“個別対応”でマッチする人材を入職へ。「社会福祉法人 みずき福祉会」に学ぶ支援職採用のヒント【後編】
「社会福祉法人 みずき福祉会」が心がけているのは、求職者の心に届く的確な情報発信です。入職者にヒアリングやアンケートを行うことで、求職者がどんな情報を求めているかを探っているといいます。選考過程では、候補者一人ひとりに合わせた個別対応に努めています。
その結果、この3年間、新卒採用でも中途採用でも安定した採用実績をあげています。中途採用では、他業種からの転職者を多く獲得。法人全体の離職率も5%前後を維持しています。
前編で取材した昨年の入職者からは、同法人の求人票に対し、「写真やキーワードに魅力を感じた」「給与の記載がわかりやすかった」という感想が聞かれました。さらに、求人情報から受けるイメージと選考過程での対応、入職後の職場環境にギャップがなかったという声もあり、このことが安定した採用実績と高い定着率につながっていると考えられます。
―中途採用の応募者にはどんな人が多いですか。
坂田さん(以下、坂田):やはり施設の近隣に住んでいる人が中心ですね。年齢層は30代から70代までと幅広いです。男女比は6:4で、女性が多めです。
―貴法人の採用基準を教えてください。
坂田:中途採用・新卒採用ともに、「ご利用者に丁寧に接することができるか」を重視して選考を進めています。中途採用では、この基準に合う人を幅広い年齢層から採用しています。
―未経験者を積極的に採用している印象があります。未経験の求職者を応募や入職につなげるために意識していることはありますか。
坂田:採用難の福祉・介護業界では、福祉系学部の卒業生や現場経験者だけを狙っていても、十分に人材を確保することはできません。採用の成否は、「福祉介護業界に興味はあるけれど、私には難しいかも」と感じている他業種の人や一般の学生をいかに引き込むかにかかっています。
そこで、採用広報でも候補者対応でも、未経験者が「チャレンジできそう」と思える雰囲気を打ち出すようにしています。たとえば中途採用の求人票では、福祉業界を知らない人でも入職後をイメージできるように、支援職の仕事内容をわかりやすい言葉で詳細に記載しています。
―そうしたアプローチの結果、どのような変化を実感していますか。
坂田:新卒採用では、福祉系学部の出身者もいますが、違う学部出身の入職者も増えてきました。中途採用では、業界経験がない人が大幅に増えましたね。
家庭と両立しながら働きたいという子育て世代の応募者も目立ちます。当法人の施設では、正職員でも18時までに退社可能で、有給休暇も取りやすく、子育て中の職員が急に早退や欠勤した際に周りがフォローする体制もあります。子育て世代のニーズとマッチしているのではないでしょうか。
―求人情報を発信する際にとくに意識していることはありますか。
坂田:手当たりしだいに応募を集めようとするのではなく、自法人にマッチする人材像をイメージしたうえで、その人たちが求めている情報を伝えることが採用広報の基本だと考えています。求人票には、ターゲットとなる学生や求職者に響きそうな当法人の魅力ポイントをしっかり盛り込んで、応募につなげています。
加えて、最新の情報を具体的に書くことも心がけています。一般的に、新卒の学生は理念や社風などを重視しますが、社会人経験のある中途採用の求職者は、数字や根拠を求める傾向があります。たとえば有給休暇の欄には、「入職時から取得可能」「時間単位で取得可」などの情報とともに付与日数や前年度の平均有給消化日数も記載するというように、求職者の視点で見て気になることを、できる限り具体的に数字もあわせて伝えるようにしています。
―求職者が求めている情報を把握するのは難しいことだと思いますが、どのようにリサーチしていますか。
坂田:主に職員からヒアリングしています。私は16年間、現場で働いた後に採用担当者になったので、多くの職員と顔がつながっています。温度感も含めた現場の声を聞き出せるのが強みですね。また、当法人は離職率が低いため、各事業所の管理者にも知っている顔が多く、事業所間の情報交換もスムーズなんです。
さらに、新卒採用で入職した職員には、アンケートも実施しています。こちらで16の項目を用意して、そこから入職の決め手になったことトップ3を選んでもらっています。もっとも多い回答は、「職場の雰囲気」で、次に多いのが「理念」「職員の人柄」です。私たちとしても、これらのポイントこそ求人情報でもっとも訴求したい当法人の魅力であり、入職の決め手になってほしいと考えているので、アンケートを取ることで、ターゲットとなる層に情報が届いていることを確認できました。
