母集団を追うだけでは足りない? マッチング時代の新卒採用KPIとは
新卒採用の現場では長らく、エントリー数や説明会参加数といった「量」のKPI(※)が重視されてきました。
しかし、学生が自分に合う企業を慎重に見極める「マッチング志向」を強めるいま、量の指標だけを追いかけていると、採用活動の実態を見誤ってしまう恐れがあります。母集団が減ることは、本当に「採用力の低下」なのでしょうか。
そこで本記事では、採用・育成コンサルティングを専門とするシーズアンドグロース株式会社の代表・河本英之さんに、マッチング採用時代に見直したいKPIの考え方を伺います。
中小企業の採用担当者が「今いる候補者から選ばれる会社」になるための、実務的なヒントをたくさん伺うことができました。
※ KPI:Key Performance Indicatorの略。目標達成のために組織や活動がどれだけ効果的に成果を出せているかを計測する重要な指標のこと。
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なぜ「量」のKPIが効かない時代になったのか?
— 採用におけるKPIといえば、これまでは「採用母集団の数」が最重要視されてきたように思います。この傾向が変わってきた背景はどのようなものでしょうか?
河本さん: まず大前提として、採用活動をするに当たって、「数字」をKPIとして持つことは非常に重要です。経年の変化も見られますし、目標や過去実績に照らした「現在地」を把握するためには欠かせないからです。
しかし一方で、採用母集団の数、説明会参加者数、内定承諾者数といった、「採用母集団を起点とした確率論的なKPI」の意味は薄れつつあると思います。
— 確率論的なKPIとは、具体的にどのような概念ですか?
河本さん: 学生の数が十分にいて、活動量も多かった頃に使われていた、「採用母集団のうち1%が採用できるから、採用目標人数の100倍の母集団を形成して、説明会に30%参加、選考に80%が参加すれば、最終的な内定承諾者が採用目標に届く」という、いわゆるファネル型(※)の考え方のことです。
これまでは、採用ステップの各段階を何割の学生が通過するか、その確率を過去実績から割り出していけばKPIとなる数字を決めることができました。
ある意味で分かりやすい採用活動だったかもしれませんが、現在はその前提も変わってきています。
※ ファネル型:ファネル(漏斗)のように、段階を経るごとに数字(人数)がある程度、一定の割合で減っていくことを前提とした行動モデルを指すマーケティング用語。
— 現在でも一般的なKPIの持ち方だと思いますが、それが古くなってきているのですね。
河本さん: はい。なぜなら、学生の就活スタイルが多様化しているからです。
ファネル型の考え方が使えていたのは、多くの学生がおおむね同じ動き方をしていたからですが、今はそうではありません。
例えば、「ピンポイント就活」や「超早期化」という言葉がよく聞かれるようになりましたが、実体としては「早期から自分の志望が明確になるまで何社も接触する」もいれば、「3年生の12月ごろまでほとんど活動しない」という学生も無視できない割合で存在します。
その背景には、一人ひとりの学生が「自分に合った就活をして、自分に合った会社を見つけたい」と考える傾向が強まったことがあるでしょう。
学生とコミュニケーションを取っていると、「理想的な会社など存在しないのだから、3社程度の内定から一番納得感のある会社を選べばいい」というスタンスを取っている人も少なくないと感じます。10社以上の内定を保有している学生が普通にいた時代からは考えられないことですね。
つまり、一人ひとりの学生の動きが予測できない以上、これまでのような「予測できることを前提としたファネル型の考え方」は使いにくくなっているのです。
強まる学生の「厳選」傾向に企業はどう向き合う?
