中間管理職は何をAIに任せるとよいのか?デジタル化時代における「任せ方」の戦略
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池田めぐみ 様 筑波大学 ビジネスサイエンス系 助教
東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。東京大学大学院情報学環特任研究員、東京大学社会科学研究所助教を経て2024年4月より現職。研究テーマは、職場のレジリエンス、若手従業員の育成。共著書籍に『チームレジリエンス:困難と不確実性に強いチームのつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)、分担執筆として関わった書籍に『活躍する若手社員をどう育てるか』(慶應義塾大学出版会)、『ジョブ・クラフティング:仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』(白桃書房) など。
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小笠原 洋平 マイナビ総合研究所 所長
2004年4月大学卒業後、毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)に入社。キャリアナビ事業部(現転職情報事業本部)にて、中途採用に関するコンサルティング営業に従事。その後、2009年から研修企画部(現教育研修事業部)へ異動し、人材開発・組織開発に関するコンサルティング営業に従事。また、新組織の立ち上げ(営業部門、人材開発部門、営業支援部門、事業開発部門)、教育体系構築、事業責任者なども経験。2025年4月から、新たにシンクタンク事業の責任者として立ち上げに携わる。
はじめに
「AIに仕事を奪われるのではないか」。デジタル化や生成AIの普及を前に、中間管理職の方からこうした不安の声を耳にすることは少なくありません。一方で、「AIをうまく使えば、もっと戦略的な仕事に集中できるはずだ」という期待も、同時に語られています。
では実際のところ、AIや自動化は中間管理職にとって「脅威」なのでしょうか、それとも「機会」なのでしょうか。この問いに対して、非常に興味深い示唆を与えてくれるのが、Van Doornら(2023)の研究です。
Van Doornらは、中間管理職の仕事を大きく二つに分けています。
一つは、定型的(フォーマル・ラショナル)な業務です。 これは、ルールが明確で、繰り返しが多く、明示的な情報を扱う仕事です。たとえば、定例レポートの作成、数値の集計、進捗報告などが該当します。
もう一つは、非定型的(サブスタンティブ・ラショナル)な業務です。 こちらは、将来を見据えた判断や、状況依存的な意思決定を含み、暗黙知や経験がものを言う仕事です。典型例が、予算編成や投資判断、部門間の調整などです。
若手に利点を生む定型業務のAI活用
Van Doornら(2023)によると、
在職期間が短い中間管理職(いわば若手管理職)の場合、定型的な業務をAIに任せることは、むしろプラスに働くことが示されています。
定型業務が自動化されると、単純に時間に余裕が生まれます。そして、本来すべき仕事(戦略作成など)に関与しやすくなると言われています。
一方で、在職期間が長い中間管理職(いわばベテラン管理職)の場合、話は少し変わってきます。
長年同じポジションで働いてきた人ほど、定型業務の進め方が「身体化」しています。そのやり方が突然AIに置き換えられると、スキルが活かせなくなるだけでなく、役割そのものを再定義する必要に迫られます。このときに生じるのが、スイッチングコスト(この文章内では、「慣れ親しんだ定型業務の手順を捨て、AIでの作業手順に適応するための時間的・心理的・技術的負担」のことを示します)です。「分かってはいるが、頭と体が切り替わらない」そんな状態が、戦略的な仕事への移行を妨げてしまうのです。その結果、定型業務の自動化が、ベテラン管理職の戦略関与を必ずしも高めない、という現象が起こります。
非定型業務の自動化は、なぜ危険なのか
さらに興味深いのが、非定型業務をAIに任せた場合です。
予算編成や将来予測のような仕事は、一見するとAIが得意そうに見えます。
しかし研究では、こうした業務の自動化は、特に若手管理職にとってマイナスの影響を持つことが示されています。
なぜなら、AIの出力を正しく解釈し、修正し、意思決定につなげるには、豊富な暗黙知と経験が必要だからです。若手管理職は、その前提となる経験が十分でないため、「AIの言うことをどう扱えばいいのか分からない」「結果に責任を持ちきれない」という状態に陥りやすくなります。結果として、戦略的な関与どころか、かえって距離が生まれてしまうのです。
対照的に、ベテラン管理職は、非定型業務の自動化による負の影響が緩和されます。長年の経験によって蓄積された暗黙知があるため、AIの出力を「そのまま使う」のではなく、「補正し、文脈に当てはめ、判断する」ことができるのです。
中間管理職の種別、AIの導入対象業務と利用成果の想定
実務におけるAI活用3つのポイント
では、実際の職場ではどのようにAI活用を進めればよいのでしょうか。Van Doornら(2023)の知見を踏まえると、少なくとも次の三つのポイントが重要になります。
第一に、「AIに任せるタスク」を明確に切り分けることです。
特に若手管理職の場合は、レポート作成、データ整理、定例資料の作成などの定型業務からAI活用を始めることが効果的です。これにより、管理職が戦略検討や部門間調整といった、本来のマネジメント業務に時間を割きやすくなります。
第二に、「AIを判断の代替ではなく補助として使う」ことです。
予算配分や将来予測などの非定型業務では、AIの出力をそのまま意思決定に用いるのではなく、「仮説を出すための材料」として扱うことが重要です。特に若手管理職の場合、AIの結果を鵜呑みにするのではなく、上司やベテランと議論するプロセスを設けることが、意思決定能力の育成にもつながります。
第三に、「AI導入を役割再設計のプロセスとして捉える」ことです。
ベテラン管理職にとっては、長年取り組んできた定型業務の自動化が、役割喪失の感覚を生むこともあります。例えば、月次の業績資料の作成のような業務でも、「どの数字を強調するか」「どの順番で説明するか」といった判断には、長年の経験や暗黙知が反映されています。こうした仕事がAIによって自動化されると、単に作業が減るだけでなく、自分の経験や判断を活かす場面が減ったように感じられることがあります。そのため、AI導入を単なる業務削減として進めるのではなく、ベテラン管理職が持つ判断力や文脈理解を、より活かせる業務へと役割を再設計することが重要です。
AI導入の成否は、「AIを導入したかどうか」ではなく、「人とタスクの組み合わせをどう再設計したか」によって決まります。AI活用とは単なるIT導入ではなく、マネジメントの設計そのものなのかもしれません。
本レポートは、株式会社マイナビと東京大学大学院 情報学環 山内祐平 研究室との共同研究における先行研究の調査・整理に基づくものです。
編集後記
日々の業務の中で、「これはAIに任せられる仕事なのでは」と感じる場面は増えてきています。 一方で、「判断まで任せてしまってよいのか」と迷うことも少なくありません。本記事では、そうした悩みに対して、研究の知見から一つの視点を提示してきました。
AIによって業務は効率化できますが、最終的な判断や責任、部門間連携など、管理職に残る仕事は確実に存在します。
AIを活用することは、仕事を減らすことではなく、何に時間を使うかを選ぶことではないでしょうか。
忙しい現場だからこそ、「任せてもいい仕事」と「自分が向き合うべき仕事」を考えるきっかけとして、本記事を活用してもらえましたら幸いです。
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- 人材採用・育成 更新日:2026/06/16
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