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新卒社員の定着に向けて~中小企業の特徴を活かすオンボーディング設計とは~

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マイナビ総合研究所では、採用後の組織定着やオンボーディング、入社前後の期待と現実のギャップによって生じる「リアリティ・ショック」などに着目し、 新入社員が組織になじみ活躍していくための条件について研究を進めています。

採用市場では若手人材の獲得競争が続いており、とりわけ中小企業(本稿では、従業員規模300人未満の企業を指しています)では「採用しづらく、入社後も離職されやすい」という二つの課題が同時に指摘されています。本記事では、中小企業における早期離職の背景を整理したうえで、限られたリソースのなかでも取り組みやすいオンボーディング施策のあり方を、先行研究の知見にもとづいて考えていきます。

  • 蓑和研究員プロフィール写真
  • 蓑和 壱仁 マイナビ総合研究所 研究員

    2022年4月に新潟大学卒業後、株式会社マイナビに入社。ライフキャリア事業本部にて、中途採用に関するコンサルティング営業に従事。
    2026年より現職。

1. 中小企業が直面する「採れない・辞められる」という課題

新卒採用において、中小企業は大企業と比べて応募が集まりにくく、人材の確保に苦戦しやすい状況が続いています。人気企業や大手企業に応募が集中する一方で、中小企業では十分な母集団を確保しづらいのが実状です。そして、採用に至った新卒人材が早期に離職してしまう例も少なくありません。

新規学卒就職者の入社3年以内の離職率は、従業員数100人未満の事業所では4割を超えており(厚生労働省2025)、小規模企業における新卒定着の難しさがうかがえます。

新規大卒就職者の事業所規模別 3年以内の離職率

では、なぜ早期離職が起こるのでしょうか。中小企業庁(2024)の離職理由に関する調査では、賃金や労働条件といった条件面だけでなく、「満足のいく仕事内容ではなかった」「会社の将来に不安を感じた」「人間関係がうまくいかなかった」といった要因も確認されています。これらの多くは、やむを得ない事情というよりも、尾形(2012)が提唱する、入社前に思い描いていた期待と入社後の現実とのあいだに生じたギャップ、すなわちリアリティ・ショックに起因すると考えられます。入社初期に生じるこうしたズレや、職場との関係づくりのつまずきが、早期離職の背景にあるのです。

もちろん、賃上げや福利厚生、休日数の改善といった条件面(ハード面)の見直しは有効な打ち手です。ただ、条件面をすぐに大幅に改善することは容易ではないとの指摘もあります(中小企業庁2025、冨山2020)。だからこそ、仕事内容への満足や良好な人間関係、将来のキャリアへの見通しといった「ソフト面」に働きかけ、新入社員が組織になじみやすい環境を整えて定着を促すことが、中小企業ではいっそう重要になります。そして、こうしたソフト面の取り組みを表す言葉のひとつに「オンボーディング」があります。

2. オンボーディングに求められるのは「中小企業らしさ」

では、オンボーディングとは何でしょうか。これは、新しく組織に参加する個人が円滑になじみ、適応できるよう組織の側から行うサポートの総称を指します(尾形2022)。Klein and Polin(2012)も、「新入社員の適応を促進する組織やエージェントによって実施される公式・非公式な訓練、プログラム、政策」と定義しており、制度化されたものだけでなく日常的な関わりも含む幅広い概念です。

オンボーディングとは

中小企業におけるオンボーディングを考えるにあたってはまず、固有の事情を整理しておきたいところです。山下(2025)は、多くの中小企業がOJTを主な育成手法とする一方で、計画的・体系的な教育訓練や外部研修の導入が進んでいない実態を明らかにしています。新卒採用の専任者を置く大企業に対し、中小企業では他業務との兼任で対応している状況も示唆されています(山本2017)。制度設計の知識が不足しやすいことや、育成の責任の所在が曖昧になりやすいことは、多くの中小企業に共通してみられる特徴といえるでしょう。一方で、規模が大きくないからこそアドバンテージを得やすい特徴もあります。人数規模がコンパクトなため社員同士の距離が近く、会社全体で一人ひとりの顔が見え、部署を越えたコミュニケーションを取りやすい点です(尾形2022)。こうした「風通しのよさ」「顔の見える関係」を活かしたきめ細かな指導が、一定の効果をあげるとも指摘されています(鬼丸2009)。さらに、経営層や上司との距離が近く、トップの考えが現場に直接伝わりやすいことが、職場のまとまりを生み、育成成果や定着につながりうることも示唆されています(兼村2020)。

