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イメージづくりからマッチングへ 今こそ見直したい採用広報のあり方

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近年、採用広報のあり方が変化しています。
これまでのように、「かっこいいデザイン」や「憧れを喚起するコピー」だけでは学生の心をつかむことが難しくなりました。

その背景にあるのは、学生の価値観や就職活動の進め方の多様化です。一人ひとりが自分に合う企業を探し、自分の基準で判断する時代に、従来の“イメージ先行型”の広報は響きにくくなっています。

では、今の学生に届く採用広報とはどのようなものか。
コピーライター/クリエイティブ・ディレクターとして数多くの採用広報を手掛け、学生の就職活動支援にも携わってきた北 道高さんは、「マッチングのためのコミュニケーションが求められている」と語ります。

本記事では、北さんへのインタビューを通じて、学生の変化と、それに応えるための採用広報の具体的なヒントを紹介します。

  • 株式会社Fanclub代表・コピーライター 北道高さんの写真
  • コピーライター / 株式会社Fanclub 代表 北 道高
    コピーライター/クリエイティブ・ディレクター。グローバル企業からBtoB企業、地方中小企業まで、あらゆる業界・規模の採用コミュニケーションをコンセプトの立案から設計、制作まで幅広く手掛けている。また、大学生向けの就活イベントやメディアの企画運営などを数多く担当。TCC新人賞、日本BtoB賞など受賞多数。
    2017年より宣伝会議コピーライター養成講座求人クラスの講師を9年連続で務める。

— 従来どおりの採用広報では、学生に「響かない」と感じている採用担当者も多いようです。学生の情報の受け取り方の変化、学生に求められる採用広報ツールの変化についてどのようにお考えですか。

北さん: 採用広報ツールは、長らく「質の高い表現」を目指すトレンドがありました。かっこいい写真や動画、動きのあるデザインの採用サイト、情緒的で考えさせられるようなコピーなどです。

これらが「響かなくなってきている」という面は確かにあると思います。
もちろん、まったく効かないというわけではありません。しかし、企業側がつくり出そうとする「かっこいい」イメージをそのまま受け取る学生は減ってきているでしょう。

その背景には、学生の価値観が多様化していること、そして、その多様化した価値観に合わせ、それぞれの就職活動を行っていることがあると思います。

これまでのように、企業側が想定した「かっこ良さ」や「憧れ」のみを学生に伝えていくのではなく、まずは学生たちがどのような就職活動をし、どのような価値観で企業を探しているのかを知った上で、採用広報活動を設計する必要があると考えています。

— なるほど。しかし多様化している学生の価値観に合わせる、という考え方だけだと、採用広報の方向性が一つにまとまらないようにも思えます。

北さん: そうですね。価値観が多様化する学生一人ひとりに向けて、採用広報上のメッセージやコンテンツを個別に開発するのは難しいですよね。

ここでの多様化への対応というのは、「学生にこう思われたい」と狙いを付けた表現をするのではなく、自分たちの姿を誠実に、ありのまま伝え、それに魅力を感じてくれる学生との「マッチング」を期待する、という意味合いです。

— つまり、イメージづくりのために採用広報をするのではなく、自分たちのことをリアルに伝えながらマッチする学生に来てもらう。本来の就職/採用活動の在り方に立ち返ったコミュニケーションツールとして捉えるということですね。

「マッチング」のための採用広報とは?

採用広報をイメージしたメガホンと吹き出しのイラスト

— では「マッチング」を目指した採用広報では、どのようなことに気を付けるべきでしょうか。

北さん: まず、自社が「どのような学生を求めているのか」という視点の解像度を上げ、その上で、「そうした学生はどのような就職活動をし、何を求めているのか」を知っていく、というステップが大切だと思っています。

例えば、自社で成長意欲の高い学生を求めているとしましょう。
成長環境として学生が引かれる要素はさまざまです。急成長中の事業に引かれる学生はベンチャー企業を志望するでしょうし、さまざまな部署を経験できる可能性に引かれる学生は大手企業を志望するでしょう。

その中で、自社において一人がさまざまな仕事を手掛けている実態があるとすれば、マッチする学生は「自分が実際に行う仕事の幅」を重視しているタイプの学生だと言えます。

一人ひとりの社員が実際にどんな責任や業務の範囲を担っているのか、そしてその苦労や得られる成長を、リアルかつ率直に伝えることで、お互いの「成長」のイメージが合致した学生に興味を持ってもらうことができるでしょう。

— なぜ「リアル」であることが重要なのでしょうか?

