パワハラ・セクハラをなくすために人事がすべき7つの施策

コンプライアンス問題や労働問題と絡んで、ここ数年、特に企業で対応が急がれている問題のひとつとして「パワハラ・セクハラ問題」が挙げられます。
パワハラ・セクハラは人事単体の問題ではなく、全従業員に関わる根源的な問題。しかし、各種機関による調査結果を見ると、企業のセクハラ・パワハラ対策の実施率は決して高いとは言えません。なかには、従業員側が対策のクオリティに満足していないという場合もあるようです。(*1)
その原因としては、「どこから手を付けていいのかわからない」という悩みや、経営陣と従業員の認識にズレが生じていることも多い様子。実際この問題は、どのように対策を進めるべきかイメージしづらく、なかなかゼロからの対策が難しい分野でもあります。
そこで本稿では、「セクハラ・パワハラ問題」に対して人事担当はいったい何をすべきなのか、いくつかのポイントに絞って解説していきます。
(*1)出典:「雇用平等ガイドブック」(TOKYOはたらくネット)
https://www.hataraku.metro.tokyo.jp/sodan/siryo/guide/24.html
https://www.hataraku.metro.tokyo.jp/sodan/siryo/guide/28.html
セクハラ・パワハラに代表されるハラスメント行為は、意外に身近な場所に潜んでいるもの。第三者から見て明らかな場合もありますが、当人にはそのようなつもりがなくとも、受け取る側が不快感・苦痛を覚える場合がよくあります。
一般的なハラスメントのなかで、職場において特に注意が必要なのは、セクハラ・パワハラに加えて、妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメントが挙げられます。まずは、どういった行為がこれらのハラスメントに当たるのか確認していきましょう。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、相手が不快に感じるような性的な言動で、職場環境を悪化させたり、それに対する対応によって不利益を与えたりすることです。男性から女性だけなく、女性から男性、または同性に対してなど、性別や性的指向・性自認に関わらず“性的な言動”であればセクハラとなることがあります。
具体的には、身体への不必要な接触や性的な冗談・質問などはもちろんのこと、性的な言動で周りにいる社員の就業意欲を低下・能力発揮を阻害する行為などもセクハラになります。
また、交際・性的関係を強要したり、それを拒否した社員に対して減給や解雇などの不利益を与えたりすること、「男のくせに」「女だから」といった発言などもセクハラになり得ます。
パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場内での優位性を背景に、精神的または身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為のことです。上司から部下に対してのみではなく、先輩・後輩や同僚間、部下から上司に対して行われる場合もあり、職務上の地位や人間関係、専門知識など、さまざまな優位性に基づく行為がパワハラになり得ます。
具体的には、叩く・殴る・蹴るなどの身体的な攻撃、ほかの社員の前であえて怒鳴りつけるなどの精神的な攻撃、無視、不当な形での降格や雇用不安を与えることなど。
業務の適正な範囲を超えるものがパワハラと見なされ、机・壁を叩いて脅かしたり、業務外の行動を強要したりすること、遂行不可能なほど過大な要求や、逆に能力・経験とかけ離れた過小な要求をすることもパワハラに該当します。
一般的によく言われるセクハラ・パワハラのほか、職場においては妊娠・出産・育児休業・介護休業等(以下、「妊娠等」とする)に関するハラスメントにも注意しなければなりません。これは、妊娠等に関する制度を利用したことなどを理由に、就業環境が害されたり、不利益扱いを受けたりすることです。
具体的には、妊娠・出産したことによる嫌がらせや、妊娠等に関する制度の利用を阻害するような言動、制度を利用したことによる嫌がらせなどがハラスメントとなります。また、妊娠等に関する制度の利用によって、解雇や契約更新の拒否、減給・降格、不利益な配置転換などをすることは不利益取扱いに該当します。

