採用難時代の母集団形成は「量か質か」ではなく、「勝ち筋」を見極めること
中長期で学生数が減少に転ずることが明白な中、企業の採用意欲は高止まりの状態が続いています。また、企業と学生との接点が早期化・多様化していることを背景に、本格的に就職活動を始める時期には志望先がほぼ固まっているという学生も増えてきました。
こうした学生の動きは「ピンポイント就活」と呼ばれ、採用における母集団形成の難易度の高まりに拍車をかけている状況です。読者の中にも、従来の採用手法では母集団形成が難しくなってきていると感じている方々が多いのではないでしょうか。
そのような中、「母集団は量より質」という議論も聞かれますが、自社に必要な人材に出会うためには、一定の「量」も重要です。今回は、中小から大手まで数多くの新卒採用支援に携わってきた株式会社マイナビの小林駿太に、市場の変化を踏まえた母集団形成の「勝ちパターン」の構築と、その成功の鍵となる全社を巻き込む体制づくりについて話を聞きました。
\【保存版】新卒採用で押さえておきたい母集団形成の基礎/
「ピンポイント就活」の時代は前年踏襲では十分な出会いにつながりにくい
— まずは近年の採用市場の変化について教えてください。多くの企業が母集団形成に苦戦している印象があります。
小林: おっしゃるとおり、企業にとっては非常に厳しい状況が続いています。企業の採用意欲が高まり、新卒採用に新規参入する企業も増えているため、必然的に企業が実際に出会える学生の数は減っていく傾向にあるからです。
加えて、学生の動きは大きく変化しています。以前は「就活解禁」の号令とともに一斉に動き出す形でしたが、現在は「オープン・カンパニー」や「仕事体験」など、低学年次を含めた早期からの接触機会が多様化しました。その結果、早い段階で志望企業を絞り込むようになり、採用広報が解禁される3年生3月の時点ですでに志望企業が固まっている学生も増えています。これを指す「ピンポイント就活」という言葉も聞かれるようになりました。
— そうした状況下で、「母集団は量より質」という議論もよく耳にします。
小林: 「量が取れないから質にシフトする」という声はよく聞かれますが、私は自社に合う学生を見極めるためにも、やはり一定の「量」は必要だと考えています。
ただし、やみくもに集めればいいわけではありません。学生の志向やキャリア観も多様化しているため、昔ながらの採用手法を踏襲しつつ規模を拡大するという思考では、学生から選ばれにくいでしょう。
まずは「自社の成長に本当に必要な人材」の要件を改めて定義し、そのターゲット層が動くタイミングや、興味を抱く情報をそろえるところから始める戦略的な動きが求められています。
辞退理由の裏にある「本音」を探り、自社の「勝ちパターン」を見つける
— 自社に合った母集団を形成するために、採用担当者は具体的に何をすべきでしょうか。
小林: 自社の「勝ちパターン」を見つけることが重要です。そのためには、過去のデータ、特に学生の「辞退理由」や「承諾理由」を深く分析することをお勧めします。
例えば、内定辞退の理由として「給与や待遇」が挙げられることがあります。ただし、これらは表に出ている理由であり、背景には別の要因があるケースも少なくありません。給与や待遇といった条件は応募段階で把握している学生も多く、内定承諾の判断においては、企業や仕事内容との納得感、将来イメージなど、より総合的な要素が影響している可能性があります。
そのため、「給与や待遇」を理由とした辞退の裏には、「面接でのコミュニケーション不足」や「社風のミスマッチ」、「面接官の対応への不満」など、別の真因が隠れていることも少なくありません。
— 表面的な理由ではなく、真因を探るのですね。
小林: そのとおりです。もし可能であれば、辞退した学生が「どの企業(承諾先)に進んだのか」までを把握できるとベストです。
その企業がどのような訴求をしていたのか、どのようなスケジュールで動いていたのか、就職サイトや採用サイトなど公開されている情報でも構わないので確認してみましょう。そうすることで、「うちはこの訴求が弱かった」「この時期の接触が足りなかった」といった改善点が見えてくることもあります。自社の弱みと強みを客観的に把握し、エントリーから選考への歩留まりを改善していくことが、結果として質の高い母集団形成につながります。
— 求める学生層によっても、アプローチの方法は変わってくるのでしょうか。
小林: はい。ここで「自社の成長に本当に必要な人材」の要件定義が生きてきます。
例えば理系の学生は就活の動き出しが非常に早いですし、情報系はAI需要の高まりで金融業界なども採用に動いており、競争が激化しています。文系であってもベンチャー志向か大手志向かで動き方や有効な魅力付けの方向性が大きく変わってきます。
つまり、自社が欲しいターゲットがいつ、どのように動いているのかを知り、それに合わせて採用スケジュールを組み、ターゲットが魅力的に感じる発信を行うことが不可欠なのです。
