なぜ "新卒採用"が企業の未来を変えるのか?~企業の10年先を支える人材戦略~
人手不足が常態化し、採用コストは高騰。優秀な人材を獲得するには、もはや資本力や知名度だけでは勝てないフェーズに突入しています。事業成長の鍵を握る「人材獲得」は、経営者が自ら向き合うべきテーマとなりました。
そんな中、経営者として悩ましいのが「中途採用」と「新卒採用」のいずれの方法で人材を獲得するのか。
中途採用であれば、事業に必要なスキルや経験を持つ人材を即戦力として迎え入れることができますが、やはり自社をキャリアのスタート地点として働き始めてくれる新卒採用も捨てがたい……。
そんな中、数々の企業で人事責任者を歴任し、現在は採用コンサルティングを行っている人材研究所の曽和利光さんは、「手間はかかっても、長期的な経営視点に立てば新卒採用にチャレンジする価値はある」と語ります。
その言葉は、実際に多くの企業が新卒採用を重視し、採用意欲が高水準を保ち続けていることも証明しています。
最新の統計によれば、2026年卒でも23%の企業が採用予定数を増やすと回答。実質的な「高止まり」の状態になっていると分析されています。
なぜこれほど多くの企業が新卒採用を重視しているのか。新卒採用でしか得られない企業のメリットとは何か。
これらを読み解きながら「企業経営と新卒採用」の関係を解説します。
\新卒採用が気になったら…?データで解説!新卒採用まるわかりBook/
なぜ「新卒採用」が企業の未来をつくるのか? その本質的価値とは
— 新卒採用市場は毎年その厳しさを増す一方で、企業の採用意欲は高止まりの状態です。この難しい市場で新卒採用を続けるメリットとは何でしょうか?
曽和さん:
まず1つは、安定的な人材供給チャネルであるということです。少子高齢化が日本社会で問題となってもう数十年たちますが、大学進学率は上がり続けています。
この大学進学率が下支えする形で、大卒者に限れば新卒で採用できる人材の数自体は、ここ十数年ほとんど変わっていないのです。
これは、景気要因などで市場の求職者数が大きく上下する中途採用とは異なる、新卒採用独自の強みといえます。
— つまり、市場環境に影響されないため、未来の市場も予想しやすいわけですね。
曽和さん:
そうです。もちろん、長期トレンドとしては大卒者も減っていくはずですが、大卒者は景気とは無関係に毎年、一定の人数が採用市場に現れ、そのほとんどがどこかへ就職するという状況は変わりません。
つまり、外的要因に左右されにくい。これが「安定的な人材供給チャネル」である理由です。
— なるほど。少子高齢化問題が頭にあると見逃してしまいそうです。しかし「安定している」というだけで、新卒採用に踏み切る経営判断をするのは難しいのではないでしょうか。
曽和さん: そうですね。ここで2つ目のメリットを挙げましょう。動的人材ポートフォリオ(※)の適正化がしやすいという点です。
中途採用では、空いてしまったポストや、事業上の理由で必要が生じたポストを「埋める」形で人材を確保します。
これは、即効性のある人材戦略の一つとして、経営上、大きなメリットです。
しかし、中途採用だけで人材を獲得していくことにはリスクも伴います。
例えば、社内の年齢構成ピラミッドが崩れやすいというのが、そのうちの一つです。即戦力採用の対象となるのは30〜40代が中心なので、中途採用「だけ」を続けていると、この層が厚くなりすぎ、結果としてアンバランスな年齢構成ピラミッドを形作る要因になりかねません。
一方、新卒採用では同年代の人材を一括で獲得できます。年数を経て転職していく人材、辞めていく人材はいるでしょう。その結果として年齢構成ピラミッドが整い、きれいな三角形を形作ることができるのです。
— 年齢構成が整っていることが、動的人材ポートフォリオの適正化にどう貢献するのでしょうか?
