社会⼈スキルに新たな類型。データが示した「0から生み出す能⼒」とは‐論⽂「社会⼈スキルにおける諸因子の統一的定義の試み」より
社会⼈に求められるスキルとして、「コミュニケーション能⼒」や「論理的思考⼒」といった⾔葉を頻繁に耳にします。しかし、それらが具体的に何を指すのかは、評価する⼈や組織によってばらつきがあるのが実情です。企業では、採用面接での評価基準が面接官によって異なることや、育成の方針が上司によって変わってしまうことは、さほど珍しいことではありません。その根底には「スキルの定義が共有されていない」という構造的な問題があるのではないでしょうか。マイナビ総合研究所の今井良主席研究員は、5,600名を対象とした大規模調査と統計分析を通じて、社会⼈スキルの統一的な定義を試みました。研究の背景と結果、そして今後の展望を聞きました。
スキルの「共通⾔語」をつくる──5,600名の調査で⾒えた4つの類型
Q1:本研究の概要についてご説明ください。
今井: 社会⼈に必要なスキルとして語られるものは、⼈によって、時代によって、国や企業といった⽴場によって、その名前も定義もバラバラであることが少なくありません。共通の⾔葉として存在しているはずのスキルが、実際にはそれぞれの主観で処理されてしまっている。そういった問題意識から出発した研究です。では、それらを客観的な指標として整理し、みんなが統一した⾒解としてスキルを語れるようにするとしたら、どのような枠組みが⾒えてくるのか──それが、この研究の根本にある問いです。
具体的には、まず先⾏研究や世に語られる各種スキル概念を幅広く収集・整理し、39のスキル因子を抽出しました。論理的思考能⼒、コミュニケーション能⼒、⾃⼰管理能⼒という3つの能⼒軸との関連を指標として、19歳から79歳の正社員5,600名を対象にWEBアンケートを実施し、クラスタ分析(似た特徴を持つものをグループにまとめる統計⼿法)によって分類した結果、39のスキルは統計的に4つの類型に整理されました。研究の射程としては、社会⼈スキルに限らず、⼈として生きる上で必要なスキルまで広く含めて因子を洗い出している点も特徴です。採用・育成・評価といった場面でスキルを共通の⾔語として使えるようにすること、それがこの研究の目指すところです。
「スキルの定義のばらつき」が生む課題とは
Q2:本研究において「スキル」というテーマに着目された背景には、どのような課題認識があったのでしょうか。
今井:
私⾃⾝、現在は部⻑として組織のマネジメントに携わっており、部下のスキル育成を考える⽴場にあります。育成マネジメントの現場では、たとえば私が部⻑として課⻑に「この社員のコミュニケーション⼒を⾼めていこう」と伝えたとしても、私が課⻑に伝えたコミュニケーションと、課⻑がその部下に伝えるコミュニケーションは、また別のものになってしまうことがあります。同じ⾔葉を使っているのに、定義という意味ではばらついていく──この問題意識はずっと持ち続けていました。
採用の領域でも同じことがいえます。「この候補者は論理的思考⼒がある」とジャッジする場合、社会⼈が重視する論理的思考⼒と、就活生が大学時代に培ってきたそれとでは、⾒ている視点がずれています。こうした評価のばらつきは個⼈の問題ではなく、構造的なものです。こうしたばらつきをひとまとめにできるとしたらどうなるのか。こうした視点を元に、客観的な評価指標を試みたというのが出発点です。さらに、採用した後の育成・教育、若⼿⼈材の活躍まで視野に⼊れると、スキルという⾔葉は一層大きな役割を果たすことになります。⼊り⼝の段階からスキルの共通⾒解を持っていなければ、その後の育成にも一貫性が保てません。マイナビとして採用から育成まで一貫したサービスを提供していく上でも、スキルの共通定義は⽋かせないという思いもあり、この研究に取り組むことになりました。
先⾏研究から39のスキルを抽出し、統計分析で⾒えた4つの類型
Q3:今回の分析を通じて、社会⼈に求められるスキルについて、どのような構造的な知⾒が得られたのかを教えてください。
今井:
最初に取り組んだのは、スキルの諸因子を洗い出すことです。主観によって異なるスキルを主観のまま扱うことはできないため、先⾏研究や学術的に研究されてきた知⾒を起点にしました。