―選考過程では、どんなことを意識していますか。まずは新卒採用の候補者対応について教えてください。
坂田:学生の背景はそれぞれ違うので、全員に同じ対応をするより、個別に対応をするのが効果的だと考えています。選考の最初の段階でこの業界に興味を持った理由やエントリーした理由などを聞いたうえで、一人ひとりの事情に合わせて必要な情報を予測して提供したり、次回の案内をしたりしています。学生によっては、施設見学やインターンシップのプログラムが終わった後に、個別のフォローとして一対一の面談を提案することもあります。
―新卒採用の場合、学生一人ひとりと会って話す時間をつくろうとすると、予定がかぶりがちですよね。日程調整で工夫していることはありますか。
坂田:学生と話した際には必ず雑談をして、そのなかで拾った情報を書き留めておくようにしています。たとえば、この曜日の午前中は授業が入っていないとか、大学3年になったら全休になる曜日があると聞いたら、後日、そこに面談の予定を入れる提案もできますよね。
―中途採用においても、同様に個人に合わせた対応をするのが基本ですか。
坂田:基本的には同じです。中途採用の場合、新卒採用のようにまとまった数の応募が来るわけではないので、個別の対応はしやすいんです。面接で家庭の状況や希望する働き方、転職したい理由などを聞いて、それに合わせて「うちならこういう環境を提供できる」「同世代の人も勤務していますよ」といった情報を提供しています。中途採用は選考スピードが速いので、いいなと感じた人には早めに内定を出して入職につなげることが重要です。
―とくに個別対応がうまくいったと感じる例があれば教えてください。
坂田:最近の学生の就職活動は、早期化・分散化しています。大学2年次から動いている人もいれば、4年次からのんびりスタートする人もいるので、私たちもそうした傾向を踏まえて動いています。より個別対応の効果を感じるのは、やはり2年次から時間をかけて向き合ってきたケースですね。
ある入職者とは、2年生のときに参加してくれたインターンシップで初めて会って、その後も主にオンライン面談を通して丁寧に関係を築いてきました。この入職者は、他法人と当法人を比較して悩んだ結果、雰囲気と職員の人柄が気に入ったという理由で当法人を選んだのだそうです。その他法人が私の目から見ても非常に魅力的だったこともあり、個別対応の努力が実ったケースとして強く印象に残っています。
―職員の皆さんへのインタビューでは、全員が理念を共有していて、同じ方向を向いて仕事をしているというお話が印象的でした。何かそのために取り組んでいることはあるのですか。
坂田:計8カ所の施設すべてにおいて、「ご利用者様が安心して過ごせるように」という法人理念が現場に浸透しています。支援は形や数字に表れないものなので、働く姿勢をなにより重視しているんです。
職員間に理念を浸透させる取り組みの一つが、研修です。当法人では、実務研修だけでなく、人間力をテーマにした研修を実施しています。こうした研修を通して、全職員に法人理念を意識づけています。
ただし、研修を実施するだけでは十分とはいえません。さらに当法人では、定期的にチーム内で理念を確認し、会議でもご利用者のために何ができるかを考えて話し合っています。これらの取り組みにより職員一人ひとりに主体的に考える習慣が根づいていることが、職員間の連携の良さにつながっているのだと思います。
―研修では、職員が講師を担当するのですか。
坂田:外部から講師を迎えることもありますが、日常的な研修は、職員のなかでそのテーマについて話すのが得意な人が講師を務めます。伝えることや指導することも職員に求められている役割の一つだと皆が理解しているので、人前で話すのが苦手な職員も、練習を重ねて少しずつチャレンジしています。
―ご協力ありがとうございました。継続的な取り組みや地道な努力が、安定した採用実績と定着率の高さにつながっているのですね。
- 人材採用・育成 更新日:2025/11/03
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-