採用ブランド力などの前提が大企業とは異なることを理由に、山本(2017)は、中小企業の採用で成果を出すには、大企業のやり方を模倣するのではなく独自の方法をとることが重要だと述べています。同じことは採用後のオンボーディングにも当てはまり、中小企業には「中小企業らしさ」を活かした独自の運用が求められていると考えられます。

オンボーディングに関する大企業・中小企業の違い

3. オンボーディング設計で押さえたい2つのポイント

先行研究の知見を整理すると、定着につながるオンボーディングは、①一人に任せきりにせず、複数人のチームで運営する体制を構築すること、②入社初期に重点を置きつつ中長期の視点も含めて期間を設計することの二点が重要だと考えられます。これらを「中小企業らしさ」と組み合わせる視点から考察します。

オンボーディング設計のポイント

3-1. オンボーディングを「チーム」で担う

メンター制度やOJTを行う際は、担当者一人に委ねるのではなく、複数人のチーム体制で運用することが効果的だと考えられます。尾形(2024)も、必要なサポートをチームで提供する形が望ましいと述べています。チームで関われば、育成担当一人の負担が軽くなるだけでなく、新入社員が複数の上司・先輩と接点を持ち、社内の人間関係を広く築きやすくなります。担当者との相性が合わなかった場合のリスクを軽減し、関わる社員それぞれの強みで補い合えるメリットもあります。チーム全体で支える姿勢は、互いに助け合える職場づくりにもつながるでしょう。

運用にあたっては、業務の教育を担うOJT担当と、日々の相談を担うメンター担当を社内の状況に応じて決め、教え方にズレが出ないよう共通ルールと役割分担を明確にしておくとよいでしょう。立ち上げには手間がかかりますが、一人に集中しがちな負担を分散でき、社員同士の距離の近さを活かした、きめ細やかなオンボーディング施策の実施や改良ができるのではないでしょうか。

また、尾形(2024)は、トップを巻き込み、育成の重要性を全社員で共有することで育成文化が育つと述べています。つまり、人事や育成担当の側から経営層に働きかけて協力を得ることは、チーム全員がオンボーディングに携わることを「当たり前」にするための効果的な手立てになると言えるでしょう。その際、人事からの一方通行の発信に留めず、社員同士の距離の近さを活かして現場社員の育成への考えや負担の状況も把握し、互いに理解し合いながら進めることが大切です。

3-2. 時期に応じて支援の重点を変える

オンボーディングは、入社後の時期によって必要な支援が異なります。

入社〜3か月:安心とつながりをつくる時期
定着を促すうえで、入社直後から3か月ほどの時期は特に重要であり、ここで手厚くフォローすることが効果的だと指摘されています(小笠原2025)。学校から職場への移行期には戸惑いや悩みが生じやすく、それが離職に直結しないよう、気軽に相談できる相手の存在が必要です(西村・梅崎2025)。業務指導を担う上司とは別に、年齢の近い先輩などをメンターに置くと、仲間意識が育まれやすくなります。入社初期は、職業経験がないことから、具体的な業務やキャリア開発に進む前に、まず会社のルールを知りたいというニーズが強いと考えられます(西村・梅崎2025)。そのため、業務指導以外にも定期的な1on1を設け、メンターが会社独自の文化を伝えられる環境を整えるとよいでしょう。

3〜12か月:成長を実感できる機会をつくる時期
入社からある程度時間が経過すると、研修や導入教育を受ける段階から、本格的に業務に取り組む段階へと移り、支援形態も入社直後のような手厚いフォローから、必要に応じてOJTを中心に行われるフォローへと変化していきます。しかし、新入社員の立場からすると、こうした変化が「フォローが少なくなった」と感じ、不安になりやすくなります。一方で、新入社員は成長を重視する傾向があります(マイナビ研修サービス 2026)。成長実感を得られない状態が続くと、不安を抱き、離職につながる可能性があります。これらの問題に対しては、中小企業の意思決定の早さを活かし、小規模なプロジェクトへの参加や業務の一部委譲を通じて、少しずつステップアップを実感できる機会を用意することが効果的でしょう。メンターがフィードバックを通じて伴走すれば、「できるようになった」という実感も後押しできます。西村・梅崎(2025)も、社内でのキャリア形成を支える仕組みが、若手が将来の見通しを持てるかどうかに影響し、定着に関わると指摘しています。

