内定辞退とミスマッチを防ぐ「戦略的な内定者フォロー」の極意。服部泰宏教授に聞く、3つのエントリー・マネジメントとは?
採用担当者の皆さまは、内定者期間の学生フォローをどのように行っていますか?
代表的な取り組みとしては、内定式や懇親会、内定者研修などが挙げられるでしょう。しかし、何をどのようなタイミングで行うべきかの「正解」が分からない。内定辞退が不安で、つなぎ止めのために何となく例年どおり実施している……という方も多いのが実情ではないでしょうか。
しかし本来、最後の1社として選んでもらうには、学生がその会社で働くことに納得し、意欲を高めていくためのフォローを、戦略的に行っていく必要があるはずです。
そこで今回は、内定者フォローの正解を探るべく、組織行動論を専門とする、神戸大学大学院の服部泰宏教授にインタビュー。内定者期間を、「期待」「関係」「認知的不協和」という3つの視点でマネジメントする重要性や、学生の心理に寄り添った「体験設計」の具体的なポイントを詳しく伺いました。内定辞退や入社後のリアリティ・ショックに悩む採用担当者必見の内容です。
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内定者フォローの本質は「3つのマネジメント」にあり
— 多くの採用担当者が「内定辞退」に悩んでいます。その背景には、何があるのでしょうか。
服部先生: 大きな要因は、内定者期間における「体験」の不足です。採用担当者の方は、次年度の採用活動の準備で忙しくなる時期でもあり、内定者フォローが「例年どおりの懇親会や内定式」といったテンプレートな施策に陥りがちではないかと思います。
しかし、現在の学生の中には、「本当にこの会社でいいのか」と迷いを抱えたまま入社までを過ごす人も少なくありません。
— その迷いを解消するために、どのような視点が必要ですか。
服部先生: 私は、内定者フォローを少なくとも3つの「エントリー・マネジメント」として捉えるべきだと考えています。
1つ目は、企業へのイメージを現実に即して調整する、「期待のマネジメント」。
2つ目は、人や組織との絆を育む、「関係のマネジメント」。
そして3つ目が、自分の選択を正当化しようとする心理を支援する、「認知的不協和のマネジメント」です。
— なぜこの3つが重要なのでしょうか。
服部先生: 学術的な観点から言えば、これらは入社後の「心理的契約」を安定させるための基盤だからです。これはつまり、企業と個人が「お互いに何を提供し合うか」という約束です。
これが欠けたまま入社すると、理想と現実のギャップに苦しむ「リアリティ・ショック」が起こったり、モチベーションが上がらなかったりと、早期離職の引き金になり得ます。この3つを軸に体験を設計することで、学生の「なんとなくの不安」を「前向きな覚悟」に変えることができるのです。
【期待のマネジメント】あえて「できないこと」を伝え、心理的契約を結ぶ
— まずは、「期待のマネジメント」についてです。学生の期待を高めるのではなく、調整することの真意について、詳しく教えてください。
服部先生: はい。期待を「高める」だけではなく、「現実ラインに置く」ことを目指します。
その過程では、「こんなことを伝えたら辞退されるのではないか」と不安になることもあるかもしれません。一方で、内定者の中には、内定を得たタイミングから“企業を改めて見極める立場”として、より高い解像度の情報を求めたり、「なにか隠していないか」と気にしながら向き合ったりする人もいます。
ここで重要になるのが、「RJP(Realistic Job Preview:現実的な仕事の情報開示)」です。うちはこれができるが、ここは提供できない。そうした「提供できないもの」を誠実に伝えるコミュニケーションが、かえって企業への信頼を高めます。
— 具体的な打ち手として、どのような方法が有効でしょうか。
服部先生: 「高解像度なタイムラインの共有」です。例えば、よく採用サイトに載っているような「キラキラした1日」ではなく、現場社員の泥臭い1日を分単位で語ってもらう、「特に忙しい日」をフォーカスして語ってもらう、などですね。
私の生徒は、先輩社員から「お昼休みにカフェでぼーっと考え事をして、アイデアをひらめいたら急いで机に戻って、資料作成に取り掛かることもある」という話を聞いて、自分の働く姿をクリアにイメージでき、入社の決意につながったといいます。
飾らないリアルな姿を「こと細かに」伝えることで、現実的な覚悟と期待を持って入社できるようになるわけです。
【関係のマネジメント】「利害のない他者」を介し、帰属意識を醸成する
— 2つ目の「関係のマネジメント」について伺います。人事担当者との関係だけでは不十分なのでしょうか。
服部先生: 採用担当者は、どうしても「会社を売り込む側」という利害関係者に見られがちです。情報の信憑性を高めるには、「利害の薄い、魅力的な他者」との接点をいかにつくるかが鍵です。具体的には、現場の若手社員や、同じ境遇の内定者同士です。
— 具体的に、採用担当者はどのような動きをすべきですか。
服部先生: 内定者一人ひとりの不安に合わせた「コンシェルジュ」になってください。
「この子の不安には、あの部署のあの先輩を合わせるのがベストだ」と見極め、引き合わせる。社内ネットワークを駆使して、内定者が「この人たちと一緒に働きたい」と思えるインフルエンサー的な個人との接点をアレンジする。この個別のマッチングこそが、組織への強い帰属意識を生みます。
【認知的不協和のマネジメント】「自己選択」の物語を共に作り上げる
— 3つ目の「認知的不協和のマネジメント」について。聞き慣れない言葉ですが、どのような概念ですか?
