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「一貫性のある選考体験」が差別化のカギに? 今日から実践できる採用担当者のための「CX」入門

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最近、『CX』という言葉を耳にする機会はありませんか?
CXとは、一般的には「Customer Experience(消費者体験)」を指す略語として知られています。
消費者が商品やサービスを購入するまでの間に接するあらゆる点 ——例えば購入前に触れる広告、店頭やオンラインショップでの印象、商品配達スタッフの対応などを通じて得られる「体験」全体を指します。

細部にまで気を配って心地よく快適なCXを提供することが、購入の意思決定に強く影響することから、マーケティングの世界では重視されている考え方です。

そして近年、新卒採用市場においてもCXの考え方を取り入れるべきといわれ始めています。言うなれば「Candidate Experience(候補者体験)」という考え方です。

この背景について、企業の採用支援を多く手掛けるシーズアンドグロース株式会社の河本英之さんは、「学生が多くの企業からアプローチを受けている状況下で“選ばれる企業”になるには、一連の選考を通じた体験を改善していく必要がある」と言います。

今回は、河本さんに自社のCXを分析する方法から、具体的な改善ポイントまでを伺いました。

  • 河本 英之 さん シーズアンドグロース株式会社 代表

    2005年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。その後、同社の人事を担当し、08年に全社MVPを獲得。10年に採用コンサルティング・育成コンサルティングを専門とするシーズアンドグロース株式会社を創業し、現職。

CXが必要とされる背景とその本質

— なぜ採用において、「CX」という考え方が重要になってきているのでしょうか?

河本さん: はい、大きく分けて「売り手市場化」「レピュテーションリスク対応の重要性」「採用ブランディングの重要性」の3つが高まってきていることが背景にあります。

1.売り手市場化

河本さん: まず「売り手市場化の高まり」です。
大卒生の数はほぼ横ばいであるにもかかわらず、企業の採用意欲は増しています。そのため、選考の現場は「企業が学生を一方的に選ぶ場」ではなく、「企業と学生が相互に相手を見極め合う場」となりました。

その中で、候補者(学生)にマイナスの体験をさせないことの重要性が非常に高まっています。相互に見極め合っている中で企業側に落ち度があると、すぐに選考から離脱してしまうからです。

つまり、CXが悪いことによって、選考の歩留まりが落ちてしまうわけです。これは、母集団形成が難しい現在の新卒採用市場においては、決して無視できないマイナス影響といえるでしょう。

これを防ぐためにも、母集団形成費用の一部をCX改善のために使う価値は十分にあります。

2.レピュテーションリスク対応の重要性

河本さん: 次が「レピュテーションリスク対応の重要性の高まり」です。
今では実施している企業はほとんどないと思いますが、例えば「圧迫面接」のようなマイナス体験を学生に与えてしまうと、その後、口コミサイトやSNSでその情報が流れ、事業に対して直接的な影響を与えかねません。

また、そこまでの大きな影響がなくとも、選考を受けに来る学生が将来的にクライアントになる可能性もあることには注意が必要です。
数年後、その学生が取引先や購買先を選ぶ場面になったとき、「圧迫面接をした会社」を取引先や購買先として選ぶでしょうか。その可能性は非常に低いと言わざるを得ません。

3.採用ブランディングの重要性

河本さん: 最後が、「採用ブランディングの重要性の高まり」です。

CXの向上は、採用ブランディングにもプラスに働きます。

例えば、インターンシップや面接で一人ひとりに手厚いフィードバックを行う。説明会で学生が求めている情報を的確に提供する。「連絡待ち」の時間を可能な限り削って、就職活動を効率良く進められるように配慮する。

こういった「プラスの体験」を学生に提供することで、「あの企業のインターンシップはためになる」「選考スピードが速くて助かる」という口コミが広がります。

これがひいては採用ブランディングにつながり、採用力全体を押し上げてくれるのです。

CXはどう測る? 目に見えない自社のCX改善ポイントを見つける方法

— CXの重要性は非常によく分かりました。ただ、CXの改善ポイントを見つけることはできるのでしょうか?

