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「賃金アップに向けた政府政策 働き方改革と賃上げの好循環~中小企業政策を中心に~」【賃上げと業績アップ実現シンポジウム 2025】(レポート#2)

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  • 講師:矢田 稚子(やた わかこ)氏 矢田わか子政策研究所 代表・官民連携DX女性活躍コンソーシアム 代表理事

    昭和59年松下電機産業株式会社入社、同社労働組合中央執行委員を経て、平成26年よりパナソニックグループ労働組合連合会 副中央執行委員、電機連合男女平等政策委員長。平成28年から令和4年まで参議院議員をつとめ、令和5年9月より現職。政府においては、賃金・雇用を担当し、令和6年4月からは「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」において座長を務める。退任後は令和7年5月に「矢田わか子政策研究所」、同年7月に「官民連携DX女性活躍コンソーシアム」を設立し、現在に至る。




中小企業をバックアップする政府支援を徹底活用し、賃上げを実現する

30年上昇しなかった名目賃金がようやく上がり始めています。実質賃金は6か月連続マイナスではありますが、気運は醸成されている。そんななか政府は資金繰り支援、補助金や助成金、経営相談サービス、税制優遇など、数々の中小企業向け賃上げ支援策を打ち出してきましたが、残念ながら周知されていません。330万社ある中小企業のうち活用している企業が10~20%という事実、もったいない限りです。活用すれば必ず大きなメリットがあるのに現状では利用率が低い。そこでこのセミナーでは 賃上げ実現に直結する主要な政府支援メニューと要点を整理してご紹介します。

1)中小企業が価格交渉を徹底することの経済効果

政府は、2030年までに最低賃金1500円を目標に定めました(2025年8月時点)が、あと5年、実現できるのでしょうか。昨年の賃金上昇率は5%以上と33年ぶりの高水準を記録しており、かつてないペースで賃上げが進行しているという事実はあります。

全ての企業において賃上げの原資確保は共通課題ですが、なかでも中小企業で人件費の増大は経営リスクが大きく、賃上げ実現に踏み切れないケースが懸念されます。そこで政府は、中小企業が取引先企業に対して積極的に価格交渉に臨み、賃上げ原資確保を進められるよう、かなり踏み込んだ対策を講じています。


2)中小企業庁のリサーチが価格交渉をフォローアップ

毎年2回3月と9月を中小企業庁は価格交渉推進月間としています。アンケート調査を行い、「下請Gメン」約330名による聞き取り調査も実施。制度の認知が十分でないため、怪しまれて調査電話を切られてしまうこともあるようですが、下請Gメンは中小企業のみなさんの味方。「取引先が価格交渉に応じない」など、現状把握のための公的組織ですから、問題があれば相談でき、状況改善につながる窓口として活用できます。中小企業庁がこのリサーチ結果を踏まえて現状把握をすすめ、結果をとりまとめて公表するという流れです。

調査の結果、24年の9月の時点で価格交渉が行われないケースは13%程度あり、サプライチェーンの階層が下に行くにつれて傾向が強まり、ゼロという結果も。特に4次請けでは4割近くが価格交渉できず減額さえあるという事実が発覚しています。

調査では、業種ごとの交渉頻度も公表、造船や広告など上位の企業では価格転嫁率が高く、放送コンテンツ、トラック輸送などの業界では適正な価格転嫁が十分に進んでいないことが推察されます。さらに官公需でも下請けの価格交渉に応じている率が5割という結果が出ており、猛省と是正が求められるでしょう。

3)労務費も価格交渉の対象に、政府が指針表明

下請け業者が発注業者に価格交渉をする場合、燃料費や原材料費はまだエビデンスが出しやすい項目ですが、労務費(人件費上昇率、社会保険料率変更、求人単価の上昇など)は反映するのが難しいと感じる経営者も多いでしょう。一部発注企業(大企業含む)では労務が交渉の論点になりにくく、十分に考慮されない場合があるかもしれません。しかし労務費は必要経費であり、自社の賃上げを価格転嫁するのは当然のことと考える必要があります。そこで公正取引委員会では、発注企業と受注企業双方に対し、価格交渉において取るべき行動の指針を表明。公正取引委員会が公表している文書「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針について」では、価格交渉の際に取るべき行動指針、相談窓口の設置、定期的にコミュニケーションを取るなど、フェアな取引のために守られるべき詳細が記載されています。

