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広島大学 池尻先生に聞く OJTを科学する-オンボーディング成功のための学術的視点-

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新入社員の早期離職を防ぎ、組織への定着を促すために企業が注力する「オンボーディング施策」。その中でも、現場で多く取り入れられている内容に「OJT(On-the-Job Training)」があります。OJTは単なる業務指導にとどまらず、新入社員の「組織社会化」(会社に馴染み、定着すること)を阻害する「リアリティ・ショック」を抑制する効果を持つことは、2025年のマイナビ(キャリアデザイン総合研究所準備室)の研究でも示されています。

今回はこのOJTに焦点を当て、論文「思考のモデリングが経験学習と職場における能力向上に与える影響」の著者である広島大学の池尻先生に、オンボーディング施策の一環として若手社員が職場に定着していくために効果的なOJTの在り方について、アカデミックな観点からお話を伺いました。

広島大学 池尻良平先生の写真
(提供:池尻良平先生)

Q1. 新入社員はどのように「仕事ができるようになるのか」

— 論文のタイトルにもある「思考のモデリング」とは、“職場における上司や先輩の仕事中の考え方や工夫に関する方略を新人が観察して学び、仕事の概念モデルを形成すること”(*1論文より)だと理解しています。
論文における発見について、特に仕事の進め方の理解のプロセスについて教えていただけますか。

池尻: 今回の研究(*1)では、仕事の進め方を理解するプロセスについて面白い発見が3つありました。

思考のモデリング化から始まる仕事の進め方を進めるプロセスに関する発見の略図

1つ目は、「経験学習」が「職場における能力向上」を促進するということです。
より具体的には、「具体的経験」→「内省的観察と抽象的概念化を通した能動的実験」→「職場における能力向上」というプロセスが確認されました。

新入社員は挑戦的な経験をした後、しっかりと振り返って自分なりに仕事の進め方の概念化をし、それを別の場面に応用してみるというプロセスを通して、仕事の進め方を理解しているのです。

2つ目は、「思考のモデリング」が「職場における能力向上」を促進するということです。思考のモデリングは「職場における上司や先輩の仕事中の考え方や工夫に関する方略を新人が観察して学び、仕事の概念モデルを形成すること」と定義されるものです。

研究結果を踏まえると、上司や先輩の仕事の進め方をお手本として観察することで、自分なりに仕事の進め方のイメージを理解できるようになるのだと考えられます。

3つ目は、「思考のモデリング」が「具体的経験」を促進するということです。つまり、「思考のモデリング」→「具体的経験」→「内省的観察と抽象的概念化を通した能動的実験」→「職場における能力向上」というプロセスが確認されたのです。これは、思考のモデリングをして仕事の進め方のイメージを持てるようになると、自分で具体的な経験をしてみようという気持ちが高まるのだと解釈できます。

経験学習は具体的経験をしないと学びが始まりませんが、足踏みをしてなかなか具体的経験ができない新入社員もいると思います。その場合は、思考のモデリングをさせてみて、経験することのハードルを下げるのが良いといえるでしょう。

*1池尻良平, 池田めぐみ, 田中聡, 鈴木智之, 城戸楓, 土屋裕介, 今井良, 山内祐平(2022)思考のモデリングが経験学習と職場における能力向上に与える影響 -若年労働者を対象にした調査をもとに-. 日本教育工学会論文誌, 46(1), 15-24.

— 新卒社員等の初任者は
【1】なぜそうやるのか?がわかる
【2】実践してみる
【3】実践の結果はどうだったか?他の業務にも活かせるか?の検討と実験
【4】汎用に対応できる能力が向上する
というプロセスを踏むことで、職業能力の向上を促進できるということでしょうか。

となると、「営業同行」「営業ロールプレイング」といった、具体的な、またはその仮想的な場面に立ち会って、仕事のお手本や各事象を並走体験すること=思考のモデリングの素材になる経験(見る聞く等)が、「実務を遂行する」前に必要ということになりそうですね。

池尻: そうですね。例で挙げていただいた「営業同行」はぴったりの事例です。

新入社員にとって、1人でいきなり営業の経験をするのは心理的にもハードルが高いと思うので、同行をさせながら思考のモデリングをさせ、1人でできる準備をさせている活動だともいえるでしょう。

Q2.オンボーディング施策におけるOJTの効果を高める方法とは

— 続いて、オンボーディングにおけるOJTの機会を企業側が提供する際に、留意すべき点や、より高い効果を期待できる実施方法について、研究結果や知見があればぜひ教えてください。

池尻: 最も大事な点は、いかに上司や先輩が頭の中で考えていることを可視化・言語化するかという点です。

例えば、仕事ができる上司や先輩がある市場のデータを見る際、特殊な見方をして分析したり、様々な既有知識と結びつけて分析したりしていますが、黙って考えている様子を見せるだけでは、新入社員は思考方法まで読み取れません。そのため、仕事中、まさに今考えていることを口に出してぶつぶつ言い続けてもらったり(これを思考発話といいます)、特殊な思考のプロセスを詳細に解明するためのインタビュー動画を撮影し、社内で共有したりすることが効果的でしょう。

また、先ほどの研究(*1)によると、上司や先輩が仕事相手とコミュニケーションをしている様子まで観察できている若手社員の方が、より成長しているということが分かっています。柔軟な対応が求められる仕事相手との接し方は、マニュアルだけではなかなか学べないため、上司や先輩がコミュニケーションをしている場所に積極的に新入社員を同行させ、コミュニケーションの意図も含めて観察させられる機会を作ることが効果的だといえます。

— 一般的なOJTには「営業同行等、やり方を見せる」タイプのものと「実践を通じて学ぶ(その時々で先輩がアドバイスをくれる)」ものがあるように認識していますが、「先輩の仕事の仕方を見て、聞いて、表出している部分だけではなく暗黙知部分も含めて理解する」のは営業同行等のタイプのものが該当しそうですね。

池尻: その通りです。ちなみに営業の事例を出されましたが、プログラミングやデータ分析など、観察しにくい仕事内容の方が可視化のパワーは高まります。ぜひ色々な職種にスポットライトを当ててください。

Q3.新人受け入れの初期段階ですべきこととは?

