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AIを使った仕事は「自分のもの」か ―心理的所有で紐解く意欲を削がないAIの活用法―

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AIで仕事が早く進むようになった一方で、「これって自分の仕事と言えるのだろうか」と感じたことはないでしょうか。
便利さの裏で見落とされがちなのが、仕事を「自分のもの」と感じる感覚です。
このコラムでは、「心理的所有」という考え方を手がかりに、AI時代のやりがいや主体性について考えます。

マイナビ総合研究所が実施した働き方と生成AIに関する調査はこちらからご覧いただけます。
働き方と生成AIに関する定点調査 -人とAIの共創社会はどのようにして成るか-|マイナビ 総合研究所推進室

  • 東京大学大学院 情報学環 特任研究員番匠武蔵様のプロフィール写真
  • 番匠武蔵 様 東京大学大学院 情報学環 特任研究員

    京都大学 情報学研究科修士課程修了。野村総合研究所にてシステム開発のプロジェクト・マネジメントを経験。次に、株式会社コーチ・エィにて、経営者や管理職のリーダーシップ開発を基軸とした組織開発に12年間従事。また360度サーベイなど組織調査プロダクトを開発した。その後、人材育成のスケールを目的にAIテック企業であるエクサウィザーズへ入社、HRTechプロダクトの開発を手がける。退職後、株式会社ラテイルを設立。2023年より立教大学大学院経営学研究科の博士後期課程に所属し新任管理職の研究をしている。

  • マイナビ総合研究所 所長 小笠原洋平氏のプロフィール写真
  • 小笠原 洋平 マイナビ総合研究所 所長

    2004年4月大学卒業後、毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)に入社。 キャリアナビ事業部(現転職情報事業本部)にて、中途採用に関するコンサルティング営業に従事。
    その後、2009年から研修企画部(現教育研修事業部)へ異動し、人材開発・組織開発に関するコンサルティング営業に従事。
    また、新組織の立ち上げ(営業部門、人材開発部門、営業支援部門、事業開発部門)、教育体系構築、事業責任者なども経験。
    2025年4月から、新たにシンクタンク事業の責任者として立ち上げに携わる。

はじめに

職場における生成AIの活用は進んでおり、今後さらに広がっていくことに異論を持つ人は少ないでしょう。生成AIの活用は、主に業務の効率化を目的として進んでいますが、仕事の進め方の変化は良いことばかりをもたらすわけではありません。実際に生成AIを利用している従業員からは、「AIが数秒でやってしまうから、自分が担当するやりがいを感じない」「誰がやっても同じだから、やる気がでない」という声を耳にすることもあります。
このコラムでは、生成AI活用により仕事の自分事化が毀損(きそん)される問題に対して、「心理的所有(psychological ownership)」という概念を用いて紐解いていきたいと思います。人は何をもって「これは自分のものだ」と感じるのでしょうか、また生成AIとどうつきあっていけば自分事だと感じることができるのでしょうか。

仕事の「心理的所有」とは何か

まず、「心理的所有」という言葉について説明しましょう。 心理的所有とは、「個人が、所有意識の対象(あるいはその一部)が自分のもの(It is MINE)であるかのように感じている状態」(Pierce et al., 2001)とされています。「自分のもの」と感じる対象は非常に広く、社員食堂のお気に入りの席のように小さなものから、自分が作成した資料や製品、会社や産業全体のように大きなものまで含まれます。
さて、仕事において、心理的所有が高い場合と低い場合ではどちらの方が仕事のパフォーマンスは高くなるでしょうか。働く人が仕事を自分のものだと感じていれば(つまり心理的所有が高ければ)、それは積極的な姿勢へとつながり、満足感や成果も高まることがこれまでの研究から明らかになっています。さらに、自分のものを失いたくないと思うため、仕事を辞める可能性も低くなる(Zhang et al., 2020)とされています。 このように、心理的所有は高い方が組織と個人にとってポジティブな結果をもたらす場合が多いことが分かっています。

では、どうすればこの心理的所有を高めることができるのでしょうか。
心理的所有は「対象の制御」、「深い理解」、「自己投資」、という3つの経路を通じて形成されます。1つ目の「対象の制御」とは、自分が対象を制御できる度合いであり、2つ目の「深い理解」とは自分が対象に対して知識を持っている度合い、3つ目の「自己投資」とは、自分が対象に注いだエネルギー、時間の量を指します。それぞれ度合いと量が大きいほど心理的所有も高くなります。たとえば資料作成の仕事であれば、自分で進め方やデザインを決め(対象の制御)、自分の持つ多くの知識を詰め込み(深い理解)、時間をかけて(自己投資)作成した資料に対しては、これは「自分のものである」と強く感じる、つまり心理的所有が高いということになります。