洗い出すにあたっては、社会⼈スキルに限定せず、より広い視点をとりました。社会⼈というのはあくまでスキルを⾒る一つの軸に過ぎません。「働く上で必要なスキル」の土台には、「⼈として生きる上で必要なスキル」があるからです。国内外の先⾏研究に加え、OECDのラーニングコンパス2030など、教育段階のスキル定義も含め、ありとあらゆる年代・場面・事象ごとに語られるスキルを調べ上げました。当初ピックアップしたスキルは200〜300ほどありましたが、重複を整理・集約した上で、39個に絞り込みました。
※39のスキル因子の説明等、詳細についてはこちらの詳細ページからPDFをDLいただけます。因子名は下図の通りです。
次に、この39のスキルをWEBアンケートによって検証しました。39項目は各場面から取ってきたものである以上、そのままでは客観的な指標とはいえません。そこで「論理的思考能⼒」「コミュニケーション能⼒」「⾃⼰管理能⼒」という3つの大きな能⼒軸を設定し、各スキルがどの軸に近いかをクラスタ分析によって分類しました。グループ数を2つから6つまで変えながら比較した結果、4つに分けた場合が最もまとまりの良い分類であるという結論になりました。また、別の分析⼿法で同じデータを検証しても同じ4つのグループが再現されることも確認しており、結果の信頼性が担保されています。
当初は3つの類型での分類を想定していましたが、最終的に4つの類型が最も適切という結論になりました。もともと想定していたコミュニケーション能⼒・論理的思考能⼒・⾃⼰管理能⼒の3つはきれいに分類されたのですが、もう一つ、そのどこにも属さないスキル群が現れました──それが「0から生み出す能⼒」です。創造⼒や発想⼒など、既存の3つの能⼒軸では説明しきれない、ゼロから新しいものを生み出すことに関わるスキル群です。
また、4類型の「社会⼈としての重要度」を統計的に比較したところ、類型によって重要度に差があるとはいえないという結果が出ており、「どれか一つだけが大事」という結論にはなりませんでした。
データが示した新たな類型。VUCAの時代に全員が必要とする「0から生み出す能⼒」とは
Q4:本研究の中で、特に特徴的だと感じられている点や、従来の捉え⽅とは異なる点について、お聞かせいただけますか。
今井:
同じ定義のスキルを同じ⾔葉として調査に用いたことで、4類型にきれいに分かれた点は、共通⾒解の形成という意味で大きな収穫でした。また、提示した39のスキルはいずれも「重要だ」と認識される結果となり、重要度の評価から外れるものがなかった点も確認できました。39のスキル群がそれぞれ意味を持つものとして位置づけられたことは、有意義な知⾒だったと考えています。
各企業が設定するコンピテンシーや社内スキル基準は、その組織の⽂脈に特化した限定的なものになりやすい傾向があります。これに対し本研究では、OECDのラーニングコンパス2030を含む教育分野のスキル定義や、海外・国内の先⾏研究から「⼈としてのスキル」という⻑い軸で網羅的に因子を抽出した上で39個に集約しています。スキルの抽出範囲の広さも、本研究の特徴の一つといえるでしょう。
発想⼒やゼロから何かを生み出す⼒は、必要なものだとはよく⾔われてきました。しかし今回の分析で重要だったのは、それが「一部の優秀な⼈だけに必要なもの」ではなく、組織における全員に共通して必要なスキルとして認識されていることが、データとして示された点です。
イノベーションに関する研究は10年ほど前にも盛んに⾏われていましたが、当時は主に優秀層や特定の役割を担う⼈が必要とするものとして論じられていました。今回の分析では、年代や職位を問わず、幅広い層が「0から生み出す能⼒」を重要なスキルとして認識していることが確認されています。VUCAという⾔葉がここ数年で広まる中で、なんとなく感じられていたこの⼒の重要性が、データによって裏づけられた──それが大きな意味を持つと考えています。
スキルとパーソナリティの混同も、現場でよく起きていることです。たとえば「静かな⼈はコミュニケーション能⼒が低い」という判断は、採用面接の場でしばしば聞かれます。しかし、それは実際の仕事ぶりから判断したものではなく、パーソナリティから「その可能性がある」と推測しているに過ぎません。パーソナリティを根拠にスキルを評価するのは危険であり、本研究ではスキルの定義をパーソナリティと切り離して確⽴しています。この区別が明確になることで、より公正なスキル評価の土台ができるのではないでしょうか。
