【研究会報告|第4回】接点を増やしても、内定承諾につながらないのはなぜか 採用データから見えた「接点設計」の重要性
「学生との接点を増やしたい」「選考中のフォローを手厚くしたい」「内定後も定期的に連絡し、入社意欲を維持したい」。
新卒採用において、求職者との接点を重視する企業は少なくありません。しかし、説明会や仕事体験、面談などを増やしても、それぞれの施策が選考参加や内定承諾にどの程度つながっているのか、十分に検証できていないケースもあるのではないでしょうか。
マイナビ総合研究所では、「採用課題とは何か」を改めて問い直す採用プロセス研究会を実施しています。第1回では新卒採用を取り巻く課題を洗い出し、第2回では課題を「接点」「訴求」「認識」のズレとして構造化しました。第3回では、目の前の現象をそのまま課題と捉えず、「検証可能な問い」に変えることの重要性を整理しました。
第4回では、ここまでの議論を実践へ移し、参加企業から提供された採用データを用いて、適性検査、イベント参加、選考結果、内定承諾などの関係を分析しました。さらに、求職者データやAI面接経験者の声をもとに、AI面接に関する企業側の説明やフィードバックが、求職者の受け止め方にどのように関連するのかについても議論しました。
今回の分析と議論から見えてきたことは、採用活動において重要なのは、接点を一律に増やすことではないという点です。
採用接点とは、数を増やすものではなく、求職者が意思決定に必要な情報を届けるために設計するものである。この視点から、第4回研究会の内容を振り返ります。
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佐藤 優介 様 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任教員
一般社団法人HR Buddy研究所 代表理事大学卒業後、アクセンチュア株式会社に新卒入社し、戦略コンサルタントとして中期経営戦略立案やデータ分析などのプロジェクトに従事。その後人事部に異動し中途採用、新卒採用の責任者、人事戦略や人事システム導入を担当。また慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科にて博士号を取得(SDM学)。
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宮川 祥子 様 お茶の水女子大学大学院 博士後期課程
一般社団法人HR Buddy研究所 主任研究員大学卒業後、IT企業に入社しシステムコンサルタント業務に従事。その後お茶の水女子大学大学院に進学し、組織文化や価値観における個人と組織の適合性とモチベーションやコラボレーションの関連に関する研究に取り組む。1on1研修などのセミナーにも登壇。
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増原 広成 様 昭和女子大学 グローバルビジネス学部 専任講師
一般社団法人HR Buddy研究所 研究員大学卒業後、一橋大学大学院経済学研究科修士課程を修了し同学科博士課程を修了(経済学)。NIRA総合研究開発機構研究員を経て現在は昭和女子大学の専任講師として従事。
多くの接点を設ければ、内定承諾につながるのか
企業は採用プロセスの各段階で、さまざまな接点を設けています。
選考前には、業界研究セミナー、仕事体験、インターンシップ。選考中には、会社説明会、社員との座談会、個別面談、職場見学。内定後には、内定者面談、懇親会、社員との交流、入社前フォローなどがあります。
これらの施策には、自社を知ってもらう、選考参加を促す、仕事への理解を深める、入社に向けた不安を軽減するといった異なる役割があります。
一方、研究会では、「イベントを数多く実施しているものの、どの施策が内定承諾につながっているのか分からない」という問題意識が示されました。
そこで今回は、参加企業から提供された採用データを用いて、初回接触経路、選考プロセス、適性検査、イベント参加、内定・辞退などの関係を分析しました。
選考前イベントは、内定承諾に直結していなかった
個別分析した企業では、選考前のイベントや仕事体験に相応のリソースを投じていました。参加した学生をその後の選考へつなげ、最終的には内定承諾に結び付けることを期待していたためです。
しかし、今回の分析では、選考前イベントへの参加と内定承諾との間に、企業側が期待したような関連は確認されませんでした。一方、選考中および内定後のイベントについては、内定承諾との関連が見られました。
