法政大学 キャリアデザイン学部の田澤 実 准教授に執筆して頂きました。
■はじめに
近年、日本は人口減少を迎え、各都道府県で、人材を呼び込もうとする取り組みが活発になってきています。それらの中には、大学生が関わるものもあります。例えば最近では、鳥取県や和歌山県で、県内で就職をする学生の奨学金返還を支援するという報道がありました(注1、注2)。このようなことからも、大学生の地元志向やUターン就職の傾向を把握することは意義あることだと思います。まずはどの程度、人口移動があるのかを確認します。今年2月に総務省が公表した『住民基本台帳人口移動報告 平成26年(2014年)結果』によれば、2014年における日本人の都道府県間移動者数は225万9,688人でした。年齢層を見てみると、「高校から大学」に進学すると考えられる18歳(72,111人:3.2%)と、「大学から企業」に就職すると考えられる22歳(131,460人:5.8%)が突出して多いという特徴があります。これは高校や大学を卒業した後に都道府県間の移動をする若者が多いということです。
今回のコラムでは、「高校から大学」と「大学から希望勤務地」という2つの都道府県間の移動に注目しながら、大学生の地元志向について考えてみたいと思います。
なお、「地元」については様々なレベルで解釈が可能ですが、今回のコラムでは、都道府県レベルで捉えることにします。
◇用いるデータ
今回用いるデータは、「2016卒 マイナビ大学生Uターン・地元就職に関する調査」です。調査時期は2015年4月で、大学4年生のみ6,175名で集計しました。◇用いる調査項目
今回は、以下の3つの項目を使って分析したいと思います。- 卒業した高校の所在地の都道府県を選択してください。
- 進学した大学の所在地の都道府県を選択してください。
- 最も働きたいと思う勤務地を都道府県一覧から1つ選択してください。
今回の分析では、1)の高校所在地を「地元の都道府県」(以下、県と表記)とすることにします。高校へは実家から通うことがほとんどであるためです。
「1)高校所在地」と「2)大学所在地」が同じであれば、「地元に残留した」と解釈します。異なっていれば、都道府県間の移動があったものとみなし、「地元を離れた」と解釈します。 また、「2)大学所在地」と「3)希望勤務地」が同じであれば「大学所在地と同じところで就職を希望」していることを意味し、回答が異なれば「大学の所在地以外での就職を希望」していることを意味します。
なお、「3)希望勤務地」は、あくまで希望ですので、実際にどこに移動するかは就職してみないと分からないのですが、まず、どれだけの希望があるのかを明らかにすることは、各都道府県において人材を誘致する施策を検討する際には有効なデータになると期待できるでしょう。■分析結果
<1> 回答者について
大学生の回答は6,175名でしたが、今回の分析では「高校所在地が海外」または「希望勤務地が海外」である94名を除いた6,081名分のデータを分析対象とすることにします。文理と性別の内訳は、文系男子1,250名、理系男子772名、文系女子3,155名、理系女子904名でした。<2> 3つの項目の基本統計
上述の3つの項目、1)高校所在地、2)大学所在地、3)希望勤務地について、県ごとに人数を求めました。それぞれの上位15県を表1に示します。表1:各項目の上位15県の人数および割合
※3項目すべてにおいて上位15位以内に入った県に網掛けを施した。

<3> 6つの移動パターン
上記は、項目それぞれを単独で分析した結果でした。この分析では、高校 ⇒ 大学 ⇒ 希望勤務地という一連の流れで、個人個人にどのような移動(および移動希望)があるのかが分かりません。そこで、図1のような枠組みを設け、「高校卒業後の大学進学」および「大学卒業後の就職」に伴う都道府県間の移動の有無によって、6つのパターンを想定します。(これは、筆者らの研究(注4)を参考にしています。)以下、見やすさを重視するために、それぞれのパターンについて①から⑥の番号を振りました。図1: 6つの移動パターン

まず、高校所在地と大学所在地が同じ県の場合、地元の大学に進学したとみなします。そして、そのまま希望勤務地まで同じ県であったパターンを「①完全地元残留組」と呼ぶことにします。ただし、この3つの県がすべて東京であるときは他と事情が異なると想定できるため、特に「②東京組」と呼び、他の「①完全地元残留組」と分けて捉えることにします。
次に、地元大学に進学したものの、就職のときには地元の県を離れることを希望しているパターンを「③社会人デビュー組」と呼ぶことにします。また、高校から大学に進学する際に、地元を離れて、県外に進学し、そのままその大学所在地での就職を希望する場合を「④大学デビュー残留組」と呼ぶことにします。
