富士通はなぜ「リアル」にこだわるのか。【後編】ジョブ型採用におけるRJP設計論
総合研究所推進室が進める「組織定着研究(オンボーディング/リアリティ・ショック」の一環として、富士通株式会社におけるRJP(Realistic Job
Preview)に迫る本企画。
前編では、富士通が新卒採用において、仕事や職場の「現実」を伝えるRJPをどのように取り入れてきたのか、その実践の全体像を紹介しました。後編では実際にRJPを運用していく際に、どのような考え方や判断が必要になるのかを掘り下げていきます。
誰が、どこまで、どのようにリアルを伝えるのか。富士通の取り組みを通じて見えてきた示唆をもとに、引き続き人材採用センター長の大平将一氏に話を伺いました。
現場を信じて任せる。パーパスに紐づく各組織のビジョンが共感を生む。
Q1:他社がRJPの導入を検討する際、「何をどこまで伝えるか」という設計で悩むケースが多いようです。また、現場任せにすると会社全体の方針とずれてしまう懸念もあります。貴社ではこのあたりをどう整理されていますか。
大平:
まず情報の出し方についてですが、基本となる考え方はあるものの、細かい型をあらかじめ決めすぎないようにしています。特に人事から「悪いところは見せないでほしい」といった指示は出していません。
それぞれの現場が試行錯誤しながら、どこまで仕事を任せるか、どう伝えるかを判断しています。現場の社員も、将来自分たちの仲間になるかもしれない学生に対して、入社後にギャップを感じさせるような見せ方はしたくないはずです。だからこそ、こちらが細かく管理しなくても、自然とありのままの姿を伝えてくれているのだと思います。自分たちの仕事をどう伝えるのかを考えるプロセスそのものも、RJPの一部だと捉えています。
「現場に任せると会社全体の方針とずれないか」という点については、あまり心配していません。もちろん、インターンシップとは別に、会社全体の採用方針等を伝えるイベントは設けていますし、選考において富士通が大切にする価値観「挑戦・信頼・共感」への共感は共通して見ています。
加えて、当社のパーパスは全社で掲げるだけでなく、各本部や統括部といった組織単位において、それぞれの現場が、全社のパーパスに基づいた自分たちの組織のビジョンを持っています。根っこの部分でつながっているため、現場が自分たちの言葉で語っても、大きくずれることはありませんし、むしろ自らの言葉で未来を語ることに価値があると思います。
だからこそ、リアルな情報を伝えるのは、やはり現場の社員が一番効果的であると考えています。若手社員もいれば、マネージャーもいますが、それぞれの立場から話してもらうことで、仕事の見え方に幅が出ます。人事が制度や方針を説明するだけでは伝えきれない「日々の仕事の手触り感」は、実際にその仕事をしている人が、自分の言葉で話すからこそ伝わるのだと思います。
抵抗感を変えた「メリット」の実感。現場主導の採用へどう巻き込むか
Q2:現場社員の協力が不可欠とのことですが、業務負荷に対する「現場の抵抗」はありませんでしたか。また、そうした活動をどのように社内に定着させていったのでしょうか。
大平: 最初はやはり抵抗もありました。「ただでさえ忙しいのに、そこまでリソースをかける必要があるのか」という声も当然ありました。
しかし、実際にやってみると景色が変わっていきました。今までなかなか出会えなかったような優秀な学生がインターンシップに参加して「この職場でキャリアをスタートさせたい」という想いを固めてくれたり、学生が単なる「学習者」ではなく、専門性を持った「メンバー」として成果を出してくれたりする。
また、副次的な効果として「メンター社員の成長」も挙げられます。学生に仕事を教え、その魅力を伝えるためには、まず自分たちが業務を深く理解し、言語化しなければなりません。さらに、一方的に教えるだけでなく、社員からインターンシップ生に「外の視点から見て、もっとこうした方がいいと思うことはない?」と意見を求める場面も増えています。外部の視点が入ることで、自分たちの仕事のあり方を見つめ直す良い機会になったというポジティブな声も多く聞かれます。
もちろん、ただ現場任せにするのではなく、人事側で負荷を減らす工夫もしています。例えば、契約手続きやPCのセットアップ、セキュリティ教育といった共通部分は一括して引き受け、現場の手間を抑えています。また、学業との両立が不安だという声に対しては、学生と個別に相談して期間や頻度をフレキシブルに調整できるようにしており、学生・現場双方に無理が生じないようにしています。
現場の負担を軽減する役割分担
さらに、現場の意識変革は、地方やグループ会社にも波及しています。例えば、ある地方拠点の現場からは「学生をインターンシップに呼び込むイベントを一緒にやりたい」と主体的な提案がありました。また、本当に応募があるのか等、新たなトライに懸念を持っていたあるグループ会社でも、実際に有償インターンシップをやってみたところ予想以上の反響があり、成功事例が生まれています。実際にやってみることで「自分たちでも優秀な人材を集められる」という手応えと、主体的に動く意識が確実に芽生えていると感じます。
こうしたモメンタムが生まれた背景には、やはりインターンで現場が手をかけて受け入れ、マッチングが成立した学生をその受入れ職場に配属するという基本方針があるため、これを大切にすることが重要だと思いますし、大事にしていきたいです。
また、様々な成功事例については、社内報での紹介に加え、採用活動に貢献した社員や職場を表彰する制度を設けて共有しています。活躍した社員や、優れたインターンシップ事例を全社で表彰し、「こういうやり方をすればうまくいく」「これだけの成果が出る」というベストプラクティスを共有することで、「自分たちの仲間は自分たちでとる」という文化の定着を加速させています。