この結果だけを見れば、「選考前イベントには意味がない」と考えたくなるかもしれません。しかし、研究会では、イベントの効果を内定承諾率だけで判断してよいのかという議論が行われました。
選考前イベントには、内定承諾を直接促すこととは別に、
- 自社や業界を知ってもらう
- 学生との最初の接点をつくる
- 選考への参加を促す
- 採用候補となる母集団を形成する
といった役割があります。
ある参加企業では、インターンシップが母集団形成の中心となっており、参加者の多くがその後の選考へ進む採用プロセスを構築していました。これに対し、別の企業では、参加希望者数や運営リソースを踏まえてインターンシップを実施せず、会社説明会、社員との座談会、職場見学などに接点を絞っていました。
この違いが示しているのは、特定のイベントに普遍的な効果があるわけではないということです。
選考前イベントを評価する際には、「内定承諾につながったか」だけではなく、採用プロセスの中で何を担う施策なのかを明確にする必要があります。
施策の役割が違えば、見るべきKPIも変わる
選考前イベントと内定者面談を、内定承諾率という同じ指標だけで評価することは適切ではありません。
それぞれの接点が担う役割に応じて、確認する指標も分ける必要があります。
接点の成果が見えないとき、問題は施策そのものではなく、施策に期待する役割と評価指標が合っていないことにあるかもしれません。
第3回では、採用課題を「検証可能な問い」に変えることの重要性を整理しました。第4回の分析は、問いを立てるだけではなく、施策の目的に応じて「何をもって効果とするのか」を定義する必要があることを示しています。
適性検査で高く評価した人材と、承諾する人材は同じではない
今回の個別分析では、適性検査の結果、面接評価、内定承諾との関係についても確認しました。
分析からは、適性検査の得点が面接通過や内定獲得と一定の関連がある一方、内定承諾との関連は相対的に弱い可能性が見えてきました。
多くの企業では、「どのような人材を採用したいか」を明確にし、その人材を見極めるために適性検査や面接を活用しています。一方で、採用したいと考えた人材に対して、どのような情報を、どのタイミングで届ければ入社意思につながるのかについては、十分に検証できていないケースも少なくありません。
研究会でも、「優秀な人材を見つけること」と「その人材から選ばれること」は別の課題ではないかという議論が行われました。
実際、適性検査や面接を通じて高く評価した人材であっても、仕事内容や働く環境、将来のキャリアイメージについて十分に理解できなければ、内定承諾にはつながりません。
今回の分析結果は、採用活動において重要なのは見極めだけではなく、採用したい求職者に対して、どのような情報を提供し、どのような接点を設計するかである可能性を示唆しています。
採用活動は「誰を採るか」を決める活動であると同時に、「その人材から選ばれる理由をつくる活動」でもあります。今回の研究会では、その両方を設計する必要性が改めて確認されました。
選考前の「関心」を、選考中の「理解」へつなげる
選考前イベントで自社への関心が生まれても、その後の選考中に求職者との接点が途切れれば、企業理解は十分に深まりません。
研究会では、選考前と選考中の双方でイベントを実施し、一次面接通過者に対して、事業や仕事内容への理解を深めるイベントへの参加を積極的に案内している企業の事例も共有されました。
ここで重要なのは、同じ説明を何度も繰り返すことではありません。
求職者の理解度や意思決定の段階に合わせて、提供する情報を深める必要があります。
求職者との接点は、それぞれが独立したイベントではありません。求職者の関心を理解へ、理解を納得へと段階的に深める一連のプロセスです。
だからこそ、重要なのは接点の数ではなく、前後の接点がどのような役割でつながっているかです。
全員に同じフォローをする必要はあるのか
研究会では、限られた採用リソースの中で、どのような接点を設計するべきかについても議論が行われました。
ある参加企業では、求職者ごとに必要な情報や関心領域が異なることを踏まえて、求職者に対して一律のフォローを行うのではなく、それぞれの関心や知りたい情報に応じて、社員との対話機会を提供していました。
社員の仕事内容やキャリアの歩みなどを紹介したうえで、求職者自身が自身の関心に応じて対話相手を選択し、企業理解を深める接点として活用していました。