北さん: 学生にとって就職とは「人生の決断」ですから、もちろん、失敗したくないと思っています。

こうした重要な決断に当たって、今の学生は「企業が整えたきれいな情報」よりも、仕事の泥くさい部分や、学生によっては敬遠するような内容も含めた「できるだけリアルな情報」を求めているのではないでしょうか。

— リアルな情報ですか。なかなか、つくろうとしても難しそうです。

北さん: むしろ「つくらない」ことが学生にとって貴重な情報源になることもあるのです。

例えば、こんなことがありました。
ある学生に、「どちらの写真から職場の雰囲気の良さを感じるか」という質問とともに、社内風景を撮影した2枚の写真を見てもらいました。1枚は、しっかりと作り込んだ、きれいな「イメージカット」のようなもの。もう1枚は、スナップ的な、ある意味で雑然としたオフィスの様子を捉えたカットです。

学生が選んだのは、2枚目でした。
なぜかと聞くと、「後ろに映っているPCに『いつもありがとう』と付箋が貼られていて、関係性の良い職場なのかも、と思えたから」と言うのです。

多くの企業がそぎ落としてきた、画像の背景にあるほんのわずかな情報から、学生はその職場の雰囲気を思い描いていたわけですね。

つくろうとしてもつくることのできない、リアルに学生が注目していることが伝わる、印象的なエピソードです。

「定番採用広報ツール」はどう変える? 学生とのマッチングをかなえる改善のヒント

虫眼鏡で人物を選ぶイメージ。採用やマッチングを象徴

— 企業が「イメージをつくり上げる」のではなく、学生自身が「イメージを組み立てていく」ための素材として、リアルな情報を渡していくことの重要性がよく分かりました。具体的な採用広報ツールは今後、どのように変えていくべきだと考えますか?

北さん: 前提として、企業ごとに課題も採用したい学生像も異なるので「こうすべき」と一概に言うことはできません。しかし、これまで私が多くの学生とコミュニケーションを取りながら感じてきた、「今の学生に伝わる広報」のヒントをご紹介しますね。

1.採用サイト

北さん: 採用情報を網羅的に掲載するプラットフォームとして多くの企業が利用し、学生に自社を印象付ける意図で、「スペシャルコンテンツ」やトップページのデザインなどに力を入れることが多いと思います。

しかし、重要なのは「情報を取得しやすい」という基本機能をしっかりと押さえた上で、「使いやすく、分かりやすい」こと、そして「リアリティのある情報が掲載されていること」がポイントです。

改善ポイント1:最短で目的の情報にアクセスできる設計と言葉選びに

背景となる学生の変化

  • WEBサイトを使い慣れていない学生が増えている
  • タイパ意識の強まりにより、メリットがすぐ分かる方が好まれる
  • 行間は読まれにくくなっているため、明快な言葉遣いが求められる

具体的な対策

  • サイトの構造を分かりやすく、直感的に理解できるUIを心掛ける(※UI〈ユーザーインターフェース〉とは、ユーザーがWebサイトを操作する際に目にする画面やボタン、メニューなどのことで、使いやすさや情報の見やすさに直結する重要な要素)
  • 最終的に学生にどのようなメリットがある情報なのか、言葉で明快に示す
  • 凝った言葉遣い(「仕事内容」を「私たちの日常」のように表現するなど)は避ける

改善ポイント2:話者を明確に示し、情報の信頼性を上げる

背景となる学生の変化

  • 個人ではなく、「企業」を主語にした情報に対して、学生が距離感や違和感を抱きやすくなっている

具体的な対策

  • 福利厚生を紹介する際も、単に制度を列挙するだけではなく、「この制度を利用した社員の声」として紹介するなど、「誰が言っている情報なのか」が個人レベルで分かるものも掲載する

改善ポイント3:リアリティのあるビジュアルを掲載する

背景となる学生の変化

  • 就職に失敗したくないと考え、リアリティのある情報を強く求める学生が増えている
  • 画像から状況や背景を推測することに慣れた学生が増えている

具体的な改善アイデア

  • 実態と異なる「それらしく見える」だけのイメージは使わず、リアルなビジュアルを掲載する

2.採用動画

北さん: かつては、採用動画を作っていない企業も多く、「質の高い」映像を作っているというだけで、ある程度のアピールになった時代もありました。
ですが、現在は動画を作ることのハードルが下がり、多くの企業が採用動画を持っています。さらに学生も生活の中で日常的に動画を見たり、作ったりしているため、「ただきれいなだけの動画」では響かないことが増えているようです。