曽和さん: 年功序列制度を厳格に持ち続けている企業はもうかなり少なくなりましたが、一部の例外を除けば、評価主義であっても、社歴の長さと比例して経験と実力を積み重ね、職級が上がっていくという現象は起こっているはずです。
つまり、同年代の若い人材を毎年、一定の人数で獲得していくことで、「5年後のリーダー、10年後の管理職」が常に組織の中で育っていくことになります。
これが「動的人材ポートフォリオ」を支えるのです。5年後、10年後、20年後と将来にわたって企業を支えてくれる人材が社内のどこにいて、今何をしているのか。次はどう育成すべきなのかが把握しやすくなります。
これによって事業の安定性と継続性はぐんと高まり、その経営的メリットは計り知れません。
※「動的人材ポートフォリオ」:将来のリーダーや中核人材を計画的に育成し続けるための年齢・スキル構成の設計方針。組織の持続的成長に向け、世代交代を見据えた“動き続ける”人材配置を重視する考え方。
>>人材ポートフォリオについてさらに詳しく知りたい方はこちら↓
“この学生はどこで、どう活躍できる?” を「正しく」「合理的に」見極める──新卒採用における「人材ポートフォリオ」の使い方
強固な企業文化の形成と「ジャイアント・キリング」は新卒採用の強み
— ありがとうございます。とはいえ、5年後、10年後まで見据えて採用するということは、それだけ教育コストもかかるということになります。このコストを上回るメリットがあるのでしょうか?
曽和さん: 動的人材ポートフォリオの安定性を高めるというだけでも十分な価値がありますが、他にも大きなメリットが2つあります。
まず1つが、企業文化の醸成がしやすいという点です。
私が過去に人事責任者を務めていた急成長中の不動産デベロッパーは、「成果よりも過程」を重視する社風によって独自の強みを生み出している企業でした。
これは不動産業界の中では異彩を放つと言えるほど珍しいもので、多くの中途採用人材はこの風土に戸惑い、慣れるまで時間がかかりました。
しかし、新卒人材であれば戸惑いはありません。なぜなら、就業経験がないため「会社の常識」をまだ持っていないからです。
むしろ、新人研修、OJTなどを通じてその特異な企業文化を吸収し、それを「常識」として認識することで素早く順応しました。
これは、企業文化が事業の強みと直結しているような企業にとっては非常に魅力的です。
— なるほど。では、そこまで企業文化と事業とが直結していない場合はどうでしょう。
曽和さん:
先ほどの話は象徴的な一例でしたが、企業文化が「ない」という企業は基本的にありません。
例えば、社内でだけ通じる略語や専門用語、明文化されていないルールなんかは多くの企業が持っているのではないでしょうか? それもある種の「企業文化」です。
— ありますね。取引先を示す暗号のような略語や、「このタイプの案件は○○さんに一度話を通してから進める」のような暗黙のルールですよね。
曽和さん: そうです。そういったものを一から教えたり、覚えたりするのは意外に難しいことなのです。特に、前職のものを忘れなくてはならないなら、なおさらですね。
しかし、新卒人材はこのような暗黙のルールや職場の空気感にもすぐに染まります。
そして、共通言語や暗黙知を共有できるかどうか、が実は生産性に直結するのです。説明の必要がない、暗黙の相互理解によってコミュニケーション効率が向上します。
例えるなら、家族間で「アレ」だけで話が通じるような、ツーカーのコミュニケーションができるわけですね。
— なるほど、よく分かりました。もう1つの大きなメリットとは何でしょうか?
曽和さん: もう1つは、新卒採用なら「ジャイアント・キリング」、つまり中小企業であっても大手に引けを取らない優秀な人材の獲得が可能であるという点です。
— ぜひ詳しく聞かせてください。なぜ、新卒採用であればジャイアント・キリングが可能になるのでしょうか?