この取り組みの特徴は、企業側が一方的に情報を届けるのではなく、求職者ごとに異なる関心や疑問に応じて、必要な情報へアクセスできるようにしている点です。
すべての求職者に同じ回数、同じ内容の面談を提供すれば、採用担当者だけでなく現場社員の負担も大きくなります。
そのため、フォローを考える際は、
- どの求職者に追加の接点が必要か
- 求職者が不足している情報は何か
- どの社員との接点が理解の促進につながるか
- 限られた採用リソースをどこへ配分するか
を整理する必要があります。
接点の個別化は、一部の求職者を特別扱いすることではありません。求職者ごとに不足している情報を捉え、それを補う接点を設けることと考えることができます。
「なぜ通過したのか」を伝える
社員面談とは異なるフォロー事例として、一次面接の通過通知に評価理由を添えている企業の取り組みも共有されました。
単に「一次面接は通過です」と伝えるのではなく、
- 面接で評価した点
- 次の選考に進んでほしい理由
- 求職者に期待していること
を伝えています。
この企業では、以前は内定段階で評価理由を伝えていましたが、現在は一次面接後の時点で評価された点を伝えています。取り組み開始後、もともと件数は多くなかったものの、一次面接後の辞退が減少したという実感も共有されました。
求職者にとって、選考通過という結果だけでは、企業が自分の何を見て、どこを評価したのかは分かりません。
評価した点や期待していることが伝われば、
- 自分を個別に見てもらえている
- 自分の経験や強みが理解されている
- この企業で自分を生かせる可能性がある
- 次の選考へ進む意味を理解できる
といった納得感につながります。
ただし、評価理由を詳しく伝えすぎることで、次の選考結果への過度な期待を生む可能性もあります。最終的な合格を約束するものではないことを前提に、現時点で評価した事実と、次回への期待を伝えることが重要です。
接点を増やすだけではなく、一つひとつの接点で、求職者に何を返すかもフォロー設計の重要な要素です。
接点の成果は「求職者に何が残ったか」で捉える
ここまでの議論を踏まえると、接点を評価する際に見るべきものは、
何回接触したか
ではなく、
その接点を通じて、求職者にどのような理解や納得が残ったか
です。
説明会を開催しても、求職者が企業や仕事を具体的に理解できていなければ、その後の意思決定にはつながりにくいでしょう。
社員面談を実施しても、求職者が本当に聞きたいことに答えられていなければ、接点を一つ増やしただけになる可能性があります。
内定者イベントを増やしても、求職者が感じている不安と異なる情報を提供していれば、入社判断を支えることはできません。
各接点を設計する際には、次の3点を明確にする必要があります。
- 誰に届ける接点なのか
- 何を理解してもらうための接点なのか
- 接点後にどのような変化を期待するのか
この3点が明確になって初めて、接点の成果を適切な指標で検証できます。
AI面接は「説明すれば解決」ではない
今回の研究会では前回に続き、AI面接についての議論も行われました。追加分析の結果、AI面接経験者に限定して見ると、企業側からAI面接の導入理由や目的について説明を受けた人ほど、AI面接や導入企業への印象が良い傾向が見られました。
一方で、企業側からの説明と、就職活動全体の満足度や入社後の意欲との間には、直接的な関連は確認されませんでした。なお、今回の結果は観察データに基づくものであり、説明によって印象が良くなったという因果関係を断定するものではありません。
この結果が示唆するのは、説明することはAI面接への不安や違和感を軽減する可能性がある一方、それだけで企業理解や入社意欲まで高められるとは限らないということです。
研究会では、AI面接の是非そのものではなく、「企業は何を確認するためにAIを活用しているのか」を求職者へ適切に伝えることの重要性が議論されました。また、AI面接では評価の考え方や結果の活用方法が求職者から見えにくくなりやすいため、企業側が選考の目的を丁寧に説明することが納得感の形成につながるのではないかという意見も共有されました。
AI面接を実施する企業は、少なくとも以下の点を求職者へ説明する必要があると言えそうです。
- なぜAI面接を導入しているのか
- 採用プロセスのどの段階で用いるのか
- 何を確認するための面接なのか
- 人がどのように結果を確認するのか
- 面接後にフィードバックを行うのか
説明の目的は、求職者にAI面接を肯定してもらうことではありません。選考方法を理解し、納得したうえで参加できる状態をつくることです。