一度でもセクハラ・パワハラによるトラブルが社内外で公になってしまうと、最善の対策を取ったとしても、関係者間の人間関係が元通りになることはほとんどありません。結果的に、立場の弱いほうの従業員が「退職」という形で職場を去っていくケースが非常に多いのです。
つまり、セクハラ・パワハラは、“問題が起こってから対処するのではもう遅い”ということです。
したがって、問題が起きたあとの対処マニュアルをまとめる程度では意味がありません。問題が起きる前から、セクハラ・パワハラを効果的・効率的に「予防」する施策にこそ全力で取り組むべきなのです。
セクハラ・パワハラ予防する施策は、大きく3つのジャンルに分かれます。
- ルール作り
- 仕組み作り
- 教育・広報
一番大切なのは、会社としての「ルール作り」です。まずは就業規則等でセクハラ・パワハラを明確に禁じ、罰則も厳しく設定。その次に、いったん定めたルールをどのように運用し、従業員に対してどう守らせるのか決める「仕組み作り」に着手します。
そして、できあがったルールや仕組みを継続的に運用するためには、内容を従業員へ浸透させる必要があります。そこで効果的なのが「教育・広報」。社内外に対して長期的にアピールをしていくことで、徹底的に従業員への意識付けをしていくわけです。
どこから手を付けていいのかわからないという方は、まずこの3つに分類される施策を恒久的に実施し、将来のセクハラ・パワハラ問題の防止に努めていきましょう。

具体的な施策の解説に入る前に、セクハラ・パワハラなどの対策において、どこまでが法的に定められた義務であるかを確認しておきましょう。
セクハラやパワハラ、妊娠等に関するハラスメントについて、それぞれのハラスメントそのものを明確に禁止する規定や直接的な罰則などはありません。しかし、ハラスメントは従業員の意欲・自信や心身の健康を損なう恐れがあるだけでなく、そういった問題を放置していたなどの場合、企業側が法的責任を問われることがあります。
男女雇用機会均等法および育児・介護休業法においては、職場において妊娠等を理由とする不利益取扱いを禁止。さらに、セクハラや妊娠等に関するハラスメントを防ぐため、以下のような雇用管理上必要な措置をとることが事業主に対して義務付けられています。
【方針の明確化および周知・啓発】
セクハラ・妊娠等に関するハラスメントの内容とそれを忌避する方針、加害者は厳正に対処することなどを明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発する。
【相談等に対して適切に対応するための体制整備】
相談窓口をあらかじめ定め、担当者が状況に応じて適切に対応できるようにする。また、ハラスメントに該当するか否かはっきりしない場合も、広く相談に応じる。
【事後の迅速かつ適切な対応】
申し出があった場合は事実関係を迅速かつ正確に確認し、事実であれば速やかに被害者に配慮した対応を行う。また加害者に対しても適正な対処を行い、再発防止の措置を講ずる。
【妊娠等に関するハラスメントの原因・要因を解消する措置】
事業主や妊娠等した労働者、周りの労働者の実情に応じて、業務体制の整備などの必要な措置を行う。
【上記と併せて講ずべき措置】
相談者・加害者のプライバシーをしっかりと保護する。相談や事実確認への協力を理由として不利益取扱いをしてはならないことを定め、周知・啓発する。
上記5つの措置は、セクハラや妊娠等に関するハラスメントを防止するための法的な義務。実施していない場合は、早急に対応しなければなりません。
これらを踏まえ、以下で紹介するようなハラスメント予防の施策を行なっていくことで、将来的に起こりうる問題のリスクを確実に下げることができるでしょう。施策1・2・5は上記の義務に関連する項目ですので、特に重要度が高くなっています。
本書では数々の調査結果を見ることができますが、多くの場合、社員が仕事をするうえで非常に重要だと感じていることに、企業や管理職が興味を示さなかったり、協力的でなかったりすることが、退職を考えるきっかけとなっています。
しかし、管理職側では、そのことに気づいておらず、調査でも9割近くの管理職が部下の退職理由を給与のせいだと思っていました。退職者を減らすには、まず社員に声を掛け、話を聞くことから始める必要がありそうです。
それでは「7つの隠された退職理由」への対策法を見てみましょう。
