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注目される時短勤務制度とは?企業・従業員双方にとってのメリット・デメリット

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今、ワークスタイルの変革が大きく注目されています。2020年初頭から社会情勢は一気に変化し、一時はリーマンショックを越えて戦後最大の経済危機にも直面しました。テレワークは半ば強制的に進み、多くの企業やビジネスパーソンが戸惑いの中、奮闘していたことでしょう。

ワークスタイル変革には様々な形があり、その中に「時短勤務制度」があります。従来はフルタイムで働くことが当たり前に要求され、それを全うできるか否かがビジネスパーソンとしての価値にも繋がっていました。しかし、日本経済はもとより世界経済でも成果主義が推奨され、働く時間にこだわらないビジネスが到来しています。これに追随し、新しい制度を導入するのは企業やビジネスパーソンにとって、果たしてどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

時短勤務制度とは

時短勤務制度は読んで字の如く、所定の労働時間よりも短い時間での勤務を認める制度です。あまり知られていないかもしれませんが、時短勤務制度は2009年6月に改正された育児・介護休業法によって義務化された法案であり、対象となる労働者が明確に定められています。では、どのような労働者が対象となるのか。

時短勤務制度の対象となる労働者

  • 3歳に満たない子を養育する労働者
  • 1日の所定労働時間が6時間以下ではない労働者※
  • 日々雇用されるものではない労働者
  • 短時間勤務制度が適用される期限に現に育児休業をしていない労働者
  • 労使協定により適用除外とされた労働者でない労働者

※1ヵ月または1年単位の変更労働時間制が適用される労働者については、全ての労働日の所定労働時間が6時間以下でないこと(対象となる期間を平均した場合の、1日の所定労働時間ではない)

これらの条件を満たすことで時短勤務制度の対象となりますが、例外もあります。その条件は次のようなものです。

  • 当該事業者に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
  • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
  • 業務の性質上または業務の実施体制に照らして、時短勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者

以上の情報を踏まえて、時短勤務制度が何のために存在しているのか?それは、働きながら子育てに励むビジネスパーソンに対して、企業側が明確な措置を取り、安心して仕事・子育てに取り組むための環境を整え、双方に置いて充実性を図るものであると考えられます。

また、日本の社会問題になっている少子高齢化を打開する施策でもあり、ワークライフバランスが整えやすい就労環境を整えることにより、結婚・出産・育児へのポジティブな姿勢を作るものだとも言えます。

時短勤務制度の注目背景

時短勤務制度が義務化されてから10年以上が経過していますが、現在になって注目されている背景には何があるのでしょうか?これをいくつかの資料から読み取っていきます。まずは、厚生労働省が毎年実施している世論調査を引用します。

厚生労働省の資料によると、1976年に実施した調査において「日頃の生活で充実感を感じるのは主にどのような時ですか?」という質問に対して、回答者のうち36.3%が「仕事に打ちこんでいる時」と回答しています。それから約40年後の2017年に実施された調査ではどうでしょうか?同様の質問に対し、「仕事に打ちこんでいる時」と回答した人は30%を下回り、29.0%という結果になりました。その一方で、「家族団らんの時」に充実感を感じている人の割合は4.6%上昇し、より多くの人が家族と過ごすひと時に安らぎを感じていることが分かります。

次に、マイナビが新卒者を対象として行った『2021年卒マイナビ大学生のライフスタイル調査』によると、「育児休業を取得して積極的に子育てしたい」と考えている男性は5年連続で増加傾向にあり、過半数を超えたことを発表しています。これからの日本経済を背負って立つ人材は、育児に対して積極的であり、尚且つ仕事よりも家庭を優先したいと考えている人が多いのかもしれません。日本が古くから築いてきた、「家庭を犠牲にして仕事を優先する」という文化は風化しつつあるのです。

そして企業及び使用者は、労働者のそうした意思を反映し、サポートするべき立場にあります。もちろんそれは単なる慈善事業ではなく、労働者に寄り添った職場環境を構築していることを外部へアピールし、より魅力的な企業へと成長する糧になります。

また、厚生労働省が2019年に行った平成29年度雇用均等基本調査』では、時短勤務制度を導入している企業は2015年〜2017年の3年間で約10ポイント増加していることを示し、多数の企業が時短勤務制度の構築に対して積極的であることを示唆しています。

令和3年1月には、育児・介護休業法も改定されます。この法改定で、出産後の育児やご両親の介護をする労働者が看護・介護休暇を取得する際、時間単位での取得が可能になり、対象者は全労働者です。これまで(改定前)は、看護・介護休暇の取得が半日単位で、1日の所定労働時間が4時間以下の労働者は対象外となっていたため、多くの方が恩恵を受けられるようになるでしょう。