AIによる情報と、人による意味づけ
研究会では、AI面接後のフィードバックについても議論が行われました。
AI面接を経験した学生の中には、面接後に詳細なフィードバックを受け取り、その情報量を肯定的に受け止めているケースがありました。一方、フィードバックが提供されていたケースは約半数にとどまっていました。
研究会では、AIが生成した結果をそのまま伝えるだけで十分なのかという疑問も示されました。
例えば、AIの分析結果に加えて企業の担当者が、
- 自社ではその結果をどのように受け止めたのか
- 面接のどの点を評価したのか
- なぜ次の選考に進んでほしいのか
という言葉を添えることで、求職者の理解や納得感は変わる可能性があります。
AIは詳細な情報を効率的に生成できます。一方、その情報が求職者にとって何を意味するのかを伝える役割は、必ずしもAIだけで完結するものではありません。
AIが評価情報を生成し、人が求職者にとっての意味を伝える。
AIによる客観性や情報量と、人による意味づけや納得感を組み合わせることが、今後の選考設計における重要な論点になります。
第4回研究会から見えてきたこと
今回の分析と議論を通じて共有されたのは、接点の多さや施策の手厚さだけでは、求職者の理解や納得、内定承諾にはつながらないということです。
採用プロセスの各接点には、それぞれ異なる役割があります。
選考前:企業や業界への関心をつくる
選考中:仕事や事業への理解を深める
選考通過後:評価理由を伝え、次に進む意味をつくる
内定後:不安を軽減し、入社判断を支える
AI面接:選考目的や評価の考え方を説明し、納得できる状態をつくる
今回の研究会から見えてきたのは、採用課題は単なる「接点不足」ではなく、各接点に期待する役割と、求職者が必要とする情報がかみ合っていない可能性があるということです。
第3回では、「採用課題の改善に必要なのは、施策を増やすことではなく、検証可能な問いを立てることである」と整理しました。第4回では、その問いを実際のデータで検証し、採用接点は、量ではなく役割で設計するという視点へと議論が進みました。
自社の接点とフォローを見直す5つの問い
自社の採用活動を振り返る際は、次の観点から確認してみてはいかがでしょうか。
✓ 各イベントの目的を、母集団形成、企業・仕事理解、内定承諾などに分けて説明できるか
✓ 選考前のイベント参加者を、その後の選考中の接点へつなげられているか
✓ 求職者が意思決定に必要とする情報を、適切なタイミングで届けられているか
✓ 合格理由や評価した点を、求職者の納得感につながる形で伝えているか
✓ AI面接の目的や評価の考え方を、求職者に説明できているか
明確に答えられない項目が一つでもあれば、新しい施策を増やす前に、既存の接点が担う役割と、その成果を測る指標を整理する余地があるかもしれません。
今後に向けて
第1回では新卒採用を取り巻く課題を洗い出し、第2回では「接点」「訴求」「認識」のズレとして構造化しました。第3回では課題を検証可能な問いに変え、第4回では、その問いを実際のデータによって検証しました。
今回の分析からは、企業が多くの工数をかけている施策であっても、期待する成果と直接結び付いていない可能性や、施策の目的と評価指標を切り分けて考える必要性が見えてきました。
ただし、今回の個社分析は、特定企業の採用プロセスとデータを対象としたものです。同じイベントであっても、企業の認知度、採用人数、募集職種、実施時期、その後の選考との接続方法などによって結果は変わり得ます。
大切なのは、今回の結果をそのまま自社に当てはめることではありません。自社にとって各接点は何のためにあり、その役割を果たしているのかを、自社のデータによって確認することです。
採用課題を問いに変え、データで検証し、求職者の理解や納得につながる接点へと再設計する。最終回となる第5回では、これまでの議論と分析結果を振り返りながら、限られた採用リソースをどこに配分し、採用プロセス全体をどのように再設計すべきかを整理していきます。
第4回研究会を通じて見えてきたのは、採用活動とは接点を増やすことではなく、求職者が意思決定に必要な情報を、適切なタイミングで届ける活動であるということでした。
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- 人材採用・育成 更新日:2026/09/24
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