曽和さん: すでに経歴や実績を根拠とした市場価値がはっきりしている中途人材と、選考の時点では基本的に何の実績も経験もない学生との違いです。
輝かしい経歴や素晴らしい実績を持つ中途人材は、いわば「ダイヤモンド」です。すぐに能力を発揮してくれますが、それに見合うだけの対価を支払える企業でないと採用できません。
一方、新卒人材は「ダイヤの原石」です。企業側が学生のポテンシャルを見抜き、磨いていく必要があります。それだけに、中途では採用できないような大きいダイヤモンドに「大化け」する可能性も秘めているのです。
大化けすれば、それは「大手が見逃した原石(優秀な人材)を見つけることができた」という点でジャイアント・キリングといえますよね。
ジャイアント・キリングをかなえるのは「引き付け力+見極め力=採用戦闘力」
— 非常に魅力的なお話ですが、ダイヤの原石に例えていただいたように、いつか輝く人材を集め、見抜くのは並大抵ではありません。企業側としてできることは何でしょうか?
曽和さん: 採用担当者の「採用戦闘力」を高めることです。これは具体的には「引き付け力」と「見極め力」に大きく分けることができます。
「引き付け力」とはそのまま、学生を自社に引き付ける力のことです。
冒頭でお話ししたように、新卒採用市場に出てくる人材の数は一定水準を保っていますが、企業の採用意欲は高止まりしているため、採用難易度は決して低くありません。「いまは企業が選ばれる時代」といわれるのはそのためです。
一方、学生は採用担当者が語る「会社の魅力」や、「採用担当者個人の魅力」によって企業選びをする側面があります。
曽和さん: この図からも分かるように、学生が入社を決めたポイントとして、「やりたい仕事がある(ありそう)」「人事担当者の印象が良かった」がそれぞれトップです。
前者の要素を伝えるには、採用担当者が熱意を持って自社の仕事の魅力を語る必要がありますし、後者は言うまでもなく採用担当者個人の魅力が必要不可欠ですよね。
これらの能力を下支えする「トーク力(言語化・表現力)」や人間的魅力を持っている人物を採用担当者にする、または採用担当者のトーク力を伸ばすことが、まずはジャイアント・キリングをかなえるための第一歩です。
— そうして「ダイヤの原石」たる学生を引き付けることができたら、次はその中から「大きいダイヤモンド」になる学生を見極める必要があるわけですね。
曽和さん:
そうです。こちらは採用担当者に限らず、面接官を担当する現場社員や経営陣にも求められます。
ある種の先天的な能力が求められる「引き付け力」よりも、面接官研修やアンチバイアス研修などのトレーニングによって伸ばしやすいのが特徴です。
こうして引き付け力と見極め力を高め、採用戦闘力を持つことがジャイアント・キリングには重要となります。
新卒採用を成功に導くための「経営者の覚悟」
— ここまでご説明いただいた内容をまとめると、企業経営にとって新卒採用は非常に重要であると分かります。しかし、多くの企業で創業当初から新卒採用を行わないことからも、一定の「準備」は必要になるのではないでしょうか。
曽和さん: そのとおりです。新卒採用を行うために経営者として準備しなくてはならないものは、3つあります。
「明確な経営ビジョン」「育成思想へのシフト」、そして「長期投資が可能な経営体力」です。
— 1つずつ教えてください。まず「明確な経営ビジョン」とは?
曽和さん: 企業を経営している以上、何らかのビジョンを持って事業に当たっているはずですが、それを明確な言葉にして従業員、特に採用担当者に伝えることが必要です。
これは先ほど説明した採用戦闘力のうち、「引き付け力」に直結します。
いくら採用担当者のトーク力や人間的魅力が充実していても、学生に伝えるべきビジョンを正しく把握していなければ、その力を発揮することはできません。
自分の会社は何のために事業を行い、将来はどうなっていきたいのか、そしてどう社会に貢献するのか。いわゆる「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」を経営者から明確な言葉で伝える必要があります。
— 続いて「育成思想へのシフト」とは?
曽和さん: 先ほどの質問にもあったように、多くの企業で創業から数年は中途人材を中心に採用し、事業のために必要な能力を即戦力として獲得していきます。
一方の新卒採用は、これもすでにお話ししたように「ポテンシャル採用」です。採用時点では、まだほぼ「学生」である人材を自社で活躍できる「社会人」に育てる必要と責任があります。
ダイヤの例えに戻すなら、「原石を磨く」ことで自社にフィットし、生産性のある人材に育てていくという育成思想を持つ必要があるのです。
これは、中途人材による即戦力の補給とは根本的に考え方が異なります。人は変われる、成長できる、と信じて磨く覚悟と、実際に機能する受け入れ・育成体制の整備が必要です。
— 受け入れと育成の体制とは、具体的にどのようなものを指しますか?