時短勤務制度のメリット

時短勤務制度を導入すると、企業も従業員も様々なメリットを享受できます。特に企業側のメリットとして人事体制を外部にアピールし、魅力的な企業として認知されるのは大きな効果です。では、企業側と従業員側、双方の視点から時短勤務制度のメリットを確認していきましょう。

企業にとってのメリット

最近では「採用ブランディング」といって、自社の採用活動をブランディングによって価値を高め、求職者にとって魅力的な企業へと成長する取り組みが多方面で始まっています。時短勤務制度を導入することで従業員はワークライフバランスが整えやすくなり、キャリアの分断を心配することなく仕事に取り組めることから、採用ブランディング効果が高いと見られます。

さらに、女性活躍推進を取り入れている企業として社会に映り、ジェンダー差別へ真剣に向き合っていることをアピールできます。最近ではジェンダー差別的な発言は厳しいバッシングの対象になっており、女性活躍推進は世界的な動きでもあります。言い換えれば、女性活躍推進を取り入れている企業は先進企業として受け入れられ、より高い評価を得やすいということです。無論、女性も優秀な人材は多数存在するので、そうした人材から求められるような職場環境を作ることが企業成長につながっていきます。

また、仕事における選択肢を増やすことで従業員の離職リスクを低減し、結果として人事コストを下げられる可能性があるでしょう。

従業員にとってのメリット

従業員の視点から見たメリットはやはり「ワークライフバランスが整う」というのが最大のメリットです。勤務時間を通常より少なくしたり、フレックスタイム制によって就労時間を自由に選べることで、育児に対する影響は非常に大きなものになります。成長期の子にとって親の存在は絶大であり、人格形成においても大切な時間なので、貴重な時間を育児に充てられることはより大きな幸福感と達成感を感じられるようになるでしょう。

仕事と育児の両立は決して簡単なことではありませんし、精神的に辛いことも多々あります。その中で育児だけでなく、「自分の時間」「夫婦の時間」をしっかりと確保できることが、日々の安定した精神状態を生み出し、仕事と育児への活力を生み出します。

時短勤務制度のデメリット

では、時短勤務制度におけるデメリットとは何か?企業が最も注意しなければならないのは、「従業員同士による格差・差別」です。法令によって定められているからといって、同僚の短い勤務時間を快く受け入れる人もいれば、そうでない人もいます。時短勤務制度の導入に苦慮している企業の多くは、こうした従業員同士のトラブルや人間関係の溝といった問題を抱えています。

従業員の視点から見ると、「収入が減少する」というデメリットがあります。時短勤務制度を利用している従業員に対して不当・不利益な扱いをすることは禁止されています。しかし、時短勤務によって給与を減額してはならない、といった条例はありません。つまり、企業によっては時短勤務制度を利用することで給与が通常よりも少なくなるケースがあります。これに対する措置は企業によって様々なので、従業員は自社企業が定めている時短勤務規則をしっかりと確認する必要があります。

時短勤務制度の構築方法について

時短勤務制度は企業と従業員にとって多くのメリットをもたらす人事制度ですが、前述したデメリットにも留意しながら導入を進める必要があります。ここでは、実際に時短勤務制度をどのように構築していけば良いのか?その大まかな流れと各フェーズにおけるタスクをご説明します。

1.時短勤務制度を通じて達成したい目標を設定

時短勤務制度は単に従業員のワークライフバランスを整えるものではなく、制度を通じて多くの人事課題や人材リスクを解消するためのソリューションでなければなりません。そのため最初に行うべきことは、「時短勤務制度を通じて何を達成したいか?」を考えることです。例えば「離職率を10%低減する」、「能力が高い育児世代の従業員のモチベーションを維持する」などが挙げられます。

2.従業員の負担にならない手続き方法の決定

時短勤務制度について厚生労働省が公表している資料では、「適用を受けようとする労働者にとって過重な負担を求めることにならないよう配慮しつつ、育児休業や所定外労働の制限など育児・介護休業法に定める他の制度に関する手続も参考にしながら適切に定めることが求められます。」と説明されています。

従業員にとって過度な負担があるような手続き方法は、実態に即したものとは言えません。それは結果的に従業員を追い詰め、企業の首を絞める結果にもなります。厚生労働省が発行している育児・介護休業法に関するパンフレットなどを参考にしながら、簡素化された手続き方法を目指しましょう。

3.対象となる従業員の就労時間・業務範囲・賃金・評価制度などを整える

就労時間を短縮したとしても、業務範囲が変わらなければ従業員への負担は逆に増えてしまいます。また、従業員同士の衝突を避けるために賃金や評価制度について見直す必要性もあるでしょう。このステップは時短勤務制度において最もデリケートな部分なので、1度で全てを決めるのではなく、制度を運用しながら改善を加えていくよう心掛けてください。