改善ポイント1:リアリティのある画作りを心掛ける

背景にある学生の変化

  • 就職に失敗したくないと考え、リアリティのある情報を強く求める学生が増えている

具体的な改善アイデア

  • 撮影環境を「白壁の前」や「受付前のきれいな背景」にするのではなく、職場の雰囲気が伝わる場にする
  • ただし、背景に映り込んだちょっとした情報からも会社の雰囲気や社風をつかもうとするので、映り込むものには最大限の配慮をする

改善ポイント2:「映像としての美しさ」よりも「企画」を大切に

背景にある学生の変化

  • 動画を見慣れているだけでなく、自分でも作ることのできる学生が増え、ただ「映像がきれい」なだけでは印象に残らないことが増えた

具体的な改善アイデア

  • 動画はメッセージ性よりも、「企画」を通じて何を伝えるのかにこだわる
  • リアルが伝わる企画はSNSを参考に考えてみるのも良い

3.説明会スライド

北さん: 説明会を「自社の事業や仕事内容について説明する」場と考えている企業も多いかもしれませんが、それだけではもったいないと思います。
今の学生は「その企業に興味を持つことができそうか」という視点で参加していることも多いため、そういった学生の興味を段階的に引き上げていくような設計が大切でしょう。

改善ポイント1:情報提供の場から、興味喚起の場への転換

背景となる学生の変化

  • 説明会参加時点では、その企業にまだ興味を持っていない学生が増えている

具体的な改善アイデア

  • 採用サイトにある情報の焼き直しではなく、学生にとって説明会に参加した意味を感じられるような情報提供を心掛ける
  • コピーライティングの工夫:学生の興味を引く・マッチングを考えさせる・感情を動かす「キャッチ・マッチ・タッチ」のコピーライティングを意識する
    ※学生の興味を引くコピーづくりについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
    >>採用ツールや時期の違いは意識していますか? 学生の興味をキャッチする新卒採用ライティング術
  • テキストで長々と説明するよりも、ビジュアルを通じて「一目で分かる」構成にする

\具体的な構成イメージは、こちらのテンプレートで確認できます/

パワポ芸人・トヨマネ監修!説明会スライド・社内資料にも使える!PowerPointレイアウト・パーツ集

新卒採用担当者向け“伝わる仕事説明”のためのPowerPoint説明会テンプレート

「リアルな情報を発信する」ための採用担当者の役割とは

— お話を伺ってきて、あらゆる接点で「リアリティのある」情報を提供するとなると、社内にいる人物、特に採用担当者の役割が重要になりそうです。

北さん: まさにそうで、採用担当者は会社の魅力や採用に関する情報を学生に説明するだけでは務まりません。採用活動を通じて、どうすれば自社に対するワクワク感や就職へのモチベーションを高められるか。そのためにも、自分自身が会社のことを誰よりも理解し、学生が信頼できるリアルな情報を届ける力が必要となります。その結果、学生はそれを信じ、マッチングするかどうかの判断に進んでくれます。

— 学生が最初に接するのは、多くの場合、採用担当者ですね。

北さん: そのとおりです。
採用担当者の印象と、企業の印象とを重ねて考える学生が多いからこそ、採用担当者が「パワーアップ」することが大事なのだと思いますね。

具体的には、「学生を知る・現場を知る・経営(未来)を知る」の、「3つの知る」が大切だと考えます。

この3つがそろえば、学生が何を求めているのかを理解し、伝えるべき現場のリアルを自分の言葉で伝えられ、なおかつ、会社の未来を語ることができる。学生のモチベーションを高めることができるでしょう。

そして、まず何より採用担当者自身が、「自分たちの仕事を面白い」と思えることこそが重要だと思います。結局、楽しそうにしている人の周りに人は集まってきますからね。採用担当者の仕事の大変さを身近で見聞きしているからこそ、ぜひ、そこから始めてほしいと思います。

— 今日はありがとうございました!

リアルな発信を一歩ずつ

窓際の明るい室内でインタビュー撮影を行うシーン

採用広報の変化の背景として取材の中で見えてきたのは、自分に合う企業を探すために真剣に動き、判断する学生の姿です。
こうした学生とマッチングを図るためには、企業も学生の本気に応える情報提供をしていかなければなりません。
そして、その採用広報の変化のエンジンとなり得るのが採用担当者と言えるでしょう。

自社のリアルな魅力を伝えることは、決して簡単ではありません。採用担当者自身が学生を知り・現場を知り・会社の未来を知る中で、本当に伝えたいと感じた魅力にこそリアルが宿るはずです。

まずは、自分たちの会社のどんなところが魅力なのか、どんな人材がマッチするのかを考えながら、身近な採用広報を学生の視点で見直してみてはいかがでしょうか。

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  • 人材採用・育成 更新日:2025/11/04
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