曽和さん: いま多くの企業で課題となっているのが、氷河期世代に当たる40代後半から50代のマネジメント能力の不足です。その1つ上に当たるバブル世代が非常に多いために、マネジメント経験が不足したまま社歴を重ねてしまっているという構造的な問題があります。
ですから、まずはマネジメント層の能力向上が必要です。特に新卒ではモチベーション維持や情緒的なサポートも必要になるので、単にタスク・プロジェクトマネジメントの能力だけではない総合的な向上が求められます。
その上で、オンボーディング施策などの制度・仕組み的なサポート体制を整える必要があるでしょう。
— そして最後が「経営体力」ですね。
曽和さん:
はい。新卒採用は非常にスパンの長い取り組みです。採用活動の開始から入社まで、長ければ丸々2年かかります。そして入社後も、一人前になるまで少なくとも3年はかかるでしょう。
その上、ポテンシャル採用ですから、その後の生産性も採用時点ではまったくの未知数。
つまり、5年間はリターンの不明な投資をただただ続ける必要があります。マイナビの統計によると、1名採用するのにかかる平均費用は58.6万円(※)、高ければ100万円ほどかかる場合もありますので、10人の新卒を採用するならおおよそ500万〜1,000万円です。それだけの投資をできる経営体力、そしてすぐにリターンが得られなくても焦らない覚悟の両方が必要です。
※出典:2024年卒企業新卒内定状況調査
— なかなか長い道のりですね。
曽和さん: そうですね。しかし、ここまでにお話ししてきたように、企業経営において新卒採用とは、事業の安定性と継続性、成長性の全てにプラスのインパクトを与える可能性があります。
経営者としての覚悟は必要ですが、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。
— 非常に具体的で、実践的なお話でした。ありがとうございました!
未来を見据えた「人材戦略」としての新卒採用
ここまで見てきたように、新卒採用は単なる人材補充の手段ではなく、企業の将来像そのものを形作る戦略的な取り組みです。
景気や市況に左右されにくい「安定的な人材供給チャネル」であり、年齢構成を整えることで「動的人材ポートフォリオ」を築き、将来のリーダーを社内から育成することができます。
さらに、自社ならではの企業文化を根付かせ、優秀な原石を磨き上げていく未来への布石ともなり、しかも中小企業であっても、大手では得られない人材を獲得し得る「ジャイアント・キリング」の可能性すらある。まさに、挑戦する価値のある領域です。
もちろん、新卒採用には育成コストや長期的な投資も必要となるでしょう。しかし、それを支えるために明確なビジョン、育成志向、長期投資を可能にする経営体力、そして経営者の覚悟があれば、新卒採用は“未来を変える力”となるのです。
短期的な即戦力にとどまらず、10年先の企業の姿を描く。そんな経営の「本筋」にこそ、新卒採用という選択肢があるのではないでしょうか。
\新卒採用が気になったら…?データで解説!新卒採用まるわかりBook/
●HUMAN CAPITALサポネットについて
採用・育成・組織戦略ご担当者さまの課題に寄り添う、 マイナビの情報メディア「HUMAN CAPITAL サポネット」。
採用戦略や手法の好事例、学生や求職者とのコミュニケーション設計、採用・選考における基本ルールやノウハウ、人材定着と組織生産性向上を視野に入れた研修・育成、現場での事例紹介まで、さまざまな課題やお悩みに寄り添うコラム、セミナー、市場調査データなどをお届けしてまいります。
また、会員登録していただくと採用・育成に役立つ資料や、調査データのダウンロードが可能となりますので、ぜひご登録ください。
会員登録はこちら- 人材採用・育成 更新日:2025/09/03
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-