河本さん: 根本的には候補者自身にしか分からないことなので、CXの改善ポイントを見つけるのが難しそうだと感じるのも無理はありません。
なので、「なんとなく」で感覚的に捉えてしまう企業が多いのも事実です。

しかし、CXを改善すべきポイントを定量的に測る方法はいくつかあります。 主によく使われる3つを紹介しましょう。

1.Candidate Satisfaction Score(CSS:候補者満足度指数)

河本さん: 選考後に、候補者へ「選考の体験に満足しましたか?」といった質問を、5段階評価などで答えてもらうアンケートを実施する方法です。

特定の面接官の面接を受けた学生のスコアが低い、特定の段階(2次面接など)を受けた学生のスコアが低い、など定量的に改善の余地があるポイントが見えてきます。

2.Candidate Net Promoter Score(cNPS:候補者から見たお勧め度)

河本さん: もう一歩進んで、「この会社の選考体験を友人・知人に勧めたいと思いますか?」といった質問をする簡単なアンケートです。
先ほどのCSSが「バッドCX」のポイントを発見することを主目的にしているのに対し、こちらは「どの程度、ファン化できたか」を測ることが主目的となります。

つまり、採用ブランディングにおいて良いCXを提供できたかどうかが測れるわけです。自由記述で理由まで記載してもらうようにできれば、より参考となる情報が得られるでしょう。

3.選考ステップごとの歩留まり調査

河本さん: 最後が、選考の歩留まり(次のステップへと進んだ学生の割合)を測る方法です。

エントリーから説明会参加、説明会から1次選考参加、1次選考から2次選考、内定から内定承諾……と、各ステップで「どれだけの学生が次に進んでくれたか」を、ATS(Applicant Tracking System:採用管理システム)などの数字から導き、比較します。

例えば、「エントリーから説明会参加への歩留まりはいいのに、説明会から選考参加への歩留まりが悪い」となれば、説明会で学生が望む情報を提供できておらず、CXが低下している可能性がある、と分かるわけです。

採用ステップごとの「よくある“バッドCX”ポイント」は?

— 調査方法についてはよく分かりました。では、調査するポイントに当たりを付けるためにも、採用ステップごとの「よくあるバッドCX」を教えてください。

河本さん: はい。代表的な4つのステップで起こりがちな「バッドCX」をご紹介します。

ステップ1:エントリー→説明会参加:連絡がない・遅い

河本さん: ここでよくあるバッドCXは、「連絡がない」ことです。
せっかく説明会に参加表明をしてくれた学生に対して、サンクスメールがなかったり、日程案内が遅かったりすると不信感につながり、他社からの連絡に埋もれてしまうリスクも高まります。

企業側は、説明会に参加してくれた学生に感謝を持って、まずはすぐにサンクスメールを送り、日程候補も早め・多めに出すように注意しましょう。

ステップ2:説明会→選考参加:企業目線で一方通行の情報発信

河本さん: このステップで起こりがちなのは「説明会の内容が企業目線で、学生が望む情報を提供できていない」というバッドCXです。

例えば、就職情報サイトに掲載した情報をそのまま話したり、企業側が伝えたいことを一方的に話したりしていると、「サイト以上の情報が得られないなら十分だ」と感じられて、離脱につながってしまう可能性があります。

自社のターゲットについてよく調査し、学生が説明会で何を知りたいのか、就職情報サイトで提供していない情報の中で、説明会で知ってもらうべきことは何かをしっかり考えましょう。

最近は入社後のキャリアパスに関心を持つ学生が増えているため、先輩社員を招いてリアルな声を届けることが有効です。また、説明会後に具体的な選考スケジュールを共有し、学生が予定を立てやすいよう配慮することも改善策として挙げられます。

ステップ3:面接→次回面接:面接官の態度が「選ぶ側」

河本さん: 企業と学生との最も深い接点でもある面接の場では、面接官が一方的に「自分たちは学生を選ぶ側だ」という態度を取ってしまうと、学生にとってのバッドCXが生まれやすくなります。

圧迫面接はもちろんですが、他にも「エントリーシートを読んでいない」「足を組む・話をさえぎるなどの態度」「高圧的で質問しにくい雰囲気」など、学生と対等な目線に立っていないと感じられる対応も、その一例と言えます。

面接の主な目的の一つはもちろん「見極め」ですが、現在の売り手市場では「動機付け」の役割も大きくなっています。そのことをしっかり意識して、学生が面接の場で好印象を持ち、志望度が高まるようなコミュニケーションが求められるでしょう。

