なぜ学生はMBTIに惹かれるのか? 採用担当者が知るべき「分かりやすさの罠」と、本質を見抜くためのアセスメント活用
論理学者、主人公、擁護者、巨匠……。これらのワードにピンと来た方はおそらくご存じでしょう。今、若年層を中心に流行している性格診断「MBTI」の診断結果例です。
MBTIとは、Myers-Briggs Type Indicator(マイヤーズ=ブリッグス・タイプ指標)の略で、ユングのタイプ論に基づき開発された性格検査のことを指します(※1)。
※1出典:日本MBTI協会
本来のMBTIは、日本MBTI協会のHPで「個人をタイプに分類したり、性格を診断したりすることが目的ではなく、回答した個人一人ひとりが、自分の心を理解するための座標軸として用いることを最大の目的にしています」と紹介されているとおり、現在流行している「性格診断」とは似て非なるものです。しかし、エンターテインメント目的で作られた無料診断サイトが流行したのをきっかけに、「MBTI」と聞くと、そちらを想起する人が多数派となっているのが現状です。特に若年層の中には、高い信頼を寄せている人も少なくありません。
実際、就職活動にMBTIを活用しているという学生も2割弱ほどいるとされ(※2)、これは採用担当者にとっても無視できない数字です。
※2出典:マイナビニュース「「MBTI診断」を就活に利用した大学生の割合は?」
そこで今回は、株式会社バンダイ新卒採用担当、人材コンサルタント会社を経て、現在は大学で教鞭(きょうべん)を執る中で、学生と日常的に接しながら就職活動指南も行っている、常見陽平先生にインタビュー。採用担当者としてMBTIとどう付き合うべきか、詳しく伺いました。
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MBTI流行の背景にある「タイパ」と「癒やし」
— MBTIが若年層の間で流行し、大人の中でも試してみたことがある方は多いと思います。大学で教鞭(きょうべん)を執られる中で、その流行の背景はどのように読まれますか?
常見先生: 本当に大流行していますよね。私も学生から「先生のMBTIは何ですか?」と聞かれることが多いです。ここ2、3年くらいで一気に広まったイメージですね。
流行の背景にある最も大きな理由はおそらく単純で、「みんながやっているから」でしょう。皆MBTIをやっていて、自分のタイプも把握しているので、そこから話題が始まることが多いのです。
この記事を読んでいらっしゃる方々の年代だと、「動物占い」がそれに当たるかもしれません。当時「動物占い、何だった?」から話が始まるような場面は多かったのではないかと思います。今の学生にとって、MBTIがそれに当たると考えると分かりやすいでしょう。
そしてもう一つ、今の就活生が「忙しすぎる」というのも流行の理由として挙げられると思います。
売り手市場とはいえ、自分のキャリア観に合った企業と出会い、就職するためには、多くのインターンシップや説明会に参加し、業界研究や企業研究を行い、選考対策を行い…… と非常に忙しく動き回らなくてはなりません。
その中で、「自己分析」にかける時間を短縮する方法の一つとして、MBTIが活用されている側面もあると思います。
一般に広まっている「診断サイト」は、MBTIの一部だけを抽出したエンターテインメントです。それでも、長いアンケートに回答し、「本物っぽい」結果を得ることができます。
その「本物っぽさ」を信じて、自己分析を簡略化するためにMBTIを利用する学生は実際にいますし、その現状を背景に、「MBTI別適職診断」といったサービスを提供するWEBサイトも多く存在します。
— 従来であれば自問自答を繰り返したり、周囲の友人や先輩、キャリアセンター、先生などと対話をしたりしていた自己分析がMBTIで済むとなれば、確かに簡単ですよね。
常見先生: 実際にそれが就職活動において有効な自己分析になっているかどうかは別として、学生にとって「いったん、これでいい」と思えるだけの魅力があることは間違いないと思います。
そして最後にもう1点。キャリアセンターや先生との「対話」が必要ないというのもMBTIの魅力でしょう。
特に自分に自信のない学生は、大人との対話を通じて、自分を守るよろいがはがされることを恐れます。一方、MBTIによって一定の「肯定」をもらえることは、一種の「癒やし」でもあるのだと思います。
— 確かに、診断結果は「提唱者」「冒険家」のようになっていて、ネガティブな言葉は一切ありませんね。
常見先生: はい。「私は普通の学生だけれども、MBTIでは『巨匠』なんだ」と肯定を感じ、実際にそれで自信が生まれるなら決して悪いことではないとも思いますね。
会話のきっかけとしては有効 採用担当者のMBTI活用法
— では、採用担当者はMBTIをどのように活用できますか?
