なことだと思います。

例えばコロナ禍によって日経平均が下がり続けた時、さまざまな経営者から「どこまで下がるのでしょうか」と聞かれました。これまでに経験したことのない事態に、皆さん不安で、まともな経営判断が難しい状況だったと思います。そこで私は、自分の分析結果から「日経平均は1万6000円〜1万円5000円まで下がる見込みだが、それよりも下がることはない」と冷静にお伝えしたところ、皆さんに「先々を見通しやすくなった」とおっしゃっていただきました。

この先も何が起こるのかは分かりません。だからこそ、経営者は経済・金融についてアンテナを張り、知識・情報を得ることで、株価の動向に振り回されず、慌てず適切なタイミングで適切な施策を打つことが大切になるでしょう。

日本企業・経営者の皆さまへ

政府や公正取引委員会がさまざまなかたちで賃上げ支援策を打ち出し、メディア各社も賃上げの機運を高めています。官民にかかわらず企業の賃上げを応援していますので、経営者の皆さんは思い切って賃上げに舵を切ってほしいと思います。

意思決定を行うのも、リスクを取るのも、経営者の皆さんです。従業員のため、会社のために考えていることがあれば、ぜひ積極的に、自らの判断で実行してください。その行動に対して、社会全体がきっと後押ししてくれるはずです。

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  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 経営・組織づくり 更新日:2025/08/28
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