2年目以降:働き続けることの価値を提供する時期
尾形(2024)は、入社1年を経て組織の様々な面が見えてくると、改めて理想と現実を比べて生じるズレが離職につながりうると指摘し、この会社で長く働くことがプラスだと思える経験や教育を提供することが重要だと述べています。期末や半期などの節目にキャリアや業務の希望を確認する面談を制度化し、できる範囲で希望を業務に反映していくとよいでしょう。
また、こうした面談を経営層自らが担うことも一案です。本人のキャリア志向を把握するとともに、自社の価値観や方向性も踏まえながら、どのような経験や教育機会を提供していくかを検討する場として活用できます。

おわりに

中小企業における新卒採用が容易でなく、転職が珍しくなくなった今、新入社員の定着は重要な経営課題です。すべての離職を防げるわけではありませんが、オンボーディングに取り組むことで、少なくとも「育てるつもりだった人材が、組織になじめないことを理由に離れてしまう」事態は減らせるのではないでしょうか。 最初の一歩としておすすめしたいのは、現在の自社におけるオンボーディングについて

①どの時期にどのような施策を行っているか
②どの施策にどの立場の人を巻き込めているか

を整理し、「追加すべき施策」と「これから巻き込むべき人」を洗い出すことです。
経営層から現場まで、組織全体でオンボーディングに取り組み、役割や負担を分散させながら入社後の時期に応じた支援を行っていくことで、新入社員の定着に繋げていただければと思います。

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参考文献

  • 厚生労働省(2025)「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」
  • 中小企業庁(2024)「小規模事業者の人材確保と育成に向けた取組」(小規模企業白書)
  • 尾形真実哉(2012)「リアリティ・ショック(reality shock)の概念整理」
  • 中小企業庁(2025)「2025年版 中小企業白書」
  • 冨山禎信(2020)「中小企業における離職抑制方法としてのフォレット管理論」『関西ベンチャー学会誌』第12号、pp53-62.
  • 尾形真実哉(2022) 「中小企業における中途採用者のオンボーディング施策の現状と効果的な施策」
  • Klein, H. J and B. Polin(2012),“Are Organizations on Board with Best Practices Onboarding? ” In Wanberg, C. R.(ed.),The Oxford Handbook of Organizational Socialization, pp.267-287, Oxford University Press
  • 山下紗矢佳(2025)「中小企業における人材確保・育成の構造的課題と展望-神戸市を中心とする中小企業の実証分析に基づく考察-」『中小企業季報』No.2、pp39-56.
  • 山本和史(2017)「中小企業における 新卒採用行動に関する実証分析」『日本労務学会誌』Vol.18 No. 1、pp4-20.
  • 鬼丸朋子(2009)「都市に立地する中小企業における人材確保・人材育成に関する一考察」『企業環境研究年報』No,14、pp91-102.
  • 兼村智也(2020)「機械振興協会・地方中小企業の採用・人材育成」
  • 小笠原洋平(2025)「雇用流動化における組織定着の重要性~組織社会化観点から~」(マイナビ総合研究所)
  • マイナビ研修サービス(2026)「マイナビ新入社員研修 2026年度 新入社員のキャリア意識調査」
  • 西村純・梅崎修(2025)「入社 3 年目までの人材定着を決定する キャリア支援 ―新卒採用と中途採用の比較から―」『法政大学キャリアデザイン学部紀要』第22巻、pp87-107.
  • 尾形真実哉(2024)「新卒採用者のオンボーディング プログラムのデザインとコンテンツ」『甲南経営研究』第65巻第1・2号、pp57-97.
  • Organization マイナビ総合研究所

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  • 人材採用・育成 更新日:2026/08/19
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