— 9月のマイナビの分析では、新入社員の感じる「リアリティ・ショック」の軽減には入社初期からのサポートが重要であることが判明しました。この新人受け入れの『初期段階』において、現場の受け入れ担当者(上司、OJT担当、職場の先輩)が留意すべき点について、研究結果や知見があればぜひ教えてください。

池尻: 「リアリティ・ショック」は入社前の期待と入社後の現実のギャップから生じる現象ですが、様々な種類があることがわかっています。

例えば、仕事内容のショック、人間関係のショック、評価のショックなどです。特にこの3つは、1年目の新入社員が離職する際に感じやすいリアリティ・ショックであるという調査結果もあります(*2)。そのため、どの社員がどの種類のリアリティ・ショックをどの程度感じているのかを早期に把握することが大事でしょう。同時に、今の新入社員が抱いている期待もヒアリングしながら、どのようにギャップを埋めていくのかを丁寧に説明する機会を持つことも大事でしょう。

*2 本庄麻美子 (2018) 大卒初期キャリアにおけるリアリティ・ショックの多様性 -早期離職行動の有無,事業所規模・産業間の比較-. 経済理論, 394, 1-13.

— やはり、受け入れ側は入社後の早期から個別にリアリティ・ショックの種類や度合について、意識的に把握する必要がありそうですね。今年の新入社員が持っている(入社当初持っていた)不安やギャップについても、聞き取ることに意味はありそうだと感じました。また、期待値と現実のギャップを埋めるという意味では内定者へのRJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)も検討の余地があるかもしれませんね。

池尻: RJPも大事です。ただし、期待と現実のギャップを埋める際は、現実を押し付けるだけでなく、なるべく新しい世代の期待を現実にしていこうとする姿勢を見せることも大事です。

Q4.関係する研究テーマや概念について

— これまで、先生の研究論文をベースにお話を伺ってきましたが、先生が現在ご関心をお持ちの「組織社会化」「会社への定着」に関する研究テーマについて教えてください。また、それが企業の新人受け入れ現場でどのように活用できるかについても伺えますか。

池尻: 私が今関心を持っているのは、「期待ネットワーク」という概念です。これは、「既存ネットワークが将来も続くかどうかに関する個人の信念」と定義されるものです(*3)。

従来の組織社会化の研究は、組織内の「今」のネットワークと組織社会化の関係に焦点を当てているものが多いですが、この先行研究では、「未来志向」のネットワークに焦点を当てているのがユニークな点です。調査結果も面白く、期待ネットワークが高いと、責任ある行動や利他的援助行動を促進するということがわかっています。そのため、OJTやプロジェクトで知り合った上司や先輩とのネットワークが、その場で終わりにならないよう、長期的につながりを感じさせる工夫が効果的だといえます。

例えば、OJTでお世話になった上司や先輩と定期的に相談できる機会を制度的に設け、それを新入社員に早めに伝えることで、期待ネットワークを抱きやすくなるかもしれません。

*3 Jiang, Y. J., Ashforth, E. B., Li, J. (2022) The long walk together- The role of institutionalized socialization in shaping newcomers' future expectations about their networks. Journal of Vocational Behavior, 137, 103757.

— 英語で「ネットワーク」という言葉は、業務上の人間関係の接点の数や広がりを指しますが、それをベースに今回ご教示いただいた「期待ネットワーク」について考えると、つまりこれは入社後すぐのメンターや、OJTで同行いただいた方、初期の社内懇親等で同じグループになった先輩等、初期の人間関係とのつながり・接点が「継続する」と思えたら、新入社員は会社にとって正の影響がある動きをする傾向がある、ということでしょうか。
社内の人間関係がその後の行動に影響があるということが研究されているのは興味深いですね。

Q5.おわりに

— 最後に、オンボーディング施策の検討に取り組む企業の採用・研修担当者に向けて、一言お願いいたします。

池尻: 今回お話ししてきた内容に共通している重要なポイントは、「可視化」です。OJTをしている上司や先輩の仕事に関する思考の可視化や、新入社員の期待とギャップの可視化など、多角的で深い可視化は、オンボーディング(組織社会化)をしっかり進める際の土台になります。

組織社会化というと、新入社員への施策にのみ目が行きがちです。しかし、思考のモデリングの対象である上司や先輩の暗黙知を可視化したり、新入社員の期待に対して今の組織で変えられる部分はないかを再検討したりするなど、新入社員の受け入れをエンジンにして組織改善する機会にもなりえます。採用担当者や研修担当者だからこそできる可視化を通して、皆さんの組織が活性化することを願っています。

— ありがとうございました。

編集後記

若手を組織社会化させる(会社に定着させていく)ために、新入社員にどう接触するか(何をさせるか)だけではなく、仕事ができるようになる仕組み(プロセス)を理解することでより効果的なオンボーディング施策の検討ができると認識を新たにできました。

これからも学術分野の情報を皆様の採用活動・研修検討等に生かしていただけるよう情報発信を申し上げます。お読みいただきありがとうございました。

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