4)ノウハウがつまったツールで価格交渉を成功させる

価格交渉にはノウハウが必要ですが、そのために全国の自治体では中小企業が価格交渉する際に利用できるツールやリーフレットなどが提供されています。例えば埼玉県が開発したサービスでは、業種別に整理された価格交渉ツールを誰でもダウンロードして使用することができます。発注企業と対等な関係で交渉するには、必要なデータをそろえてエビデンスを示すことが肝心。交渉に必要なノウハウが集約されているので、そうしたツールで根拠資料(原価表・見積根拠・比較データ)を整備しましょう。

正当なエビデンスを揃えて臨んでも、理不尽に交渉に応じないケースでは、告発側の匿名は守られたまま、中小企業庁から発注業者に勧告がなされます。年々勧告事案は増加しており、不公正な取引について勧告されることは企業のダメージが大きいことは昨今の報道でも明らか。アンフェアな仕打ちや不公正が疑われる場合は、匿名相談・申告スキームの公的手段を使って対抗する。そうした勇気ある行動が社会全体の風潮を是正する働きにつながっていきます。

参照:埼玉県価格交渉支援ツール(ダウンロード)

さらに、今年2025年1月に下請法が改正され、来年1月にもさらに改正が続きます。これまでのペナルティは勧告や公表でしたが、改正後は価格交渉への適切な対応を求める運用が強化されています。また、手形支払の見直しや現金払いの期日遵守など、支払条件に関する規律も厳格化されています。

(出典:中小企業庁公式サイト

先述の3月に実施した中小企業庁の調査でも、価格交渉に応じなかった発注企業が公表されました。8月には企業リストが新聞発表されるなど締め付けは厳しくなっていきます。また、6万社の企業で大企業と中小企業との取引での「パートナーシップ構築宣言」をしていますが、実績なき宣言が発覚すると、ポータルサイトへの掲載が取りやめになることがあるなど厳しい対応がとられます。政府はこれまで以上に踏み込んで中小企業を応援することで、価格転嫁を進め、賃上げにつなげていく道筋を模索しています。

5)中小企業が稼ぐための政府支援策メニュー

中小企業むけに政府が打ち出している中小企業支援策は、地域ブロックとしても 全国トータルとしても、賃上げや人材育成、処遇改善、創業のための取り組みなど数々あります。自社の状況を分析し、こうした公的支援メニューをいかに活用していくかが、中小企業経営の要と言っても過言ではありません。

【中小企業支援メニュー・例】

賃上げ促進税制の拡充及び延長

賃上げに踏み切った企業に対し、税額控除の割合を増やして還元する制度です。また、法人税を納めていない企業に対しては、5年間の繰越措置も(適用要件・控除率は最新公表に基づき確認)。これは中小企業が賃上げを実施した年度に控除しきれなかった法人税等を5年繰り越せるようにする制度です。

小規模事業者持続化補助金

この補助金は、小規模事業者が作成した経営計画に基づいて実施する、新しい顧客を獲得するための活動や、業務効率を上げるための投資にかかる費用の一部を補助。具体的には、ウェブサイトの制作、チラシの作成、店舗の改装、新しい設備の導入などが補助の対象となります。

  • 補助対象者:小規模事業者(常時使用する従業員が5人以下の事業者など、業種によって規定あり)