最後に、高校から大学に進学する際に、地元を離れて県外に進学し、就職の際にその大学所在地ではない県に就職を希望するパターンを考えてみましょう。例えば「北海道 ⇒ 東京 ⇒ 北海道」のような移動であれば、これはUターンを意味します。すなわち、上記の設問の「1)高校所在地」と「3)希望勤務地」が同じ県で、「2)大学所在地」だけ異なるパターンです。これを「⑤Uターン就職組」と呼ぶことにします。
ここまでの5パターンはイメージがしやすいかもしれませんが、データを見てみるとこれら以外のパターンがあります。それは、「北海道 ⇒ 東京 ⇒ 大阪」のように、上記の設問がすべて異なるパターンです。これを「⑥流動組」と呼ぶことにします。
<4> 6つの移動パターンの人数とその割合
6つの移動パターンの人数とその割合を表2に示します。最も多いのは、「①完全地元残留組」の1,625人(26.7%)であり、その次に多いのは、「⑤Uターン就職組」の1,292人(21.2%)でした。
どれだけの学生が地元就職を希望しているのかに注目すると、ひとまずは、今回の分析で「①完全地元残留組(26.7%)」「⑤東京組(7.8%)」「⑤Uターン就職組(21.2%)」の3つが該当していると思われます。合わせると50%を超えています。それだけの学生が地元就職を希望していると解釈できます。
それ以外のパターンについてはどのように解釈が可能でしょうか。今年の4月に文科省が発表した「奨学金を活用した大学生等の地方定着の促進について(通知)」では、地方大学等に進学する学生に対し、無利子の奨学金の地方創生枠への推薦を行い、地元企業等に就業した者の奨学金返還を支援するという方向性が示されています。この取り組みはこれから始まるところですが、「大学進学に伴ってその県に移動してきた学生がそのまま定着する」という視点は、「④大学デビュー残留組(20.0%)」が近いと思われます。
各都道府県の取り組みは、高校、大学、就職先の県が完全に一致する地元残留か、高校と就職先の県が一致するUターン就職に注目しがちであると思われますが、このように、大学進学時に他県から招いた学生が、そのまま残留するという視点は、今後、もっと注目しても良いと思われます。
この「④大学デビュー残留組(20.0%)」に加え、「③社会人デビュー組(10.4%)」と「③流動組(13.8%)」に該当するパターンが多い県は、若者が流出していくことが予想されます。もちろん、今回のデータでは、就職先は希望レベルなので、実際の移動は異なることが予想されます。しかし、希望レベルでも人気が低ければ、それは無視できない結果といえるでしょう。
「①完全地元残留組」が多いのは、北海道、東海、九州・沖縄でした。これらのエリアは、多くの学生にとって魅力的であり、地元に残りたいと思わせていると解釈もできますし、一方で、大学進学時の時点で何かしらの理由で都道府県間の移動がしにくい若者が多い可能性もあります。
「③社会人デビュー組」が多いのは、関西と九州・沖縄でした。大学進学するまでは、地元で事が足りているものの、就職時には離れたい学生が多いエリアと解釈できます。地元の大学が質的ないし量的に一定のニーズを満たしているものの、地元の雇用環境がニーズを満たしていないのかもしれません。
「④大学デビュー残留組」が多いのは、関東でした。大学進学時に地元を出て、その出てきた先で就職を考えている学生が多いということです。先述の「大学進学に伴ってその県に移動してきた学生がそのまま定着する」ことを目指すというのは、他のエリアでも採りうる施策だと思いますが、現段階の学生の希望では、まだそこまで至っていないのかもしれません。
「⑤Uターン就職」が多いのは、北陸、関西でした。可能性としては、大学のインフラ面が地元ではニーズを満たしきれていないために、他県に進学しているのかもしれません。ただ、他県に進学しても、地元に戻りたいと思う学生が多いと解釈できます。地元就職を推進していくには、これらのエリアの特徴は何なのか明らかにしていくことが重要だと思います。
「⑥流動組」が多いのは、東北、甲信越、四国でした。なかなか解釈がしにくいのですが、高校から大学、大学から希望勤務地という2つの移動が隣接県の移動なのか、東京など都市圏への移動なのかなど詳細を見ていく必要があると思います。また、これらのエリアはなぜ大学も就職も地元でないのかという視点も含めて検討してみると面白いかもしれません。
それ以外のパターンについてはどのように解釈が可能でしょうか。今年の4月に文科省が発表した「奨学金を活用した大学生等の地方定着の促進について(通知)」では、地方大学等に進学する学生に対し、無利子の奨学金の地方創生枠への推薦を行い、地元企業等に就業した者の奨学金返還を支援するという方向性が示されています。この取り組みはこれから始まるところですが、「大学進学に伴ってその県に移動してきた学生がそのまま定着する」という視点は、「④大学デビュー残留組(20.0%)」が近いと思われます。