— 確かに、そのような変化を前提にすれば、「採用母集団の数」をKPIに持つことの意味は薄れてきていると言えそうです。
河本さん: そのとおりです。しかし、母集団の減少は怖いことですから、変化を無視し、多くの企業は母集団の数について目標を立てていると思います。
実際には、企業の規模や知名度に対応した「適正母集団」のサイズがあると私は考えています。例えば、誰でも知っているような大企業であれば、多くの採用母集団を集めやすくなります。もしかすると従来型のKPIも意味を持つかもしれません。
しかし、学生の数が減っていく今の局面で、「来年は2倍の採用人数を目指すから、採用母集団も2倍にしよう」と、BtoB企業や知名度の低い中小企業が目標を立てることには無理があります。 なぜなら、2倍のコストをかければ採用母集団が2倍になるという時代では、もうないからです。
— 確かに、かつてはそのような考え方も通じたかもしれません。
河本さん: そういう時代もありましたが、今は違います。先ほどもお話ししたように、学生の数は減少局面に入りつつありますし、何より学生側が「厳選」する傾向を強めているからです。保有する内々定の数がこの数年、2社程度の低い位置で横ばいであることがそれを示しています。
— 確かに、少し前には考えられなかったことですね。
河本さん: そうですよね。内々定が2社ということは、エントリーも、説明会参加も、選考参加も、どれも数が減っているということです。
ですから、採用母集団をどのくらい集めれば良いかというご相談には、「御社の適正母集団はこのくらいで、これ以上は集めても効率が落ちてしまう」とお話させていただくことも多いですね。
もちろん、採用母集団を無視することは本質的ではありませんが、一方でむやみに集めようとするのもまた、本質的ではないということです。
「選ばれる企業」になるためのKPIの考え方とは
— しかし、企業としては事業を続けるための人員確保は必須です。採用母集団ではなく、どのような数字をKPIとして持ち、採用活動を進めていくべきでしょうか?
河本さん: 「多くの企業の中の1社に入ることができれば選ばれるかもしれない」という考え方を捨て、「採用活動を通じて『最後に選ばれる1社』になる」ことを目指さなくてはいけません。
そのために見るべき数字として、まず取り組みやすいものが選考途中の「移行率」です。
例えば説明会参加率が全体のエントリーの3割、そこからの選考移行率が8割なら、エントリーの約24%が選考に進んでいる計算になります。
私の経験上、おおむね20%くらいが一般的なので、これは決して悪くない数値と言えます。
これもファネル型の考え方のように、「割合」を見ているという点では従来型のKPIに近いように見えるかもしれませんが、その分母となる「エントリー数(採用母集団)」を追うのではなく、「移行率」を追うようにすることで考え方は大きく変えられます。
— もう少し詳しく聞かせてください。
河本さん: 採用母集団をKPIとして持ち、それを拡大しようとすれば、打ち手はかなり限られます。「広報にもっとお金をかけよう」というくらいになってしまう。
しかし、移行率をKPIに持てば、「いかに次の選考に参加してもらうか」を考えることができます。選考の合間に座談会のようなイベントを打って理解度を深める、リクルーターによる人的なつながりを強める、人事によるヒアリングを通じて意向度を高める、などの方法を取ることができるようになるのです。
— なるほど。それが「選ばれる企業になるための行動」になっている、ということですね。
河本さん: そのとおりです。その行動が正しかったかを見るための中間指標として、「NPS(※)」や「候補者体験の満足度」を測ることもできますが、まずは「移行率」を上げることに注力してみると、それだけで採用活動全体が変わっていくはずです。
※ NPS:Net Promoter Scoreの略。マーケティングにおいて、顧客や企業に関わる人が、その商品・サービスや組織に対してどれくらいの「愛着」や「信頼(ロイヤルティ)」を抱いているかを数値化したもの。
「勝ちパターン・負けパターン」を言語化し、ゴールから逆算する採用活動へ
— 移行率を見ることで、注力ポイントが変わるということがよく分かりました。しかし、移行率はあくまで中間指標になると思います。最終的に重視したい数字は何でしょうか?