常見先生: 先ほど、学生の間では「会話のきっかけ」になっているというお話をしましたが、それと同じで、リクルーターや採用担当者が面談のアイスブレイクで使うには問題ないと思います。「私のMBTI、『幹部』なんだけど、まだ平社員なんだよね〜」というような感じです。すると学生も自分のMBTIを話したりして、そこから話題が開けていくことはあると思います。
また、採用広報の戦略の一つとして、「MBTIが『冒険家』の方にぴったりのインターンシップがあります!」とうたうような方法も考えられるでしょう。
もちろん、MBTI本来の使い方からはズレていますので、あくまでも「宣伝文句」としての使い方です。
— 逆に、活用すべきでない場面はありますか?
常見先生: 選考に利用することはお勧めしません。繰り返しているように、今一般に広まっているMBTIは一種の「エンターテインメント」であって、その本来の姿からは乖離(かいり)しています。つまり、正確さは非常に低い。
そして何より、本来のMBTIも採用目的で作られたものではないため、採用の現場で人材を見極める方法では使えません。採用のために作られたアセスメント(評価)調査はSHLなどをはじめとして多くありますので、そちらを利用することをお勧めします。
ラベリング、思考停止、ミスマッチ…… 安易なMBTI活用がもたらす罠
— そもそも採用に使うべきものではない、という基本を押さえておくべきですね。
常見先生: そのとおりです。動物占いで採用の見極めをしようという方は今も昔もいないと思いますが、MBTIも同じことです。むしろ、採用にMBTIを活用することにはデメリットの方が多いでしょう。
— 具体的なデメリットを教えてください。
常見先生: MBTIでは人の心理タイプを16に分類し、非常に明快で単純な結果を提示します。しかし本来、人はもっと複雑で個別性が高い。だからこそ、「エントリーシート」や「面接」等を通じて、相手の内面を探っていく必要があるわけです。
しかしMBTIを採用の現場に本格的に導入してしまうと、学生を16に分類して選考することになります。一種の思考停止状態です。これでは、採用担当者・面接官としてのスキルは伸びませんし、むしろ落ちていく一方でしょう。
また、学生を非常に単純化した上で評価することになるので、ミスマッチも増えていくと思います。
あらゆるアセスメントには限界がある 真の人物理解につなげるための心得
— MBTIを使うなら、あくまでも「エンターテインメント」の範疇(はんちゅう)で、見極めの必要がある場合には専用のアセスメント調査を使うべき、ということですね。
常見先生: そのとおりです。しかしここで注意していただきたいのは、どんなアセスメントにも限界があり、最後は必ず人間が見極める必要があるということです。
例えば、採用の現場で実績のあるアセスメントの一つとして、SHLがあります。ビジネスパーソンの行動分析をベースに、候補者の特性を浮き彫りにして、特定の職種や企業に対する適性を測るものです。
SHLでは30もの因子で候補者を分析するので、非常に細かく、長大なレポートが作成されます。しかしそれでも、候補者(学生)の全てを理解できるというものではありません。あくまでも入社後の候補者の行動を予測し、その結果から適性を確率的に判定するというものです。
実際には、対話(面接や面談)の中で相手を見極め、最終的な判断は面接官自身が下す必要があります。
— あくまでも「参考資料」であるということですね。
常見先生: そのとおりです。エントリーシート(定性情報)とアセスメント(定量情報)を突き合わせ、矛盾する点について掘り下げてみるとか、アセスメントの中で突出して高得点の項目や低得点の項目に注目し、その理由を探ってみる、といった視点を持って対話することは絶対に必要です。
また、現在の採用環境では「組織開発」の視点も欠かせないでしょう。
— ぜひ具体的に教えてください。
常見先生: アセスメント調査は、あくまでも「その個人」の能力や適性を数字で表すものです。一昔前の大量採用時代なら、能力や適性で高い数値を出した学生を、上から順に採用しても良かったかもしれません。
しかし、現在は採用競争が激化し、人材流動性も高まっていますから、その方法では通用しないのです。だからこそ個の力だけでなく、「この人はどのチームの、どのポジションにハマるのか」を常に頭に置いて見極めをする必要があります。
チームの中で確固たるポジションを持つことができれば、早期離職を抑制する効果も期待することができるので、この苛烈な採用競争の中で苦労して採用するかいもありますよね。
— アセスメントは大切だが、あくまで参考資料として。そして個の能力ではなく、「チームにとって」その候補者(学生)がどのような力を持っているのか見極めるべき、ということですね。
常見先生: はい。MBTIはもちろん、あらゆるアセスメントは「それだけ」で人材を評価できるものではないのです。最後は必ず人の目で見極める。このことをぜひ大切にしていただきたいと思います。
— 今日はありがとうございました!
「分かりやすさ」の罠に陥らないために。これからの採用担当者の心得
MBTIの流行背景を理解し、学生との対話のきっかけに活用するのは有効です。
しかし常見先生が指摘するように、MBTIを選考基準に用いるのは思考停止につながり、ミスマッチを招く危険があります。
専用のアセスメントでさえも、あくまで参考資料です。個の能力だけでなく、チームにどうフィットするかという視点を持ち、最後は必ず人の目で候補者を見極める。その力がこれからの採用担当者には求められます。
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