4.就業規則への反映を行い、組織全体へ告知する

上記によって決定した事項は速やかに就業規則に反映し、組織全体へ告知します。従業員によって「知らなかった」とならないように、周知を徹底しましょう。

5.トライアルとして複数の従業員を対象にする

実際に時短勤務制度を利用したいと申し出た従業員を対象に、トライアルを実施してみましょう。制度運用で大切なことはやはり継続的な改善です。最初に定めたことが全て正しいとは限りませんし、改善の余地はたくさんあります。制度運用を効率化するためにも、時短勤務制度に特化した委員会を設置するなど、様々な措置を講じてみてください。

6.フィードバックから問題点や改善点を整理

トライアルでは時短勤務制度を利用している従業員から、定期的にフィードバックが得られる仕組みを作ってください。週に1度のアンケートなど従業員の所感を定量的に測れるような方法が好ましいでしょう。フィードバックから問題点を分析し、改善すべき点を洗い出していきます。

以上のフローを1つの大きな流れとして、時短勤務制度を継続的に運用していきます。くどいようですが、大切なのは「継続した運用」です。時短勤務制度が名ばかりにならず、従業員にとってワークライフバランスを整えるための手段になるよう努めましょう。

制度上の注意点

給料に関すること

育児・介護休業法の条例では「不利益取り扱い」を禁止しています。これは、例えば育児休業を申請した従業員に対して解雇や降格することを禁止するというもの。時短勤務制度においては、業務時間が減った分の給与を減額すること自体、法律違反ではないものの、降格などにより給料削減がされれば法律違反となります。そのため、就業規則などに時短勤務制度の詳細を記載したうえで、社内全体に周知することが大切です。

手続きに関すること

時短勤務制度の手続きに関しては、企業側(事業主)で定めることが可能ですが、手続きが複雑化すると申請を躊躇してしまうケースも増えてしまいます。従業員が心理的に負担と感じるような手続きにならないよう配慮しつつ、育児休業や所定外労働など他制度の手続き状況を鑑みたうえで調整するようにしましょう。

職場内の人間関係に関すること

時短勤務制度を導入することで、通常の勤務体系で働く従業員への負担は必然的に増えてしまいます。そのため、制度への理解が乏しいと不公平感を抱く可能性が高くなり、従業員間で軋轢が生じてしまうケースも少なくありません。事前に、時短勤務の従業員と周囲の従業員との連携や配慮をしっかりと行ったうえで、双方の関係性を良好に保つ環境づくりを行うようにしましょう。

時短勤務労働者の給与計算と残業代

時短勤務制度の構築方法に加えて給与計算と残業代について言及しておきます。時短勤務労働者の給与計算の基本は、「所定労働時間に対する日労働時間の割合を算出し、基本給にかける」という方法です。計算としては次のようになります。

基本給×実労働時間÷所定労働時間=時短勤務労働者の給与

例えば月間の所定労働時間が160時間(8時間勤務×20日間)なのに対し、実労働時間が120時間(6時間勤務×20日間)だった場合、120時間を160時間で割ると75%になります。基本給が30万円の場合、その75%に当たるのは22万5,000円なので、これが時短勤務労働者の給与ということになります。ただし、必ずしも給与を減額する必要はないため、十分に稟議した上で決定してください。

また、残業代に関しては通常通り時間当たりの賃金に25%を上乗せするものの、時間外労働とみなされる労働時間に関しては時短勤務労働者も通常の労働者と変わらないため、残業代が発生するケースは稀だと言えるでしょう。

時短勤務制度の導入課題

最後に時短勤務制度の課題についてご説明します。最も大きな課題だと言えそうなのは、「企業と従業員とでニーズにギャップがある」ことです。法令によって定められている時短勤務対象労働者は、「3歳未満の子を養育する労働者」です。しかし実態として、3歳以上の子を養育する労働者でも時短勤務制度へのニーズが高いものの、企業がそのニーズに追随できていません。このため従業員同士の人間関係に溝が生まれやすく、職場環境の悪化につながるケースもあります。

また、従業員の中には人事評価がマイナスになることを恐れて制度を利用したくても手を挙げられないという方も少なくありません。そうした従業員の意見も汲み取りながら、企業と従業員の双方にとってメリットを最大限に引き出せるような時短勤務制度を目指すことで、より魅力的な企業として成長していけることでしょう。

(参考)昭和51年5月 国民生活に関する世論調査平成29年6月 国民生活に関する世論調査
(参考)平成29年度雇用均等基本調査
(参考)短時間勤務制度(所定労働時間の短縮等の措置)について
(参考)育児・介護休業法に関するパンフレット

  • 労務・制度 更新日:2022/03/23
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