河本さん:
それは内定承諾率です。これも「内定承諾数」ではなく、「内定承諾率」であることが重要ですね。基本は50%を目標にしてみるといいでしょう。
なぜなら、学生の平均内々定保有数が2つ程度なので、単純に考えても50%くらいは取れるはずだからです。それ以下なら何かマイナスに働いているし、それ以上なら何かがプラスに働いていることが分かります。
その上で、「なぜ選ばれなかったのか」、または「なぜ選ばれたのか」をしっかり考えていただきたいと思います。
— その反省から、承諾率を上げるための方法を探っていくわけですね。
河本さん:
そうです。今日のお話ではマーケティング用語を多く使っていますが、一般的な商品やサービスを売るためのマーケティング活動と異なり、採用活動では「なぜ選ばなかったのか」「なぜ選んだのか」を学生に直接聞くことができます。
これは大きなアドバンテージです。普通、他社の製品を買った消費者に、「なぜ当社の製品を選ばなかったのか?」と聞くことはできませんからね。
これをすると、自社の勝ちパターン・負けパターンが見えてきます。
例えばうまく行かなかった場合でも、「なぜ内定承諾率が40%にしかならなかったのか」が分かれば、翌年はそれを50%にするための努力ができる。
これは、採用母集団という「スタート地点」に最大のKPIを置いていた従来型の採用活動ではできなかったことです。ゴールから逆算して、各段階で「自分たちは何をすべきだったのか」と考えていくことができるため、自社の適正母集団の中で最大限の努力をするという方向に向かうことができます。
これは、無理に採用母集団を追うことに比べてずっと生産的ですし、現実的でもあります。
これからの採用はどう変わる? 数から質への転換
— 先ほど「内定承諾数」ではなく「内定承諾率」を見る、というお話がありました。しかし、企業としてはやはり「数」も無視できないと思います。
河本さん: 実は、私の見ている限りで、今年の傾向として「採用数ありき」の企業が明らかに減った印象があります。
最終面接の合格率が各社で下がっているのです。
これは、経営層の「無理に数を合わせにいくのではなく、質は下げない(むしろ上げる)」というメッセージの表れだと思います。
本来、採用数は事業計画や一人当たりの生産性、離職率などから設計されるもの。その根拠を採用担当者が理解していれば、たとえ目標50名に対して40名の着地でも、「自社との相性が良く、高い生産性が期待できる40名なら、今年の採用は成功と言えるのではないでしょうか」と経営層と対話できるはずなのです。
採用担当者の仕事は毎年、増える一方で、なかなかこういった対話の時間も取りにくいでしょう。しかし、時代が変わる中で前年踏襲の目標を持ち続けることには意味がありません。
ここで一度立ち止まって、「選ばれる企業」になるための行動に移す第一歩を踏み出していただきたいと思っています。
— 今日は示唆に富んだお話、ありがとうございました!
数字を追うだけの採用から、選ばれる企業になるための採用へ
新卒採用において、長年指標とされてきた「母集団の数」をただ追いかけるだけでは、もはや成果を出すことが難しい時代になっています。
学生一人ひとりが自分に合う企業を慎重に選ぶ「厳選志向」を強めているいま、企業に求められているのは、数で勝負する採用から、採用活動を通じて「候補者に選ばれる1社」になるための本質的なアプローチへの転換です。
選考の各段階における「移行率」を意識し、候補者体験を向上させること。そして、内定承諾率というゴールから逆算して、「なぜ自社が選ばれたのか、あるいは選ばれなかったのか」を言語化し、自社の勝ちパターンを構築していくこと。これらを通じて、自社にとって適正な規模の母集団の中で、最大限の成果を出すことが重要です。
採用数ありきの目標から脱却し、経営層とも対話を重ねながら、「自社が本当に求める人材」と向き合うこと。今回河本さんに伺ったお話は、採用担当者が変化の激しい時代を勝ち抜くための、新たな羅針盤となるはずです。
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- 人材採用・育成 更新日:2026/09/03
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