  • 補助上限額:通常枠で最大50万円が基本、以下のような特例も設定されている


  • 賃金引上げ特例: 従業員の賃金を引き上げる事業者が対象、150万円が上乗せされる

  • インボイス特例: 免税事業者からインボイス制度の適格請求書発行事業者になった(またはなる)事業者が対象となり、50万円が上乗せ。この特例は他の枠と併用可能。

  • 創業型: 創業3年以内の小規模事業者が対象となり、補助上限額は200万円


    よろず支援拠点

    全国すべての都道府県にあり、ワンストップで支援するサービス。どこに相談したらいいか迷ったら、まずは最寄りのよろず支援拠点を訪ねてください。専門の相談員が、適切な相談先に振り分けてくれます。この拠点はできて10年経ちますが、特に5人以下のサービス業の方の利用が増えています。

    下請けかけこみ寺

    発注企業との価格交渉が難航したときなどに活用してください。中小企業庁が全国48か所に設置する中小企業・小規模事業者向けの無料相談窓口。取引先との価格交渉、代金未払い、単価引き下げ、不当なやり直しなどのトラブルについて、専門の相談員や弁護士が解決に向けたアドバイスが受けられます。相談内容は秘密厳守で、匿名での相談も可能。トラブルの内容によっては、裁判によらない迅速な紛争解決手続き(ADR)にも対応します。

    6)生産性アップ、ひいては賃上げにつながる省力化投資について

    設備投資について経団連は2027年に115兆円を目指しています。設備投資は労働生産性に影響しますが、大企業では上昇傾向にある一方、中小企業では伸びなやむ傾向にあります。こういった状況を打破するには中小企業でも省力化投資をすすめ、人手不足をカバーしていく施策が必要です。しかし、IT投資などで、まずどういったものから対応したらいいかわからない場合など省力化製品リストから注文できるカタログ注文型など、様々なサービスが提供されています。

    ITの専門知識不要、カタログ型注文で省力化投資が容易に

    ITとは無縁と思われがちな製造業でも、カタログ注文型を利用して省力化投資を行い、生産性向上に成功した例があります。一例にあがっている菓子店の場合、カタログからコンベクションオーブンを購入して時短したことでSNS発信などに時間を流用でき、新顧客獲得に成功。また機械部品製造業の例では、無人搬送車を導入し省力化したことで別作業に労力を割くことができています。双方ともに補助金申請も機器搬入もストレスなく行うことができました。

    DXは業種・規模に関係なく有効、IT導入補助金などを役立てる

    事業規模に関わらず、IT投資を進めることで生産性が向上する可能性があります。中小企業向けの各種補助金では、商店街でも連携でも一社でも申請でき、活用支援やインボイス、セキュリティへの対応でも補助金が出るなど、様々な事業課題に対応するメニューが用意されています。申請スケジュール一覧や相談窓口一覧を参照して、積極的にアプローチしていきましょう。

    また、働き方改革が進むにしたがい、労働環境も変化していきます。年収の壁も大きく変わっていく将来に向けて、改革を導入しながら、キャリアアップ助成や社会保険料の補助など、助成制度が用意されていることにも目を向けていくべきです。さらに令和7年度(2025年度)には、人材開発支援助成金、IT人材などの教育にも補助金として大きな予算がついているので、勉強したい社員の成長をバックアップし、スキルアップへの道も開けます。

    このように公的な中小企業支援メニューはニーズに合わせて多種多様に提供されています。 政府支援策を知り、徹底活用していくことは、従業員のみなさんの所得改善に直結すること。経営陣は好機を逃さず、勇気をもって行動していきましょう。

      【まとめ】

    • 公的な中小企業支援策、利用率は2割、もったいない

    • 支援策はメリット大、使えば賃上げの可能性アップ

    • 中小企業の価格交渉は公的ツールとガイドラインで準備

    • 下請法改正など、価格交渉をよりフェアにすすめる施策も

    • 相談窓口など、ニーズに応じた公的支援メニューは豊富にある

    • 規模に関わらずIT導入などDXで人手不足解消、生産性向上を目指せる


    • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

      HUMAN CAPITALサポネット編集部

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    • 経営・組織づくり 更新日:2025/10/17
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