【研究会報告】採用課題はどこで生まれるのか?データと現場の声から読み解く「新卒採用プロセスの構造」【マイナビ総合研究所】
新卒採用の現場では、「応募は一定数あるが求める人材と合わない」「選考は順調に進んでいるように見えるのに、最終的には辞退が多い」といった課題が多くの企業で見られます。しかし、それらの課題が「どのプロセスで、なぜ起きているのか」を明確に説明できているケースは決して多くありません。
マイナビ総合研究所では、こうした状況を踏まえ、「採用課題とは何か」を改めて捉え直すための研究会を発足しました。本研究会では、全国の採用担当者約2,000名および求職者(学生)約1,000名を対象とした調査データと研究会参加企業の現場の声をもとに、新卒採用プロセスを分解しながら、その構造を明らかにしていきます。
第1回では「採用プロセスにおいて何が起きているのか」をテーマに、エントリー・選考・内定承諾の各フェーズで見られる特徴を整理しました。さらに、参加企業との議論を通じて、採用課題をどのように捉えていくべきかについて、具体的な問いを発散させる議論が行われました。本記事では、その議論のポイントをレポートとしてお届けするとともに、自社の採用課題を見直すためのヒントを紹介します。
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佐藤 優介 様 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任教員
一般社団法人HR Buddy研究所 代表理事大学卒業後、アクセンチュア株式会社に新卒入社し、戦略コンサルタントとして中期経営戦略立案やデータ分析などのプロジェクトに従事。その後人事部に異動し中途採用、新卒採用の責任者、人事戦略や人事システム導入を担当。また慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科にて博士号を取得(SDM学)
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宮川 祥子 様 お茶の水女子大学大学院 博士後期課程
一般社団法人HR Buddy研究所 主任研究員大学卒業後、IT企業に入社しシステムコンサルタント業務に従事。その後お茶の水女子大学大学院に進学し、組織文化や価値観における個人と組織の適合性とモチベーションやコラボレーションの関連」に関する研究に取り組む。1on1研修などのセミナーにも登壇。
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増原 広成 様 昭和女子大学 グローバルビジネス学部 専任講師
一般社団法人HR Buddy研究所 研究員大学卒業後、一橋大学大学院経済学研究科修士課程を修了し同学科博士課程を修了(経済学)。NIRA総合研究開発機構研究員を経て現在は昭和女子大学の専任講師として従事。
データで見る“課題の入口”
今回の分析では、採用活動を以下の3つのフェーズに分解し、それぞれの論点を整理しました。
この分解によって見えてきたのは、採用における課題は単一ではなく、フェーズごとに異なる構造で発生しているという点です。
エントリーフェーズで何を訴求するべきか
エントリーフェーズにおいては、単一のチャネルではなく、複数接点の設計が重要であることが示唆されました。また、エントリーを促す訴求内容は大きく「人・雰囲気への適合感」「働き方・制度面の安心感」「成長・自己実現の可能性」の3つに整理されます。
つまり、エントリーは単なる母集団形成ではなく、「自分に合うか」を判断する最初の意思決定として機能しています。これらの接点や情報のあり方は、インターンシップや就職情報サイト、企業の採用サイトなどの各チャネルを横断的に活用しながら、一貫した採用体験として設計することが重要です。
選考フェーズでは何が選考辞退につながるのか
選考フェーズにおいては、それぞれの選考に意味があり求職者(学生)が納得感を持って参加できていれば選考プロセスが多くても、必ずしも辞退にはつながらないことが示唆されました。重要なのは回数ではなく、「納得感があるか」「企業理解が深まるか」「双方向のコミュニケーションになっているか」といった選考体験の質です。
一方で、エントリー時と選考時の訴求内容のズレが大きいほど、辞退が増える傾向も確認されました。
選考毎に目的・評価基準は設計されている企業は多いと思いますが、候補者にとっての意味も明確にし、エントリー時と一貫した選考体験を設計することが重要と言えそうです。
内定承諾フェーズで内定辞退につながる要因、つながらない要因とは
内定承諾フェーズにおいては、「福利厚生や担当者への信頼感は辞退抑制につながる」「柔軟な働き方など期待を高める要素は条件次第で辞退要因につながる」といった両面が見られました。
また、選考時と内定承諾時で理念や制度などの訴求点がズレている場合も内定辞退が高まる傾向が示唆されています。