ステップ4:内定→内定承諾:学生が放置されてしまう

河本さん: 採用活動の締めとなる最終ステップですが、この段階で気を抜きがちな採用担当者も少なくありません。

よくあるバッドCXが、「学生が放置されてしまう」という状態。例えば、合格通知を出した後の連絡が極端に減る、懇親会やフォロー面談がない、または少ないといったケースです。

内定を出したことで安心し、連絡をおろそかにしてしまう採用担当者もいますが、今の学生は平均で約2社(※)の内々定を保有しています。
つまり、内定辞退のリスクは決して低くありません。

内定辞退を避けるためにも、内定から内定承諾のステップも直接の交流機会を大切にして対応することが重要です。

※出典:マイナビ 2026年卒 内定者意識調査より。内々定保有社数は平均1.73社

「良いCX」を提供するための心構えとは?

— ステップごとに注意すべきことがあることが分かりました。そのような「バッドCX」を生まないために、採用担当者として、また企業としてどのような心構えを持っておくべきでしょうか。

河本さん: CXの本質は、「体験全体に一貫性があること」だと思っています。

その点で、多くの企業で起こりやすいのが、面接やインターンシップでの体験にムラが出てしまうことです。例えば、「ある面接官は熱量が高く好印象だったのに、次の面接官は少し淡泊だった」「インターンシップでは丁寧に対応してもらえたのに、選考に進むと事務的な対応に変わった」といったケースです。

これは、個別施策の善しあし以前に、体験設計全体の不整合の問題ですが、学生のCXを低下させる大きな要因となります。

— つまり、「誰に当たるか」「どの段階か」によって体験の質が変わってしまうのが問題、ということでしょうか?

河本さん: まさにそうです。だからこそ、「候補者が企業に触れているすべての接点で、一貫して良い印象が持てるかどうか」が何よりも大切なんです。

マーケティングの世界には、「カスタマージャーニー」という考え方があります。消費者が製品やサービスを知ってから購入するまでの流れを「ジャーニー(旅)」と捉え、その中でいかに良い接点、良いCXを提供するか、という考え方です。

採用にも同様の考え方が求められます。いわば「キャンディデイト(候補者)ジャーニー」ですね。

学生にとって選考は一つのジャーニーであり、企業との最初の出会い(就職情報サイトや説明会)から、選考プロセス、面接、内定後のフォローまで、そのすべてで企業は「良いCX」を提供する必要があります。

どこか一箇所で“つまずき”があると、せっかく積み上げてきた好印象も一気に崩れてしまう。「この会社は最初から最後までちゃんとしていたな」と思ってもらえることが、理想の「良いCX」です。

— なるほど。一つひとつの施策も大切だけれど、全体として「良いCX」、つまり「一貫性のある良い体験」が提供できているかを見るべき、ということですね。

河本さん: はい。加えて、それぞれのステップで「学生が求めている情報を提供できているか」も大切です。

ある特定のステップにいる学生が何を知りたがっているか、どんな体験を求めているのか。これをキャンディデイトジャーニーに照らして、「このステップではどんな感情を持ってもらいたいか」「何に不安を感じるか」「どうすれば動機付けできるか」いったことに視野を広げ、丁寧に設計するようにしましょう。

この視点が抜け落ち、「ナビサイト」「説明会」「インターンシップ」「面接」と個別の施策にばかり注目していると、学生の視点からは同じことが何度も説明されたり、興味のない情報が提供されたりといったバッドCXにつながってしまう可能性があります。

— 学生のインサイト(志向)をしっかり捉え、点ではなく線で採用全体を設計する。具体的な示唆をありがとうございます!

▼新卒採用全体のスケジュールに関しては、こちらの記事をご参照ください。
【2027年卒最新版】新卒採用スケジュールとトレンドまとめ

CXは“印象”ではなく“戦略”である

採用におけるCXとは、学生が企業に触れるすべての接点で、「一貫して良い体験」が提供されているかを問う視点です。

面接の質、連絡の速さ、情報の的確さ……それぞれの施策がバラバラでは、学生の志望度は高まりません。

学生も「選ぶ側」である今、求められるのは、選考全体を通して「信頼できる企業」であること。まずは自社のCXをいま一度見直し、学生目線でのジャーニー設計に向き合ってみてはいかがでしょうか。

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