各都道府県の取り組みは、高校、大学、就職先の県が完全に一致する地元残留か、高校と就職先の県が一致するUターン就職に注目しがちであると思われますが、このように、大学進学時に他県から招いた学生が、そのまま残留するという視点は、今後、もっと注目しても良いと思われます。
この「④大学デビュー残留組(20.0%)」に加え、「③社会人デビュー組(10.4%)」と「③流動組(13.8%)」に該当するパターンが多い県は、若者が流出していくことが予想されます。もちろん、今回のデータでは、就職先は希望レベルなので、実際の移動は異なることが予想されます。しかし、希望レベルでも人気が低ければ、それは無視できない結果といえるでしょう。
<5> どのエリアにどのパターンが多いのか
最後に、これらの移動パターンは、エリアによってその割合が異なるのか調べてみたいと思います。47都道府県をここでは、以下の10のエリアに分類しました。 ●北海道 ●東北 ●関東 ●甲信越 ●東海 ●北陸 ●関西 ●中国 ●四国 ●九州・沖縄 このエリアごとに、先ほどの移動パターンがどれだけあるのか確認するために、それぞれの人数の割合を求めました(図2)。なお、「東京組」は東京都だけになるので、ここでは、「完全地元残留組」と合わせることにしました。その上で統計分析(注5)を行い、統計的に多いと解釈可能な箇所に赤字を施しました。図2 エリアごとの移動パターンの割合
※統計的に多いと解釈可能な箇所に赤字を施した。


「③社会人デビュー組」が多いのは、関西と九州・沖縄でした。大学進学するまでは、地元で事が足りているものの、就職時には離れたい学生が多いエリアと解釈できます。地元の大学が質的ないし量的に一定のニーズを満たしているものの、地元の雇用環境がニーズを満たしていないのかもしれません。
「④大学デビュー残留組」が多いのは、関東でした。大学進学時に地元を出て、その出てきた先で就職を考えている学生が多いということです。先述の「大学進学に伴ってその県に移動してきた学生がそのまま定着する」ことを目指すというのは、他のエリアでも採りうる施策だと思いますが、現段階の学生の希望では、まだそこまで至っていないのかもしれません。
「⑤Uターン就職」が多いのは、北陸、関西でした。可能性としては、大学のインフラ面が地元ではニーズを満たしきれていないために、他県に進学しているのかもしれません。ただ、他県に進学しても、地元に戻りたいと思う学生が多いと解釈できます。地元就職を推進していくには、これらのエリアの特徴は何なのか明らかにしていくことが重要だと思います。
「⑥流動組」が多いのは、東北、甲信越、四国でした。なかなか解釈がしにくいのですが、高校から大学、大学から希望勤務地という2つの移動が隣接県の移動なのか、東京など都市圏への移動なのかなど詳細を見ていく必要があると思います。また、これらのエリアはなぜ大学も就職も地元でないのかという視点も含めて検討してみると面白いかもしれません。
■最後に
今回はひとまずここで分析を終えますが、さらに詳しく分析するには、他の項目との関連を見る必要があります。それはまたの機会にしたいと思います。なお、政府は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において、自県大学進学者の割合は平均36%、新規学卒者の県内就職の割合は平均80%を目指すという方向性を示しています。これには、様々な要因が関係しますが、今回のコラムでは、学生の希望レベルがどのようになっているのかを一定程度明らかにしたことは意義あることであると思われます。(注1)
鳥取県内就職で奨学金返還助成 成長分野の人材確保へ
(産経ニュース)2015年6月8日http://www.sankei.com/region/news/150608/rgn1506080035-n1.html
(注2)
Uターン就職促進へ奨学金の返還を支援 和歌山県(紀伊民報)2015年2月28日
(注3)
各都道府県の大学数については、文部科学省『学校基本調査-平成26年度(確定値)結果の概要-』を参照した。
(注4)
田澤実・梅崎修・唐澤克樹 2013 進学と就職に伴う地域間移動-全国の大学生データを用いて- サステイナビリティ研究,3,p151-167.
(注5)
カイ2乗検定および残差分析を行った。プラスに有意であった箇所を中心に解釈をした。
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