服部先生: 人は、大きな買い物や決断をした後、選ばなかった選択肢の方が良く見えてしまうことがあります。これが認知的不協和です。
例えば、奮発してハワイ旅行に申し込んだとします。その後、テレビでグアムの情報を見ると魅力的に感じたりしますよね。「グアムの方が近いし、安く済んだかも。ハワイを選んだのは間違いだったかもしれない……」と、決断と現実の間にギャップを感じ、それを「不協和」。つまり居心地悪く感じる、ということです。
これを取り除くには、本人が「自分で十分考えた末に決めたんだ」という納得感を深める必要があります。
— なるほど。理解できそうです。旅行の話で言えば、「グアムよりもハワイが優れているポイント」を探したりしますね。採用の現場では、どのようなアクションが求められるのでしょうか。
服部先生: 「二段階コミュニケーション」の場の提供です。例えば、内定者研修などで、すでに確信を持っている内定者に、「自分がなぜこの会社に決めたのか」を語ってもらうのです。
ゼロから自分で納得理由をつくるのは難しいですが、同じ立場の仲間が語る「納得の理由」を聞くことで共感し、自分自身にインストールしていく。ハワイの話に戻すなら、「同時期にハワイ旅行を申し込んだ人から、なぜ(グアムではなく)ハワイを選んだのか」を詳しく聞くことができたら、「ああ、私もそのためにハワイを選んだんだった」と納得感を持てそうな気がしませんか?
同じように、他者の「確信」を参照させることで、自身の選択をポジティブに再定義する機会をつくるのが非常に効果的です。
採用担当者のマインドセット――「手綱を握る」から「物語を合わせる」へ
— ここまで具体的な手法を伺ってきましたが、採用担当者はどのようなマインドでこれらに取り組むべきでしょうか。
服部先生: 一番大事なのは、学生を「コントロールする対象」ではなく、「物語を共有するパートナー」だと捉え直すことです。
優秀なヘッドハンターは、会社のビジョンと個人の人生という、本来別々の物語を重ね合わせるのが非常に上手なのだそうです。
これは内定者フォローでも同じことが言えます。単に内定を承諾させるのではなく、「あなたの目指す姿と、うちの環境はこんなふうに重なるよね」という物語を、対話を通じて一緒に作り上げていく感覚が求められるでしょう。
— そういった対話を通じ、「入社する理由」を強く意識できれば、オンボーディングもスムーズになりそうですね。
服部先生: そのとおりです。内定者フォローは、入社後の活躍(オンボーディング)の第一歩といえます。
この視点を、内定者フォローだけでなく、採用広報の段階から持っていれば、単なる母集団形成ではなく、「自分たちの会社のリアルな魅力と課題をどう物語化し、学生に届けるか」という視点を持つことができ、より良い学生と出会うチャンスが広がるかもしれません。
誠実に向き合い、学生が自分で決断したという実感を共につくり上げる。そのための「メンター」であり「伴走者」であることが、これからの採用担当者にとって最も重要なマインドセットだと思います。
「3つのマネジメント」で物語を共有できる仲間になる
学術的な視点から内定者フォローをひも解いていただいたことで、採用担当者にとって必要なマインドセットまで明らかになりました。
まず、次のようなことから始めてみるのはいかがでしょうか。
- 「3つのマネジメント」をチェックリストに:今のフォロー施策が「期待」「関係」「認知的不協和」のどこにアプローチしているか、目的を明確にしてみる。
- 「リアルな解像度」で不安を払拭(ふっしょく):飾られた広報情報ではなく、現場の泥臭い日常や「できないこと」を正直に伝えるための協力者、魅力的なストーリーを発掘する。
- 「自己選択」を支援するコンシェルジュのマインドセット:人事がすべてを教えるのではなく、最適な他者(社員や同期)とつなぐことで、学生自身の「納得の物語」作りを支援するマインドセットづくり。
内定者にとって最適な選択をリードするための一助となれば幸いです。
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- 人材採用・育成 更新日:2026/06/01
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