心理的所有の概念図

では、AI活用がなぜ心理的所有を下げてしまうと言われるのか、またどうしたらAIを活用しても心理的所有を下げないでいられるのかについて見ていきましょう。現在の技術水準に達した生成AIの職場利用に関する研究はまさに発展中であり、査読論文ではない研究結果も含めて紹介していきたいと思います。

AI活用が仕事の心理的所有感に及ぼす影響とは

まず、AIを利用すると心理的所有の感覚がなくなるというわけではありません。AIへの指示であるプロンプトを試行錯誤したりすることで、心理的所有感が高まることが確認されています。(Kim et al., 2025) 一方で、活用方法によっては、心理的所有を低下させてしまう場合もあります。
Zwingmann et al.(2026)の研究では、AI利用の影響を調べるために次のような実験を行いました。 参加者はまず2つのグループに分けられました。グループAの参加者は最初に自分で記事を書き、その後AIを利用して推敲や修正を行いました。グループBでは、参加者はタイトルやキーワード、文章の長さを入力し、それに基づいてAIが記事の初稿を作成した後、参加者が記事を確認し編集を行いました。グループAとBの心理的所有にはどのような違いが出るでしょうか。

ABグループ比較実験の説明

結果としては、グループBはグループAに比べ心理的所有が低い状態となりました。これは、先に見た心理的所有が高まる3つの経路を思い出すと理由が説明できます。まず、グループBはゼロから文章を生み出すというエネルギーを注ぎ込んでおらず「自己投資」がグループAよりも少なくなります。加えて、グループBは「対象の制御」においても弱い状態となっています。というのも、初稿をAIが作成したことで、参加者ははじめに枠組みを決められた状態となり、それに従うという心理的な状態になっているのです。つまり、グループAは参加者自身が記事の創作者のままである一方、グループBはAIが創作したものの編集者という役割になっていると解釈できます。

ABグループ比較実験結果に関する説明

このように、同じAIを活用して記事を作成するというタスクにおいても、その活用方法によって心理的所有には差があらわれます。先ほどの実験のような2パターンのAI活用方法はそれぞれ「拡張(augmentation)」と「代替(automation)」と呼ばれます。「拡張」はグループAにあたるもので、自分の能力を補完したり、強化したりするためにAIを活用する利用方法のことです。この場合、あくまで主導権は人間にあります。「代替」はグループBにあたり、人間のタスクをAIに代替して実行してもらう利用方法です。

「拡張」としてのAI活用のために

では、「代替」でなく「拡張」としてのAIを利用するにはどうしたらいいのでしょうか。その回答のヒントとなる研究をご紹介します。Xing et al. (2025)の研究では、管理職が部下への改善を促すネガティブフィードバック文章を作成する際にAIを活用するという設定の実験を行いました。

ひとつ目のグループはすべて自力で文章を作成し、もうひとつのグループはAIを活用してフィードバックを作成しました。結果はAIを活用した後者のグループは、作業は容易になったものの、心理的所有が低下しました。それだけでなく「自分がリーダーである」という感覚(リーダーシップ・アイデンティティー)も低下することが分かりました。これは、部下へのネガティブフィードバックという組織リーダーとして重要な仕事をAIに代替させているという認識がリーダーとしての責任感を損ねてしまうことを意味しています。

さらに、この研究では心理的所有を低下させずにAIを活用する方法にも言及しています。具体的には、参加者にAIを自分の能力の補完や強化として用いる「拡張」のマインドセットを持たせるという手法を試みました。参加者は、まず「AIがリーダーシップを高める役割を果たす」という記事を読み、AIが自身のリーダーシップを高める可能性について文章を作成しました。その後、部下へのネガティブフィードバックを作成したのです。その結果、無関係な記事を読んだグループと比較して、心理的所有は高い結果となりました。つまり、AIを「拡張」として利用するというマインドセットを持つことで、心理的所有の低下を軽減することが示唆されています。