これも非常に効果がある施策。いわゆる、内部通報制度の整備です。本社に事務局と専用の社内ホットライン(e-mailアドレス、直通電話)を設定し、セクハラ・パワハラ問題が発生したとき、被害を受けた社員が直接相談・通報できるようにします。
できれば事務局は女性主体で、通報用のホットラインは「通常用」(男女共用)と「女性専用」の2本を準備しましょう。そして、匿名性を確保したうえで、ホットラインに挙がった情報が、経営陣や顧問弁護士・社労士までスムーズに直結するような連絡体制にしておくことが重要です。
会社で経営品質に関する企業資格(ISO9001等)を運用しているのであれば、人事部主体での内部監査の強化や各部署での自主点検表の記入・アンケート調査、ヒアリングの仕組みづくりを進めていくと有効です。
企業資格を運用していない場合も、人事部主体での監査体制を強化することで、同じ効果が得られるでしょう。
内部通報の事実確認結果としてや、評価査定前タイミングで、定期的にパワハラ・セクハラに関する社員向けアンケートを取り、社員評価制度と連動させるのも非常に効果があります。
ただしこの場合、何をしたらどの程度評価に影響するのかという点を、社員研修や説明会の場で事前にわかりやすく説明しておく必要があります。
パワハラ・セクハラについて、社内ルールや規則・仕組みを変更したり、研修を実施したりした際は、必ず社内での周知を徹底しましょう。グループウェアの掲示板や各種会議、朝礼などで、「しつこい」と思われるくらいに徹底的かつ定期的に告知を行うと、しっかり意識付けできます。
セクハラ・パワハラ防止のために、定期的に社員研修を実施するのも効果的です。個人情報保護・情報セキュリティ系のコンプライアンス研修と一緒に実施してみてもよいでしょう。
同業他社での実際のパワハラ・セクハラ事例を取り上げ、社員へ“自分事”として認識させます。また、管理職向けと一般社員向けに分けて開催し、それぞれの立場・目線に応じたコンテンツを作り分けるなどの工夫を凝らすことで、効果が最大化できるでしょう。
既存社員だけでなく、これから入社してくる中途・新卒の新入社員にも気を配りましょう。大切なポイントは、新入社員研修で説明するだけでなく、入社説明会や採用面接の段階から何度も念押ししておくこと。こうすれば、確実に「セクハラ・パワハラ」に対する意識向上が図れます。

上記7つの施策については、できるところから順番に手を付けていきたいところですが、最後に大前提として、必ず押さえておきたい2つのポイントを挙げておきます。
- 必ず経営幹部の協力を得て実行すること
- 長期での取り組みを実施すること
セクハラ・パワハラをなくすためには、基本的に若手社員から管理職以上のシニア社員まで、全従業員に対して呼びかける必要があります。ですから、指示・対策を徹底して浸透させるには、経営トップの協力が前提となります。面倒でも、ひとつひとつの施策に関して、必ず経営層と密に連携を取ったうえで進めていきましょう。
また、セクハラ・パワハラ対策は、短期間でやめてしまってはいけません。いったん仕組みとルールを作ったら、繰り返し粘り強く社員に教育・啓蒙を続けていくことで、予防策が機能していきます。
セクハラ・パワハラ癖のある要注意社員だけでなく、それ以外の社員全員が問題意識を共有しないと、予防は有効に機能しないのです。ぜひ長期計画を立てて、じっくり腰を据えて実行してみてください。
日本で最初にセクハラ防止を定めた法律は、1985年に制定された「男女雇用機会均等法」です。第11条に、「セクシュアルハラスメン卜防止の方針を明確にするなどの雇用管理上必要な措置を講じなければなりません」という内容が明記されているのです。
今から30年も前に法制化されているにもかかわらず、あまり具体的な対策が打ち出されないまま残っている場合も多いセクハラ問題。パワハラ問題についても、セクハラ同様、その専門用語すらなかった頃から、企業内ではしばしばトラブルになってきました。
人間関係や人間の“心”に根ざした問題である「セクハラ・パワハラ問題」は、問題自体は見えやすいものの、取り除くことは非常に困難。だからこそ、さまざまなレベルでの施策を粘り強く、長期的に実施していく必要があるのです。
- 労務・制度 更新日:2018/08/02
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