承諾フェーズでは、求職者が入社意思を固めるためにそれまでに形成された企業理解を補強し、入社後に対する不安を減らすことが重要と言えそうです。
さらに、求職者(学生)データからは、就職活動の満足度が高いほど入社後の就労意欲が高いという関係が確認されました。これは採用活動が単なる選抜プロセスではなく、入社後の活躍にもつながる“体験設計”であることを示しています。
研究会で“発散”する問い
第1回の中心は、これらの分析結果をもとにした「問いの発散」にありました。現場の人事担当者からは、実務に根差した論点が多数提示されました。
1.制度と実態はどちらを訴求すべきか
内定承諾フェーズにも記載の通り、在宅勤務をはじめとした働き方について、「制度の有無」と「実際の利用状況」のどちらを訴求すべきかが議論されました。この背景にあるのは、制度と実態のズレが、入社後のギャップや辞退につながるのではないかという課題意識です。
2.分析の粒度はどこまで必要か
「働きやすさ」「働きがい」といった抽象的な概念と、具体的な制度が混在する中で、「分析の粒度が粗すぎると施策に落ちない」「細かすぎると全体像が見えない」という課題が共有されました。分析結果を現場で使える示唆にするために、全体傾向だけではなく目線合わせした上で具体化する必要があるという問題意識が示されました。
3.データにおける平均をどう捉えるか
地域差、業種差、職種差といった観点から、「平均値はそのまま使えないのではないか」という指摘もありました。特に在宅勤務のように環境依存の高い項目では、前提条件の整理が不可欠と言えそうです。
また、「IT職種と営業職では採用の論点が違う」という現場感から、「一般的な学生ではなく特定ターゲットで考えるべき」という方向性が共有されました。
4.内定辞退はどう測るべきか
内定辞退については、客観データで見るべきか現場感覚も含めるべきかという議論が行われました。採用担当者の主観評価も含まれるため、分析結果の解釈においては留意が必要であることも確認されました。
5.採用体験はどこまで設計できるのか
求職者のモチベーションに関しては、「入社前の意欲には賞味期限がある」「体験設計でギャップは減らせる」という対立的な意見が出ました。
採用は人材の見極めではなく期待調整と納得形成のプロセスなのかという本質的な問いにつながります。
課題の具体を言語化する~自社の採用課題はなぜ起こるのか
こうした議論を踏まえ、採用課題は以下の5つの「ズレ」として整理できます。
| ズレの種類 | 起きやすいフェーズ | 現場で起きる症状 | 何がズレているか | 起きている状態 |
|---|---|---|---|---|
| 接点のズレ | エントリーフェーズ | 応募数が伸びない/求める層からの応募が少ない | 目的に応じたチャネル設計と適切な活用 | 候補者との接点が不足している/届くべき層に届いていない |
| 訴求のズレ | エントリーフェーズ〜選考フェーズ | 興味喚起が弱い/応募後に違和感が生じる | 企業が伝えている魅力と、候補者が判断材料にしたい情報 | 企業理解が浅いまま応募・選考に進んでいる/期待形成が不十分 |
| 選考体験のズレ | 選考フェーズ | 選考辞退が起きる/選考への負担感・不透明感が高まる | 企業が見極めたいポイントと候補者が納得できる選考プロセス | 評価基準や選考目的が伝わらず、一方的に評価されている感覚が生じている |
| メッセージ一貫性のズレ | エントリーフェーズ〜選考フェーズ〜内定承諾フェーズ | 選考途中で違和感が強まる/志望度が下がる | エントリー時に伝えた企業像と、選考中・内定承諾時に伝わる企業像 | フェーズごとに訴求内容が変わり、候補者の期待と実体験が一致していない |
| 承諾判断のズレ | 内定承諾フェーズ | 内定辞退が起きる/最後に不安が顕在化する | 選考中に形成された期待と、内定承諾時に確認される現実 | 入社後の働き方・制度・休暇・理念への納得感が十分に補強されていない |
例えば、自社の課題に当てはめると以下のように捉えることができます。
・選考は進むが辞退が多い → メッセージ一貫性のズレ
求職者と企業の認識にギャップが生じ選考を通過しても辞退されてしまっている可能性が考えられます。
・母集団はあるが質が合わない → 接点のズレ
採用における各チャネルでの接点設計、情報設計にストーリー性がない、魅力が訴求されていない可能性が考えられます。
・内定後に離脱が多い → 承諾判断のズレ
内定承諾フェーズで企業理解を補強できていない、入社後の不安を解消できていない可能性が考えられます。
これらのズレに対して次回以降、データ並びに人事担当者の声をもとに「どのフェーズで何が影響しているのか」を可視化していく必要があります。
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- 人材採用・育成 更新日:2026/07/06
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