実務に取り入れられる工夫や対策について

AIは「拡張」であるというマインドセットを持つことで心理的所有の低下を防ぐという研究を紹介しましたが、より具体的にどのような対応ができるのか考えてみましょう。Jun and Wang(2025)がデザインの仕事において、AIを活用しながらも所有感を保つための戦略を示しているので、それを参照しながら実践での工夫を検討したいと思います。

以下に筆者がJun and Wang(2025)を読んだ上で解釈し変更を加えた6つの対策を3つのカテゴリー「AIとの相互作用」「アウトカム」「情報源」に分け紹介します。

「AIとの相互作用」とは、プロンプトを用いてAIとやりとりをする場面においての対策であり、「アウトカム」とは、AIが出力する情報の評価などの対策、「情報源」とは、AIが利用する情報源に対しての対策となっています。それぞれ具体策を2つずつ次の表に記載します。

AIとの相互作用
1. AIの指導 AIから情報を得るだけでなく、業界や自社特有の情報をAIに伝える。また、AIのアウトプットに対して、こちらから情報を追加し、修正を求めるといった反復的な改善を行う。
2. 説明可能性の確保 AIがなぜそのアウトプットを出したのかブラックボックスのままとせず、なぜそのアウトプットなのかを質問し自分なりに理解をする。理解できない場合はAIのアウトプットをそのまま用いない。
アウトカム
3. 専門家によるレビュー 自分の理解を超える情報については、人間の専門家に相談しレビューを行う。
4. 低リスク領域の定義 リスクが低くAIに適しているタスクを特定し、その領域においてAIを活用する。
情報源
5. 情報源の確認 AIの出力に対して、どの資料を元に提示したのか情報源を確認する。
6. データの選択 AIの学習データを指定できるツールの場合、学習データを選択する。

AI活用時にこの6点を考慮することが心理的所有の維持につながります。

終わりに

AIを活用すると苦労することなくアウトプットが得られるため利用することがありますが、活用方法によっては心理的所有感を低下させてしまうことがあり、対策が必要となります。自分自身やチームのメンバーが生成AIを活用するときには、上に述べた6つの対策を参照のうえ、実行していくことで、心理的所有の低下を防ぎながらAIを活用できるでしょう。
仕事におけるAI活用は生産性の向上に光があたりがちですが、心理的所有についても目を向けるべきです。AIという強力な相棒を使いこなしながらも、いかに仕事の主導権を人間の中に保持し続けるか。そのマインドセットがAI時代の仕事の質を決める重要な要素となるのではないでしょうか。

※本レポートは、株式会社マイナビと東京大学大学院 情報学環 山内祐平 研究室との共同研究における先行研究の調査・整理に基づくものです。

編集後記

AIの活用は、すでに多くの職場で日常的なものになりつつあります。 業務効率が向上する一方で、本稿で紹介したように、AIとの関わり方次第では従業員の心理的所有が揺らぎ、仕事への向き合い方に影響が生じる可能性もあります。
だからこそ、タスクのどこをAIに任せ、どこを人が主体的に担うのかという「設計」次第で、結果が大きく変わってくるものだと考えます。特に代替的な活用では、自己投資や主導権を感じにくくなり、結果として所有感が下がってしまう可能性が研究からも示唆されています。
一方で、AIを「補完・拡張する存在」として位置づけ、プロンプトの試行錯誤や人の判断を介在させることで、所有感を維持できる可能性も明らかになっています。
AIが働き方を大きく変えていく時代において、従業員が「これは自分の仕事だ」と感じられる状態をどう守り、どう育てていくか。生産性の向上とともに、人とAIの関係性をどのように設計するかが、これからの組織の質を左右していくと考えられます。
人事・組織を担う皆様に求められるのは、【従業員が主体性や責任感を保ちながらAIを使いこなせる環境づくり】だと思います。
レポート内でまとめた対策を、より平易に整理すると、次のように言い換えられます。

  • 情報収集をすべてAIに任せるのではなく、人側からも情報を提供する
  • 出力結果は理由も含めて確認し、妄信しない
  • 正しさの最終判断は指示をした人が行い、必要に応じて専門家の力を借りる
  • どの情報を使い、どのような仕事をさせるかは、人が管理・決定する

これを一言で表すなら、「部下に指示を出したときに返ってきた成果物と向き合うときのような姿勢で、AIの成果物にも向き合う」ということではないかと感じています。
本稿で紹介しました対策が、皆様の取組の小さな支えとして、少しでもお役に立てば幸いです。

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  • 調査・データ 更新日:2026/05/15
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