— 競合他社の動きは分析できたとしても、自社がターゲットとする学生のスケジュール感や効果のある魅力付けの方向性まで知るのは難しそうです。
小林: そうですね。実際に採用できた学生(内定者・新入社員)に話を聞いてみたり、当社のような採用支援を行っている企業に情報を求めたりすることも有効な手段となるでしょう。
まずは「自社に必要な人材」の要件を明確に定義し、その人材に当てはまる学生のスケジュール感と志向を知る。そこから始めてみてください。
例えば、とある物流企業では就職サイト上で「会社の特徴」をアピールする画像を刷新したり、フリーワード検索を意識したテキストの追加をしたりと、自社のターゲット学生がマイナビ上で「どう動き、何を見たいのか」を予測し、戦略的に「先回り」で情報を提供したことで、最終的に採用目標を達成されました。
また、別のIT企業では学生との接点として前年から行っていた「オープン・カンパニー」に加え、仕事体験も追加したことで学生の「仕事のリアルが知りたい」という要求を満たすことができ、結果として採用目標の達成につながっています。
まずはターゲットを定める、そしてターゲットが望む情報や体験を先回りして用意して提供すること。こうした取り組みが「勝ちパターン」の発見に寄与するでしょう。
「採用は未来への投資」。全社を巻き込むトップのメッセージ
— しかし、採用環境が複雑化する中で、採用担当者の業務量は増える一方です。その中で母集団形成のために新しい動きを行うことは、実際には難しい場合も多いと思います。リソース不足はどう解決すべきでしょうか。
小林: ポイントは2つです。
まず1つ目は、採用担当者がコア業務、つまり「学生の動機付け」や「魅力付け」に専念できる環境をつくることが大切です。日程調整や合否連絡などの定型業務は、RPO(採用代行)を活用し、その一部をアウトソーシングすることも一つの手段だと考えます。
なぜなら、今の学生はレスポンスの早さを非常に重視するからです。「連絡が遅い」というだけで志望度が下がったり、良くない口コミが書かれたりすることさえあります。ツールや外部リソースを活用してスピード感を担保することは、ブランディングの観点からも重要です。
そして2つ目は、「いかに現場を巻き込むか」ということです。
— 理解はできても、多くの採用担当者が難しさを感じている点でもあります。
小林: そうですね。私の経験上、トップからの発信が解決に大きく寄与します。
ある企業の事例ですが、学生からネガティブなイメージを持たれがちで、母集団形成に苦労していました。しかし、その状況を重く見た経営トップが「採用は会社の未来をつくる投資である」と強く発信し、リクルーター制度を導入して現場社員を積極的に巻き込み始めたのです。
すると、社員の中で「採用のためにできることがあるのであれば、ぜひやりたい」という意思を持って手を挙げる方が出てきて、現場社員が学生に対して自分の仕事の意義を熱く語ったり、リクルーターとして学生と密なコミュニケーションを取ったりするようになりました。結果として、多くの学生の心が動き、採用目標数を達成しました。
— トップの発信で社員の採用に対する意識が目覚めたのですね。社内の雰囲気も変わりそうです。
小林:
そのとおりです。自分が面接した学生が入社すると、社員もうれしいですし、仕事への誇りにもつながります。そうしたポジティブな循環が生まれると、自然と「採用に協力したい」という社員が増えていきます。
新卒採用は、直近の人員補充だけでなく、企業のカルチャーを醸成する未来への投資です。だからこそ、人事部門だけで抱え込まず、経営課題として全社で取り組む体制をつくることが、採用難時代を勝ち抜く鍵になると思います。
— 実践的なお話をありがとうございました!
母集団形成をスムーズに進めるための3つのポイント
採用手法やツールの進化により、学生との接点は多様化していますが、小林の話からは「自社を知る」という基本の重要性が改めて浮き彫りになりました。
- 市場の変化に対応する: 前年踏襲ではなく、ターゲット学生の「現在の動き」に合わせてスケジュールや手法を柔軟に変える。
- 「辞退理由」から学ぶ: 辞退理由や競合分析を通じて自社の「勝ちパターン」を見つけ、訴求内容をブラッシュアップする。
- 全社で取り組む: 採用を「経営課題」と捉え、トップのコミットメントの下、現場社員を巻き込んだ体制をつくる。
母集団形成に特効薬はありませんが、これらの地道な戦略設計と実行の積み重ねが、採用成功への一番の近道と言えそうです。
まずは社内で「どのような学生を採用したいのか」を具体的な言葉として定義してみるところから始めてみてください。
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- 人材採用・育成 更新日:2026/01/27
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