定義化は出発点。スキルと実務をつなぐ今後の研究展望
Q5:今回の研究で明らかになったスキル構造は、現場のどのような場⾯で活⽤が期待できそうでしょうか。今後の展望があれば教えてください。
今井:
スキルという⾔葉は、定義されてはじめて共通の指標として使えるようになります。とはいえ、定義すること⾃体はあくまで出発点であり、実際にそのスキルが発揮されているかどうかはまた別の問いです。今回の研究が目指したのはまさにその出発点、つまり「何が存在していて、どの部分が共通認識として持てるのか」を明確にすることです。実際の業務の中で「今、⾃分は論理的思考⼒を発揮している」と意識しながら働いている⼈はほとんどいないはずです。ある業務が達成できた時に、その背後にどのスキルが働いていたのかを後から振り返ることが多い。スキルと実際の⾏動・成果との紐づけは、今後の研究課題として取り組まなければならないと考えています。
今回39のスキルが共通⾒解として定義されたことで、⾃⼰分析や振り返り、上司と部下の面談、採用時の候補者評価など、さまざまな場面でスキルを共通の⾔葉として使えるようになります。これまでは、コンピテンシーとスキルが混同されたり、経験則と能⼒が区別されないまま評価者によってバラバラな基準で判断されたりしてきました。スキルという点においては、共通の⾔語で語れるようになったことに意義があります。
目標管理制度(MBO)への活用も考えられるのではないでしょうか。ただし、評価制度に直接組み込むにはまだ難しい面もあります。各社・各職場の⽂脈に合わせて例えば、「論理的思考能⼒の中の『決断⼒』については、この⾏動が3回以上あれば4点とする」といった形で、定義の上に⾏動基準を重ねていく使い方が現実的ではないかと考えています。スキルという⾔葉で想起するものが近しくなれば、上から伝える側も伝えやすくなりますし、受け取る側も「確かに」と納得しやすくなるはずです。
現段階では、定義化という出発点に立ったところです。39のスキルが実際の職場でどう使われているか、どの場面でどのスキルが発揮されているかは、まだ明らかにされていません。今後は、業務経験を持つ社会⼈が実際にどのスキルをどの程度使ったかを振り返る形の調査を行い、スキルと実務の紐づけを進めていく必要があると考えています。
それが実現すると、業種・業界・年代別に「活躍している⼈はどのスキルをどう使っているか」という傾向値が算出できるようになります。たとえば製造業においてはこのスキルが活躍⼈材の特徴である、といった指標化が可能になれば、各社の育成・採用設計に具体的に役⽴てることができるのではないでしょうか。
また、本研究は社会⼈に特化した取り組みですが、OECDのラーニングコンパス2030など教育段階のスキル定義との接続も、今後の重要な研究課題です。⼈生100年時代において、⼩中等教育から社会⼈のスキルを統一した指標で一貫して捉えることができれば、採用・評価・育成の場面でより精度の⾼い活用が可能になると考えています。
— ありがとうございました。
まとめ
今回のインタビューを通じて印象的だったのは、今井研究員が「スキルはあくまで⾔葉である」と語りながらも、その⾔葉を整える作業に真摯に向き合っている姿勢でした。バラバラに語られてきたスキルを、データに基づいて4つの類型へと整理する。そのプロセスには、採用や育成の現場で⻑年感じてきた「ばらつき」への危機感が一貫して流れていたように思います。とりわけ「0から生み出す能⼒」が独⽴した類型として浮かび上がった点は、VUCAという⾔葉が一般化した今だからこそ実感を持って受け止められるものでした。定義は出発点に過ぎないという今井研究員の⾔葉どおり、この研究が今後どのように展開していくのか、引き続き注目していきたいと思います。
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- 人材採用・育成 更新日:2026/07/29
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