入社後のギャップを埋める仕組みと、自律的なキャリア形成の支援
Q3:RJPの実施によって、社員の「定着率」や、その後のキャリア形成にはどのような影響が出ていますか。
大平: 内定辞退率の低下や、入社後のミスマッチ減少には間違いなくつながっているという感触を持っています。入社前に「リアル」を伝えているので、入社後のギャップが抑制され、結果として早期戦力化や、長く活躍してもらえることにつながっていくと期待しています。
ただ、それでも「やってみたら違った」というケースがゼロになるわけではありません。そうした時に備えて、当社では「キャリアオーナーシップ」を支援する仕組みを整えています。
その代表が「社内ポスティング(公募)制度」です。現在、常時1,000件ほどのポジションが公開されており、これまでに延べ約35,000人の応募があり、約13,000人が異動しています。もし「自身の成長に向けて今のキャリアとは違う経験がしたい」と思うことがあれば、退職せずとも社内で新しいチャンスを掴むことができます。
社会経験のない学生が、最初にジョブを絞って応募することに対しては、不安を感じるのも自然だと思います。その点、富士通では、入社後も自分の意思でジョブを変更していける仕組みがあるということが、安心して応募してもらう一つの材料になっていると感じています。「自分のキャリアは自分で作る」という考え方を、制度面から後押ししている形です。
その一方で、ジョブ型で採用する以上、入社後のオンボーディングや育成のあり方も変えていく必要があると考えています。内定者向けには、事前に学べるeラーニングのコンテンツを用意し、入社前から業務理解や基礎知識を深められるようにしています。また、入社後の導入研修についても、全員が一律で同じ内容を受けるのではなく、個々の専門性や担当するジョブに合わせて、必要な学びを選べる形式へと見直しを進めています。
また、こうした「リアルの共有」は、新卒採用だけでなくキャリア採用や退職者との関係にも広がっています。リファラル採用では、実際に働いている社員の知り合いに応募していただくことで、課題や大変さも含めて事前にリアルな情報を知ったうえで入社してもらうことができるため、入社後のミスマッチが起きにくくなっています。さらに、一度富士通を離れたアルムナイ(卒業生)についても、会社の文化やリアルを深く理解してくれている大切な存在として、継続的な関係づくりを進めています。
「完璧」を目指さなくていい。等身大の言葉がミスマッチを減らす
Q4:最後に、これからRJPに取り組もうと考えている企業の人事担当者へメッセージをお願いします。
大平: 最初から完璧な形を目指す必要はないと思っています。私たち自身も、最初から明確な正解があったわけではありません。どこまで伝えるのか、どう伝えるのかを現場と一緒に考えながら、少しずつ試行錯誤してきました。その中で感じているのは、よく見せようとして情報を絞るよりも、仕事の現実をきちんと共有したほうが、結果的にその後のコミュニケーションがスムーズになるということです。入社後に改めて説明し直す場面が減り、前提をそろえた状態で仕事に向き合えるようになるはずだと考えています。
当社では、有償インターンシップを中心にRJPを進めてきましたが、必ずしも大掛かりな仕組みが必要なわけではありません。会社説明会や面接の場で、現場の社員が「自分の言葉」で語るだけでも、それは十分に意味のあるRJPになります。
採用の方法を大きく変えることで、「応募者の質や数が担保できなくなるのでは」といった心配もなくはなかったですが、多くのインターンテーマがある中でもちろんばらつきはありつつ、全体としてはポジティブに働いていると思っています。かつて導入していた、職種や配属先を入社後に決める「オープンコース」を廃止した際も、蓋を開けてみれば、むしろ目的意識を持った学生が多く集まってくれました。
RJPといっても、何か特別なことをする必要はありません。ただ、ありのままの姿を隠さずに伝える。それだけで、企業と学生のミスマッチは確実に減り、結果としてお互いにとって幸せな採用につながっていくのだと思います。
そして選ばれる会社・組織であるために「ありのままの姿」のレベルを上げていく、つまりその組織の仕事やそこで働くことの魅力を高め続けることももちろん大切で、「採用」という一つのパートだけの話しではなく組織・人材マネジメント全てと連動させることも重要だと考えています。
— ありがとうございました。
-編集後記-
今回の取材を通じ、RJP(Realistic Job
Preview)が単なる理論ではないということを改めて感じました。現場の声を聞きながら学生にその「リアル」を伝える工夫は、採用の場面だけでなく、その後の定着や組織の成長にまで多面的につながっている――その事実に、改めて驚きと納得がありました。
RJPを始めるために特別な仕組みは必要ありません。説明会で現場社員が自分の言葉で語る、募集要項に業務の難しさや求められるスキルを具体的に書く、インターンシップで仕事のプロセスを実体験できる場をつくる。こうしたシンプルな取り組みにも、採用結果を変える可能性が秘められています。もしくは現在すでに採用施策として取り組まれていることが「RJPになっているか」を確認いただくところからこの取り組みは始まるのかもしれません。採用活動が企業と採用候補者の双方にとってより良いものとなるために、私たち自身も「リアルをどう伝え、どう活かすか」を問い続けていきたい、そんな思いを強くした取材でした。お読みいただいた方の検討の一助となれば幸いです。(室長 小笠原)
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- 人材採用・育成 更新日:2026/01/30
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